第11話休日のお出かけ
妹を喰らってしまったあの夜から、二日が経過した。
あの日から俺の空腹は収まり、まるであの空腹が嘘だったかのように普通の日常が訪れた。
そう、俺が非日常に触れようとも、世界はどうしようもなく退屈な日常を繰り返すのだ。
あくびが漏れるほどの退屈さだが、今日は違う。
「まだかな、朝露さん…」
そう、今日は週末、朝露さんとのライブの約束だ。
時刻は午前10時、駅前に集合ということでやってきたのだが…
「さすがに15分前ってのは早かったか…」
あまりに楽しみすぎて家を早く出てしまった、それが誤算だったようだ。
俺は今、駅前でポツンと待ちぼうけ。
「それにしても、休日だってのに人の数が少ないな…」
せっかくの日曜日だというのに、駅周辺には人が少ない。
そこそこ栄えている街で、休日は学生やら家族連れがごった返している雰囲気があったはずなのに…
それが今は平日以下。
「ま、そんな日もあるか」
暇を持て余しているからそう感じているだけかもしれない。
俺はあまり深く考えずにぼぉっと待っていると、遠くから走ってくる人影が。
「はぁはぁ…お待たせ…朝日君…はぁはぁ…」
「朝露さん、おはよう。俺、全然待ってないから」
「え?私、遅れたんじゃないの…?」
「いや、俺が早すぎた」
「な~んだ…走ってきて損しちゃったかも…」
なんて、少し疲れた顔で笑う朝露さん。
そういえば、彼女は意外な服装をしていた。
清楚でおとなしい彼女のイメージに似合わない、ラフなシャツに動きやすそうな短めのジーンズ。
それにシューズも運動靴に近い感じだ。
「…なんか、私おかしいところある?」
「え?なんで?」
「さっきからずっと見てるよね、私の服…変、かな…?」
「いや、変じゃないよ。ただ、イメージと違うかなって…」
「ま、ライブだからね。動きやすさ重視できたんだけど…やっぱり駄目だったかな…?」
ううん、と俺は首を振る。
と、彼女はほっと胸をなでおろした。
「よかったぁ…ほんとはライブ用にするか、お出かけ用にするか迷ってたんだぁ…」
そしてにかっと笑う朝露さん。
普段あまり笑っていないイメージがあったせいか、その笑みはすごく可愛らしく見えた。
「ふふ、それじゃ、行こうか」
「切符、二人分買っておいたぜ」
「ありがとね、朝日君」
こうして俺たちの休日は始まった。
電車に揺られること1時間近く、隣の県へ。
休日だけあって人がごった返しているホームからやっとのこと抜け出し街へと繰り出した。
「とりあえず、まずはおひる食べようか?」
「早くないか?」
「そうかな?食べたいもの探してぶらぶら歩いてると結構時間たつよ?」
「…そうかもな」
確かにあまり来ない場所で何か食べようと探すのは時間がかかるものだ。
決まらないからといってチェーン店のファミレスに行くのも負けた気がする。
「じゃあ何が食べたい?」
「…そういわれると決められないな…」
「洋食?和食?中華?」
「じゃあ、洋食」
「おっけー」
「朝露さんは何がいいの?」
「私?私は朝日君と同じでいいな、なんて」
そっか、とうなずき二人で歩きだす。
そういえば加賀美以外の女の子とこうして外を歩くのは初めてかもしれない。
何故だろうか、そう考えた途端急に心臓が激しく脈打った。
このどきどきを弄びながら、30分が経過。
俺たちはおしゃれなカフェを見つけ、そこでランチタイム。
「朝日君、このオムライスおいしいよ!」
「俺のハヤシライスもうまいぞ」
「よかったぁ。当たりだったみたい」
「あぁ、そうだな」
そういいあいながらも、ふと俺はある疑問を彼女にぶつけてみた。
「そういえばさ、なんで朝露さんはロック好きに?」
「え?そうだなぁ…お姉ちゃんの影響かな」
「朝露さん、お姉さんいるんだ」
「うん。二つ上のね。お姉ちゃんがロックが好きで昔からアジカンとかイエモンとか聴いてて、私にも聴かせてくれてね」
「へぇ、そうなんだ。家族からの影響かぁ」
「朝日君は兄妹とかいるの?」
「うん、姉ちゃんと妹」
それからは家族の話で盛り上がった。
もちろん妹を食ったことは言ってない。
というか言えないだろう。
朝露さんは話してみると意外といい子で、よく笑う子なんだなぁとふと思った。
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