第4話 湊の昼休み③

「ねえ、望月君…だよね?ごめん、ちょっと来てくれるかな?」


そう栞里に言われ、彼女の後をひな鳥のように着いていく。

周りの視線がレーザーだったとしたら、俺は間違いなく黒焦げだ。

ひそひそと聞こえてくる内容は、教室で繰り広げられていたものとほぼ同じ。

頭を抱えたくなる。

だが、栞里は注目を浴びることには慣れているのだろう、のんびり口笛など吹いている。



たどり着いた場所は、体育館の裏だった。

心臓がバクバクと高鳴っていく。

体育館裏と言えば・・・絶好の告白場所・・・。

そんな文章が頭をよぎり。

ブンブンと頭を振る。

余計な妄想をするな、湊!!


栞里が、くるりと振り返る。

その頬は、ピンク色に蒸気していて。


改めて己の置かれた状況に、拍手したくなる。

ああ、こんな美少女が俺の目の前に!!

ついにモテ期キタアアァァ__っ!!


「あの、ね・・・望月君」


「なっ、何でしょう??」


「ちょっと、私に付き合ってくれない?」


「はい喜んで・・・え?」


速攻で返事をしかけ、彼女の言葉をリピート再生する。

ぽち。



『ちょっと、私に付き合ってくれない?』



ぽち。

私 


「あの、、、、、?」


最高に嫌な予感がするのだが、どうすればいいのか。


「あっ、ちょっと話飛んじゃったね!!ごめんごめん。私よく話わかんないよーって言われんの。語学力がないんだよねー。きっと。私としては一生懸命喋ってるつもりなんだけどぉ。やっぱ国語力って必要だよね!でも私、どちらかといえば数学の方が得意で…」


「あ、あのー?話、ズレてきてません?」


「はっ!!」


栞里は目を見開いた。

プルプルと首を振る動作が可愛らしい。


「ごめんごめん!で、ちょぉっと私に付き合ってほしいんだぁ?」


「え、ええと?それは?どういう??」


「あのねぇ、私、クイズ研究部に君を誘おうと思ってるんだ♪」


・・・。


・・・・・・。


ええと、俺、どうすればいいん?


「くいずケンキュウぶ、ですか?」


「うん♪」


俺は、それじゃあこれで。と一言言って走り去りたいという願望に囚われた。

いや、誰もがそうなるだろう。

___ウソだろ!?この美少女、そんな趣味があったのか!?


そして何故、俺なんだ!?


「あのぉ、望月君って、クイズ好きなんだよね?」


「は??」


俺は、きっと世界中で一番間抜けな顔をしているだろう。

だって、だ。

なぜ俺が、クイズなんぞを愛さなければいけないのか。


「あのー、それ、きっと、多分、ってか絶対人違いっす。すいません、じゃあ俺はこれで・・・」


そそくさと後ろを向くと、その襟首をグイッと掴まれる。

息ができない。


「…ぁッ……くぁあッ…」


「そ、そんな訳ないでしょ!!私の情報網が、間違っているとでもッ!?」


「……ぁあ……シヌ…」


「最近、新一年生歓迎会で、クイズ大会あったでしょう!?そん時!そん時、あんたソッコーで答えてたじゃない、あの最終問題__ッ!!」


俺は、もうろうとした意識の中で思い出す。

新一年生歓迎式。

行われたクイズ大会の幹部だった凜香に、プレ問題を見せられたのだ。

思わず唸ってしまうほど難しい問題。

誰が考えたのかと聞くと、誇らしげに自分だと言っていた。

だが、急に心配になったらしく、俺に見せてきたという訳なのだが。

まさかまさかの、プレ問題だったはずのその問題が、本番にも出たのである。

まあ、俺に見せてきたくらいだから、実際に使うのだろうとは思っていたが、一字一句違わなかった。

周りが悩んでいる。

悩んでいる。

・・・耐えられない。

___俺は答えを知っているのだ!!


『お、おお・・・2年生から手が上がりました!ええと・・・餅塚、くん・・・?』


『望月です!!!』


『すいません、望月君!それでは答えをどうぞ!?』


『【ソング】です!!』


『うおっと、大正解__!!すげえ!これは素晴らしい___!!』


わあっと沸く歓声。

俺は誇らしい気持ちで、そこに立っていたのだ。

凜香には、あとで殴られたが。

あの気持ちは、忘れてはならないものだ!!

だ、が。


「ぐえぇ・・・苦しい・・・許して・・・俺、もとから、あの答えを、知ってたんだ・・・」


「な、何ですってぇ!?」


「ほんとなんだ・・・ってか、まずその手を離せ!!」


ふっと襟元が緩み、俺は解放される。

ぜぇぜぇと肩で息をしていると、栞里が後ろにずりずりと下がっていくのが見えた。

目には大量の涙が溜まっている。


「う、うう・・・ごめんね?今の話、無しでも、いいよ・・・?私は・・・私は、望月君といっしょに、クイズやりたかったけどなぁ・・・!でも、違ったんならしょうがないよねぇ・・・!ごめんなさい・・・さよならぁ!!」


「ちょ、ちょっと待ってくれぇ__!?」


「なに?」


ほら、分かってたよ。

予想はついてたよ。


泣いてねぇ。


「あのぉ・・・そんなに俺に入ってほしいっすか??」


「うん、そりゃもちろんっ♪だって望月君、なんか面白そうだしっ♪」


俺は、帰宅部だ。

運動神経皆無、文科系の才能も皆無。

だが、クイズにはそのどちらもいらないではないか?

一応、頭脳だけには自信がある。


「えっとー、、じゃ、俺、入ってもいいっすよ?」


こんな美少女に誘われているのだ。

もう、それだけで俺はもうなんか満足なのだ。

こんな機会、もうあるか?

ない。

断っていいのか?

よくない。


俺は、クイズ研究部で青春をしてみせる!!


「ほんと!?」


「ああ!よろしく、栞里・・・って、タメでいいんだよな?同学年だし・・・」


「うん!私も、望月君じゃなくて湊くんって呼ぶね!」


湊くん。


ああ、なんて良い響きなんだ。

もともと自分の名前はそれほど好きではなかったが、今はじめて好きになった。


「じゃあ、放課後クイズ研究部、立ち上げるために申請に行こうね♪二人で!」



・・・早くも後悔しそうだった。



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