第3話妹と空腹

「はぁ…」

下校時、一時鳴りを潜めた俺の退屈は完全によみがえり、俺の身体を支配している。

暑さで揺らぐ歩道を自転車で滑走しながら、俺はまたため息。

けれどこの退屈なんて俺が現在抱える問題の前では可愛いものだ。

それは…

「腹、減ったなぁ」

過度の空腹である。

もちろんちゃんとご飯は三食食べている、それもお腹いっぱいになるくらい。

けれど、お腹が空くのだ。

これはどういうものだろうか。

食べても食べても腹が減る。

下手をすれば満腹になったすぐ後でも、腹が減ったと感じるのだ。

そして、それを顕著に感じるのが、彼女の前である。

「ただいま」

「お帰り、お兄ちゃん!」

朝日加賀美かがみ、俺の妹だ。

栗色のふわふわとした髪を後ろに束ね、愛くるしいポニテが楽しそうに動き回る。

無邪気さと幼さが入り混じった子供っぽい顔だが、その奥に感じることができる大人への成長の香り、それがまるで禁断の青い果実のようでそそる。

中二だがまだ成長の見えないぺったんこな身体、それも彼女の愛くるしさを引き出しているだろう。

「今日は早かったね?」

「まぁな。暑かったし、シャワー浴びていいか?」

「いいよ!」

空腹を抑えつつ俺は急ぎ風呂場へと。

どうしてだろうか、俺は加賀美を見ていると腹が減るのだ。

無性にあいつを食べたくて仕方がない。

加賀美はただの人間で、俺の可愛いたった一人の妹なのに。

「…考えても、答えなんて出ねぇか」

熱いお湯を頭から浴びて汗とともに邪念を流し落とす。

俺が感じるこの空腹が、どうか嘘であってくれと願うかのように。


「お、今日は豪華だな」

「そうかな?残り物で作ってみただけだよ」

「いや、でもおいしそうだ」

時は流れ夜、俺の目の前には大量の料理が並んでいた。

野菜いため、から揚げ、お味噌汁、それに卵丼。

たった二人で食べるには豪勢すぎるほどの量だ。

母さんは俺が小6の頃病気で死んだ。

父さんは俺たちを置いて仕事で海外を飛び回っている。

だがそれは俺たちの学費なんかを稼ぐためであり、決して世話を放置しているわけではない。

俺たちにはもう一人家族がいる。

朝日夏樹なつき、俺たちの姉だ。

「そういや夏樹姉、来週あたり帰ってくるらしいぞ」

味噌汁をすすりながら俺がそう一言。

「お姉ちゃんが!やったー!」

夏樹姉はルポライターとして仕事をしている。

そのため都会の方で居を構え過ごしているのだが、たまに俺たちの面倒を見るために帰ってくる。

「だから、出迎えのための料理は任せたぞ」

「は~い!」

元気な返事の加賀美、かわいい。

こんなかわいい妹を食いたいなんて思うなんて、ばかばかしい。

俺は大量の料理を胃に詰め込み、この空腹をなんとかごまかした。


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