第15話ハロー非日常

「なぁ…先生、遅くないか?」

「あぁ、そうだな」

ぼぉっと外を眺めながら、隣のクルスの言葉に適当にうなずく。

一時限目が始まり5分が経過しても教師の姿は教壇にない。

クラスの奴らは楽しそうにおしゃべりしたり、暇を持て余して机に突っ伏したりとしている。

「どうしたんだろうな…やっぱり風邪か?」

「さぁな」

俺はまだ外に目をやり離さない。

(校門、開きっぱなしじゃないか…)

いつもなら授業が始まれば誰かが閉めに行くのに、今日は開いている。

こんなこと、一度も起こったことがない。

(あ、誰か来たな…)

と、思っていると校庭を横切る影が一つ。

体格のいい体育教師だ、無駄に暑苦しいことで有名。

体育教師が鍵を閉めようとするそのさなか、校門に近づく一つの影が。

ぎこちない動きでねっとりと動く影は校門の手前で停止した。

(不審者か…?)

体育教師が何か言っている、口論にでもなっているのだろうか。

が、教師の言葉にもまるで怯んでないように見える不審者。

何かに憤るかのようにその不審者を掴み上げた教師だが…

(あ、噛まれた…)

不審者に腕をかまれてしまっていた。

そのまま地面に押し倒され、不審者に覆いかぶさられてしまった教師。

(あ~あ…何やってんだよ…)

外でそんなことが起こっているのに、俺は傍観者を貫く。

非日常を望んではいるが、面倒ごとはごめんだからね。

(…って、先生、動かなくなっちまったぞ…?)

体育教師は地面に倒れて動かない。

不審者はというと立ち上がり、そのままゆっくりと校舎へと近づいていた。

何かおかしい、本能がそう叫んでいる。

俺はスマホを取り出してカメラを起動する。

ズームして不審者の姿を覗き込むと、そいつの口には赤いものがべったりと…

(血か!?)

ここにきてようやく俺は傍観者をやめた。

どくどくと心臓が高ぶる。

(まさか殺人鬼が学校に来るなんて…)

身体が震え、いやな汗が背中を伝うのを感じた。

けれど、なぜか口元には、自然と笑みが浮かんでいた。

(やべぇな、これは…)

この現状に気づいているのはきっと俺一人。

ここにいるやつらを生かすも殺すも俺次第ってか…

(つか、こっちに来るとは限らないよな…?もしかしたら、加賀美のいる校舎の方にも…)

この学園は中等部とつながっている。

もし、高等部ではなく中等部の校舎に入れば、加賀美が危ない。

加賀美の命と、ここにいるどうでもいいモブたちの命、比べるまでもない。

(加賀美…!)

俺は立ち上がり、カバンを背負う。

周りの人間の変な視線も今は気にならなかった。

「お、おいどうした、時雨…」

「クルス。やべぇ奴が来るかもしれねぇ。そうなる前に、逃げろ」

「ちょっ!?それどういうことだよ!?おい、時雨!」

言いたいことだけ言って俺は全力で教室から飛び出した。

「し、時雨くん!?」

「永遠ちゃんも!逃げて!」

背後からの言葉に適当に返して、俺は走る。

たった一人の大切な妹を、助けるために。

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