第12話とあるニュース
俺たちが街で遊び、ライブを楽しんでいる間、世間はとあるニュースで騒いでいた。
「休日だというのに病院の前に並ぶ人々!謎の感染症の到来か?」
確かこんな見出しのネット記事が始まりだったと思う。
その中身は見出し通り。
日曜で休診の病院の前に、マスクをつけた人間が多数訪れたのだ。
彼らはみな寒気や体のだるさなど風邪に似た症状を訴えてやってきたようだ。
ただの風邪ならば、一日薬を飲み様子を見る、そういう人は多いんじゃないだろうか。
なのになぜ彼らは病院へ走ったのか。
それは彼らが口をそろえて言っていた、何かに噛まれた、と。
大半の連中が飼っていた犬や猫に噛まれた後、体調が悪くなったと証言している。
中には人に噛まれた、とかよくわからないことを言っている奴らもいたが。
とにかく、彼らは動物の口内から何らかの感染症にかかったかもしれないと不安になっての行動だったというわけだ。
「ペットを室内で飼っている方は、できるだけ外に出すことをお勧めします。何らかの理由で外に出せない場合、かわいそうですが口を縛るなどして噛まれないように対処していただかないことには…え?本当に感染症か?それは今から詳しい検査をしてみないとわかりませんね。とにかく、風邪に似た症状を感じた方は一日様子を見て、外に出ないようにしてください」
お昼のニュースで現れた医者はそういうことを言っていたらしい。
そういうわけで、それが今日人が少なかった理由だ。
だが、今日のニュースを独占したのはそれじゃない。
昼過ぎに突如流れたそのニュースは瞬く間に世間に広まった。
「ホームレスに噛まれた女性が搬送された病院で死亡。遺体が何者かに盗難された」
数日前、ホームレスに噛まれた女性のニュースが流れていたがその続きだ。
その女性は病院で治療を受けていたが、今日の朝亡くなったらしい。
だが、遺体が昼前にはなくなっていたという。
まるで誰かが証拠隠滅のために奪ったみたいに。
「これは医療ミスを隠すため、病院が仕組んだことですよ。病院をくまなく探せば絶対にあります!」
「いやいや、そもそもホームレスに噛まれて死亡するってどうなんですか?そこに何かしらの闇が含まれている可能性がありますね…」
「政府の生体兵器、とかね」
「SF小説の読みすぎじゃないか!」
と、午後の討論番組で取り上げられたほどだ。
実情は結局のところ何もわかっていない。
世間はこの異常なニュースに、どこか熱に浮かされたように沸いていた。
やはり誰もが、非日常を求めていたのだ。
だが、この時は誰も知らないのだ。
このニュースが世界を揺るがすほどの非日常の序章となることに。
そして、もうあのくだらない日常に戻れなくなることも。
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