第8話 湊の憂患

___ええと、どうしよう。

まず、これは本当なのか?

凜香が?

まさか・・・。

凜香は、性根は悪いやつかもしれないが、そうなるのは悲しいことに俺の前だけだ。


玲央をちらりと見る。

だが_あいつまで巻き込むわけにはいかない、と不意に思った。

___これは、俺と栞里で解決するべきだ。

あいつは、多分俺に気を使って言ってくれただけなのだろうから。

玲央は、昔からそういうやつだった。



というわけで、俺は今栞里のクラスの前にいる。

心臓がバクバクだ。

自分から彼女を尋ねるのは、はじめてな故。

そして何より、自分はコミュ症__


「あ、あにょっ・・・」


不審げな目をして通り過ぎていく男子生徒。

___無念だ。


「あのぉー、すいませぇん・・・」


恐る恐る近くの女子生徒に声をかけると、その生徒は笑顔で振りむいてくれた。

それだけでもうなんか嬉しい。


「何ですか?」


「あ、あのぉー、ええと、永田栞里サンをお呼びしてくれますでしょうか・・・」


「ああ、永田さんねー。ちょっと待っててください」


ぱたぱたと駆けて行く女子生徒。

それをぽわわわーと見守っていると、程なくして栞里が走ってきた。


「な、なに?どっ、どうかしたっ?」


心なしか顔が赤い気がする。

しゅーしゅーと湯気が出てきそうだ。


「あ、あの、今日そんな暑い?」


「はっはあっ!?別に暑くなんて・・・え、もしかして私顔赤い?赤いの?」


「え、まあ、若干・・・」


「な、何でもないんだからね!それで今日はっ、どうしたの?」


「え、あ、ああ・・・あの、うちらって・・・何部になる予定なんでしょう?」


「クイズ研究部でしょ?」


「違いますねー。お悩み相談部です、表向きはー。ということで、星来さん?って人からお悩み預かっちゃってさぁ・・・なんか望月君のほうが向いてるとか何とか・・・」


「へー・・・。言っとくけど、私もそんな素質ないわよ」


「デスヨネー・・・」


俺もこのヒトがお悩み相談に答えているところは想像できない。

間違って相談でもしてみろ、そうしたら

『え?なぁにバッカじゃないの?そんなことで悩んでんのー?』

と一蹴されそうだ。


「まあ見せてよ・・・なになに・・・凜香・・・ええと、湊くんのクラスの子だよね?」


「あ、ああ。ちなみに幼馴染・・・」


「嘘、マジ!?あっはは、湊くんに幼馴染なんていたんだー!他には?」


「ええと、玲央・・・?」


「う、うそ!!玲央くん!?きゃあああああ!!かっ、カッコいいよね!ねっ!?」


「あ、ああ、そうなのかな・・・?」


「うわああ・・・羨ましい・・・・・・あ、別にそういうんじゃないからね?別に私のタイプじゃないし!」


「いや、もうなんか遅いよ・・・」


先ほどの態度からあからさまに一変する栞里を見てため息をつく。

メンクイなんだろうか・・・。


「、、で!!ええと、どうしよう・・・部員は私たち二人しかいないわけで・・・セイは手伝ってくれなさそうなの?」


「せ、セイ?」


「せ、っ、星来!のこと!」


「あ、ああ・・・うん、まあ」


セイ、と呼んでいるのか。

それほど下級生と仲が良かったのだろうか?

そしてそう言えば、こいつは玲央が、俺たちの部活に入ってくれそうなことを知らないわけだ。

まあ、言えば喜びそうだが今はいい。


「んー、どうしよう・・・どうしようなぁ・・・今日、バスケ部覗いてみよか?」


「あ、ああそうするか・・・」


あまり気が進まない、栞里との約束が決まってしまった・・・。






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