第3話 湊の昼休み②

_____ここからである。イレギュラーは。


「も、もっ・・・」

「うぅ・・・なんでだ・・・なんであいつなんだぁぁ!?」




「お、この肉美味しい」

「え、ほんと!?ちょっと頂戴・・・あ、ほんとだぁ!あはは、美味しい~」


付き合ったばかりの初々しいバカップルのような会話をする、俺たち。

別に気にしない。



「も、もっ・・・」

「ありえない・・・くっそぉ!!一生恨んでやる!!」




「あ、なあこの後どうする?」

「図書館でも行くー?」


昼休みの予定を立て。


「望月いいいぃぃ____ッ!!」


「ぎゃあああああああああっ!?!?」


突如上がった大声に、俺は飛び上がった。

___何だ何だ何だ!?

今、大声で名前を呼ばれた気がするんだが!?


「も・ち・づ・き・くぅん?」


クラスの男子が数名が、後ろに立っている・・・のだろう。

振り向きたくない。

なんとも不穏なオーラ。

背景がどす黒く見えるんですけど!!

恐る恐る後ろを向くと、案の定ニコニコと笑った男子がいる。

その、笑顔は、もう、デススマイル__


「ひいいいっ!?すいませんごめんなさいごめんなさい何かよく分かんないけどごめんなさいいいいいいいぃぃ!?」


「ふふっ、別にいいんだけどよぉ?あの永田栞里様がお呼びだぜ?ほら、そこに・・・」


ナガタシオリ。


あの美少女?

学校1の美少女?

俺には最も似合わなくて、きっと一生喋ることも無かったはずの人物が、今、俺を迎えに来ていると?

ガタガタ震えながら、戸口を見ると。

少し癖の入った(寝癖か?いや、アイロンでもしてんのか?)茶髪が、さらりと揺れる。

すらりと伸びる真っ白い手足。

くりっとした瞳が、俺を捉える。

その赤い唇が、そっと俺の名字を刻み__


「っああああああああああ!?!?なんで!?ナンデ!?」


中学二年生、クラス替えをして間もない5月。

喋ったことも無い男子の身体を揺さぶる。


「ウソだろ!?おい!!」


「はっはっは、喜べよ望月。この状況を・・・!!」

「そうだそうだ・・・!!俺たちの分まで、ゆっくり、楽しんでこ、い・・・!!」

「ぅあああ!!森本が倒れた!!もりもとぉぉぁああああああ!!行ってきやがれ望月ぃ!」


なんだ、このカオスは。

いやまあ、男子たちが犇めく状況だ。

当の栞里は、人差し指をくるくると髪に巻きつけたりして、阿鼻叫喚のこっちを見てもいないようだった。


「ってか、何を楽しんでくればいいんだよ!?」


俺の問いかけに答えてくれるものは、誰もいなかった。

それほどに、周りは騒がしい。

そして俺だ。

肺活量がないのか知らんが、声が小さい。

自分でもわかる。

頭がくるくるパーになりながら、なんとなく栞里を見ると。

口が動く。


『は、や、く!!』


___ぅあああ、待たせてしまっている。

頼みの綱、と思って玲央を見ても。


「ねえ、ねえ!ちょっとこれ食べてみてよ!美味しいから!」

「お、いいの?・・・・・・お、マジうめぇ!感謝!」

「あはは、だよねー」



「それ俺の弁当だわ___ッ!?」



もう、全てがバカバカしい。

どうでもいい。


「じゃ、行ってきます・・・」


ひとり呟き、俺の背後で男子たちは、涙ながらにサムズアップするのであった。


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