第8話暴走する欲求
さらに数日が経過するが、俺の食欲は収まることを知らなかった。
病的なまでの空腹はやがて、俺の理性までも崩壊させていく。
「…君…?…日…ん…朝日君!」
「…ん?あ、あぁ…ごめん…ぼぉっとしてた」
「どうしたの?風邪?最近よくぼぉっとしてること、あるよね?」
「あ、あぁ…ごめん…」
「また同じセリフ…」
朝露さんのため息混じりの言葉が胸に刺さる。
この空腹は俺の日常までも鋭利に貫き始めていた。
腹が減って、集中力がなくなってしまうのだ。
普通に会話することすら困難になるときすらある。
「本当に…大丈夫?もし厳しかったらライブも…」
「いや!ライブには行く!絶対に!」
「…無理、してない?」
「…正直無理してるかも。でも、無理を押してでも行きたい」
それを聞いた朝露さんの表情が、変わった。
いつもの穏やかなそれから、顔いっぱいに怒りをあらわにして。
まるで鬼みたいだ。
「バカ!私は朝日君を心配してるんだよ!?ライブなんてまたチケットとればいけるよ!?けど、朝日君の身体は一つしかないの!」
「…」
「もっと自分の身体のことに気を使ってよ!朝日君がつらそうにしてるの見る、私だってつらいよ…」
「…ごめん」
俺はまるで母親に怒られた子供のように小さくそうつぶやくしかできなかった。
朝露さんの言葉が痛いほど胸に刺さった。
けど、どう言えばいいのだ。
腹が減って仕方がない、きっとこの空腹を抑えてくれるのは妹だけだ、なんて言えるだろうか。
いや、どう考えても無理だ、余計に怒らせてしまうだけ。
「…そうだな。俺、早退するよ」
「それがいいよ。ゆっくり休んでね…明日は土曜日で休みだし、体調を整えるにはばっちりだよ」
「あぁ。体調良くなったらまた連絡する…」
それじゃ、と俺たちはあいさつを交わして別れた。
俺は保健室へ行き早退の許可を取る。
よっぽど弱っていたのか、俺の姿を見るなり保険医はすぐに早退の許可を出してくれた。
そういうわけで俺は家に帰ってきたのだが、やはりこの空腹は満たされない。
帰り際にスーパーで冷凍食品やインスタント食品を買い、食べたのだがそれでも空腹が紛れることはなかった。
やはりどうあがいても、俺を救えるのは加賀美だけだという事実に、思わず涙がこぼれた。
何故俺は実の妹を食わなければいけないのか。
これは神のいたずらか、世界の悪意か…
俺が何をしたというのだ…
「クソ…!クソ…!」
俺は自らの腹を殴った。
けれどそれはただ胃の中に収まったものを逆流させるだけ。
意味なんてない行為。
けれど俺はそれをせずにはいられなかった。
やりどころのない怒りをぶつける、最後の場所だったから。
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