第14話異変

その日の朝は、いつもと変わらなかった。

「うん、今日もうまいな」

「もう、お兄ちゃんってば。褒めても何も出ないよ?」

「ははは」

なんて、いつも通りの朝食。

加賀美とのくだらない話と、おいしい食事。

「それじゃ、学校行こうか」

「うん、そうだね」

ドアを開けると吹き抜けた夏の温い風。

蝉の声も、眩いばかりの太陽も同じ。

自転車できる風も、何も変わらない。

今日も退屈な日常が続くんだ、なんて無意識に感じて俺たちは学校に向かっていた。

「あれ?お兄ちゃん、今日人少なくない?」

「…確かにな」

周りを見渡すと、いつもより登校している人間が少ないことに気づく。

いつもなら道いっぱいに自転車の群れがあるというのに。

今日に限っては両手で数えれるくらいの数だ。

「それに車もあんまり通らないね」

「まぁ、そうだな…」

車も危ないくらいビュンビュン通っているのに、今日はそれに注意しなくても学校に向かえている。

「あ、そういえば昨日のニュースで風邪が流行ってるって聞いたよ?」

「そうなのか?あいにく俺、昨日はテレビ見てねぇからなぁ…」

「ライブ行ってたもんね」

昨日の楽しいライブを思い出す。

その裏で風邪で苦しんでいた人がいたとは、初耳だ。

「もしかしたら新しい感染症かもって…気をつけないとね」

「マスク、買っておいた方がいいかな?」

「う~ん…確かに必要かもだけど、でも学校帰りじゃ売り切れちゃってるかも」

「あぁ~…お昼のニュース観た主婦が爆買いするかもだしな」

二人して苦笑する。

こういう時にかぎって危機感を持つ、日本人の悪いところだな、なんて思いながら。

と、適当な話をしているといつも通りの時間に学校に到着。

「それじゃお兄ちゃん、またね」

「あぁ、加賀美。頑張れよ」

「お兄ちゃんこそ。あんまり授業中寝たらだめだよ?」

「うるせぇ」

いつも通りの動作を終え、教室へと入る。

「おはよう、時雨君」

「あ、おはよう。朝露さん…じゃなかった。永遠ちゃん」

「おっ。お二人さん、朝から熱いねぇ…って時雨くんに永遠ちゃん!?お前ら何かあったなぁ?」

「どっから沸いたくそクルス」

「お熱いねぇひゅーひゅー」

「だから茶化すんじゃねぇよ。ごめんな、永遠ちゃん」

「い、いや、私はその…嫌じゃないっていうか…」

永遠ちゃんは本人を前にして嫌とか言える人じゃなさそうだし、こうやってたじろいでるのだろう。

あとで俺から永遠ちゃんの分までこのにやけ顔にお灸をすえるとして…

「あ、そうそう。さっきさ、妹から風邪が流行ってるって聞いたんだけど、永遠ちゃんは大丈夫?」

「え?う、うん…大丈夫…心配、してくれるの?」

「まぁ昨日人ごみに行ったしさ。俺は大丈夫だけど、もしどこかからもらってきてたらって思ってな」

「えへへ、ありがとう…けど、全然心配ないから」

恥ずかしそうに笑う永遠ちゃん。

隣でニタニタと笑うクルスがうぜぇ。

「風邪っていうと、このクラスの奴も結構ダウンしてるよな」

「確かに…いつもに比べると騒がしくないな…」

教室内もどこか雰囲気がおかしい。

これだけの人が休むなんて、本当に風邪かと疑いたくなる。

が、俺が心配したところで何も変わらない。

「このままいけば学級閉鎖とかあるかもな。うまくいけば休校なんてことも…」

「その分補修あるぜ?夏休みがいくらか潰れるかもな」

「うげぇ…」

そう、本当に俺はその時気づいていなかったのだ。

世界に起こり始めていた異変に。

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