第3話 格闘技と文学

 それは数年前だ。道場に通って入れ墨の選手を眺めては試合に対する憧れがあった。入場曲はどんなのにしよう、とか。必殺技は何にしようかとか。でも、僕には格闘技のセンスがなかった。練習中でも、明らか実力はなかった。自分は2、3年で道場を去った。一度も試合に出ることはなく。

 文学学校で先生からこう言われた。去年の秋の入学の時である。野口さんは自分をさらけ出した。それは文学において大切なことだ、と。そう言って貰えたのだ。当時の自分は不安だらけ、人前でマイクを握るなんてアガるに決まっている。僕はそれを正直にみんなに話した。それが良かったらしかった。実際に僕は推薦を三回貰えた。いや、まだまだこれからだ。独学と学校の教えを守る。それが経験によって磨かれる。経験を笑う者は経験に泣く。これが今の自分の座右の銘だ。

 無駄なことは何一つなかった。あとになって気付く。あるのは自分の足跡。色んな足跡が、きっとそこにはあるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る