第5話 お悩み相談部

「二人ぃ?それに、クイズ研究だとぉ?バカにしてんのか!!」


はい、そうですよね。


反対の立場だったら、俺だってそう言います。



あの後、玲央に泣きつきながらも栞里に引きずられ、教務室までやってきた。

クイズ研究部を、成立しに。

だが、案の定怒られている。

しかし栞里は想定内だというように、ニコニコしていた。


「してません。二人でやっていく自信があるんです!」


いや、俺はないんだけど。

顔だけの唯我独尊の少女と二人っきりで?

無理無理!!

栞里の評判は、俺の中ではどんどん落ちて行っている。

___何なんだ、この子・・・。


「君には?自信があるのかね?」


理事長さんに話題を振られ、びくっとする。

いきなり振ってくるなよ!


「ええと・・・その・・・」


迷っていると、わき腹に鋭い痛みが走った。

栞里がにこやかに、こちらを見もせずに俺の脇腹をつかんでいる。

もうその笑顔は、悪魔の笑顔にしか見えない。

俺は涙をこらえながら、破顔した。


「もちろんです!いやぁ僕クイズ大好きなんで、栞里さんと一緒に活動出来たら、とぉっても嬉しいなぁと思って…」


キリキリキリキリ。

脇腹の痛みが倍加する。

理事長はため息をついた。


「んー・・・それなら、わしにちょっと案がある・・・」


「な、なんです!?」


栞里が身を乗り出す。

どうやら瑞祥だと思っているらしいが、俺にはそうは思えない。


「あのなぁ・・・『お悩み相談部』という部活があるんじゃ」


「お悩み相談部?」


俺が繰り返すと、理事長はため息をついた。


「部員が五人集まれば、部として成立できる・・・まともな部活ならじゃけどな。クイズ研究・・・とかじゃなければな!だが、その部には、部員が一人しかいない」


「君たちより1コ下の、高1の子なんじゃがな?どうしてもと言ってきて、聞かなくてなあ・・・。しょうがなく認めたんじゃが・・・」


「その子、可愛いですか?」


「ほ??」


「可愛いですよね?」


「ほ・・・・・」


「押されたんですよね?その子の可愛さに・・・それしか、理事長・・・あなたが押される理由は考えられない!!ああ、女の子の可愛さは正義ですからねぇ!!」


「な、なぁ・・・」


ギリギリギリギリギリッッ!!!


「んぎゃああぁ!?」


先ほどからだまっていた、栞里さんに脇腹をつねられた。

とてつもなくイタイ。


「あのー・・・それで?なんですか?」


笑顔がコワイ。

ホントなんなんだこの子?


「じゃ、じゃから・・・その子を、クイズ何とか部に入部させ、表面は『お悩み相談部』と名乗ってくれれば・・・」


「というと?」


「まあ簡単に言えば、お前らがお悩み相談部に入ってくれればいいわけだ」


「入るかぁああああッ!?」


俺は思わず叫ぶ。


「クイズでもなんかあり得ないのに、お悩み相談!?俺に一番向いてないジャンルっすね!!」


「いや、表面が『お悩み相談』なだけで、そのたった一人の部員が納得してくれれば、内ではクイズ活動をしても良いと言っておる」


「ああ、それならいいっすけど・・・ってか、よくもないんだけどなぁ!(泣)」


もう、自分が何をしたいのかわからなくなってきた。

だって、そうだろう?

表向き、俺は『お悩み相談部』に入ったことになるわけだ。

中身はクイズだとしても、もうそんなのは誰も知らないわけで。


「なあ、栞里くん?そろそろ・・・潮時じゃないかね?」


栞里の顔が、ハッと強張ったものになる。

理事長の悲しそうな視線に耐えられなくなったのか、俯いてしまう。


「でも・・・私・・・」


星来せいらも悲しがっていたぞ?だから、一人であんな部を立ち上げて・・・」


俺は全く会話について行けない。

それより、今まで見たことのない、栞里の悲しげな表情に目を奪われる。

戸惑いが、隠しきれていなかった。


「すみません・・・ちょっと、考えさせてください・・・。でも、そうしないと、部は成立しないんですよね・・・?」


「ああ、あと2人部員を集めて、全部で5人にしてくれれば、考えてやらんことも無い」


「そう、ですか・・・」


栞里は一礼すると、すたすたと俺を置き去りにして去って行ってしまった。

俺はあたふたするばかりで、何もできない。

理事長に耳打ちする。


「あの、栞里さんとせい、ら?さんの関係とは」


「それは、、わしが言うべきことじゃないからな。自ずとわかるであろう」


「そ、そうですか・・・」


俺はもう何も言えず、閑寂とした栞里のもとに駆け戻るしかないのだった。



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