第5話ギター弾きの少年
「おはよう、朝日君」
「あ、おはよう朝露さん」
教室に入るなり朝露さんが挨拶してきた。
自分で言うのもあれだが、あまり友達がいない俺には珍しいことだが、何とか挨拶を返すことができた。
挨拶に満足した俺はそそくさと自分の席へ。
「あ、あの…朝日君…」
「ん?なにかな?」
と、不意に後ろからかけられた声に足を止める。
「もうちょっとお話、しない?」
「あ、ごめん…」
ほんと人付き合いをさぼってたせいで感覚をつかみかねている。
朝露さんが少し怪訝な顔で俺を見ているじゃないか。
初めて話が合う盟友を見つけたのだから、こんなところで手放してはならない。
「あのさ、朝日君て、楽器とか、するの?」
「あぁ、するよ」
「へぇ…何の楽器?」
「ギター」
「やっぱりそうなんだ」
「ま、ロック好きだしね」
高1の夏休みに短期バイトを繰り返して買ったリッケンが俺の相棒。
「それにさ、俺ギタリスト目指してんだよね」
「…ほんと?」
「ほんとほんと。だから俺、専門学校に進むんだよ。つかもうAO終わって暇してるとこ」
「へぇ…すごいなぁ」
朝露さんが目をキラキラさせて俺を見ている。
ただ好きなことをやっているだけなのに、この視線が恥ずかしい。
「バンド組みたいんだけどさ、いかんせん周りにロック好きな奴も楽器引けるやつもいなくてさ…」
とは言っているが実際問題人付き合いが足を引っ張っているのは事実だが。
「私、ベース弾けるよ?」
「マジ?」
「うん。まだ始めたばっかりだけどね」
そういって恥ずかしそうに笑う朝露さん。
けどなにを恥じらうことがあるのか、誰もが皆はじめは初心者だ。
「よかったらなんだけど…朝日君とバンドしたいな?」
「…えっと、それじゃ…」
「ようお二人さん!朝から熱々ですなぁ」
「クルス!?」
と、不意に出てきて茶化した声を出すクルス。
殴りたいほどにニタニタ笑うその顔がうざい。
「ほんっと朝からお盛んなことで」
「こ、木陰君…」
「黙れクルス。朝露さんが困ってるだろ?」
「ほんとに困ってるのかなぁ、朝露ちゃんは?」
口角をあげたいやらしい笑みで朝露さんを見るクルス。
対する朝露さんはどうしていいかわからずたじろいでいる。
ここは俺が助け舟を出さなければ。
「クルス。からかうのもいい加減にしろ。朝露さんも嫌だよな?俺なんかとイチャイチャしてるって言われて…」
あ、なんか言ってて傷ついた。
けど、そうだろう?
俺と朝露さんはただのロック好きの友達、それ以上でも以下でもない。
「あ、あはは…そう、だね…」
「…ふ~ん」
小さく笑う朝露さんに、何か言いたげなクルス。
どうしたのだろうか、なぜかもどかしい。
「ま、いいや。ほら、お二人さん、もうすぐ授業だぜ?話すのもいいけど、授業にも集中しないとな」
「それ、お前が言うか?お前、毎日授業寝てるだろ?」
「俺は寝ながら授業聞いてるの」
「はぁ…ま、そういうことだから、朝露さん。またね」
バカを言っているクルスを引き連れて俺は自分の席へ。
背中に何か視線のようなものを感じたが、きっと気のせいだろう。
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