第2話退屈とロック

「はぁ…めんどくせぇ…」

俺は校庭を見下ろしながらため息。

ようやく授業が終わったというのに、俺の気はまだ重い。

それはこの夏の訪れを感じさせる熱気も一つ噛んでいた。

俺はポケットからイヤフォンを探りよせ、そいつを耳につける。

「ふんふんふ~ん♪」

再生したMP3が俺の気分を最高に高揚させる。

ロックの音色が俺を違う世界へと引きずり込む。

やはり商業音楽とは違う、ロックンロールは俺の命の源だ。

「おい!時雨!」

「……♪」

「時雨!聞いてんのか!?」

と、ふとイヤフォンを外された。

俺を見下ろす様に立つクラスメイト兼悪友の木陰クルスの仕業だ。

生まれつきの金髪と、人懐っこいにやにやとした笑み、それに整ったきれいな顔が特徴的。

「……♪」

「おい!またイヤフォンしてんじゃねぇよ!」

「…はぁ」

けど、こいつが絡むとろくなことがないのは昔からだ。

だから無視しようとしたんだけど、どうやら今日は無視できない話題のようだ。

小学校からの付き合いだからこいつも俺のことがわかっている、だから俺にこうして執拗に絡むのは本当に大事な時だけ。

「で、今日は何の用だ?ちなみにだが週末は忙しいぞ」

「…マジ?」

「あぁ、マジ。さっき予定いれた。サバゲに誘われないためにな」

「くっそー…今回も人たりねぇってのに…つかさっきって何だよさっきって」

やっぱりか、と俺はため息一つ。

クルスは大のサバゲ好きだ。

だが周りでサバゲをしている奴らがいないとのこと。

だから昔ちょっと付き合ってかじっていた俺を誘うわけなのだが…

あいにく俺はこの7月の炎天下のもとでサバゲなんてする気はさらさらない。

もちろん用事は大ウソ。

「って今回は違うっての!」

「…は?じゃあ何?金は貸さねぇし、昼飯も分けてやんねぇぞ」

「だから違うっての!ちゃんと聞けよ!」

「…はいはい」

面倒くさいが聞くしかないか、と俺はクルスの話に耳を傾ける。

「お前、ロック、好きなんだよな?」

「あぁ。てかそんなこと聞くためか?俺がロック好きってことは昔から知ってるだろ?」

「いや、俺が聞いたんじゃなくてさ。彼女」

そういってクルスが指さしたのは教室の端、そこでこちらをちらちらと窺っている女の子。

朝露永遠(あさつゆとわ)、去年も同じクラスだったが話すこともなかった女の子だ。

短めの黒髪に、くりくりっとした瞳、それを覆い隠すような赤縁の眼鏡、身長は普通くらいのちょっと地味目な子だ。

「朝露さんが俺に?」

俺の問いかけを無視してクルスは彼女の名を呼んだ。

すると朝露さんはゆっくりと恥ずかしそうにこちらに向かってきた。

「えっと…朝露さん?俺に、何か用なのかな?」

「ほら、言っちまえ」

ぽん、とクルスに背を叩かれて彼女はもぞもぞと動かしていた口からようやく声を出した。

「あの…朝日君て、ロック、好きなんだよね?」

「あ、あぁ。まぁな」

「で、何、聞くの?好きなバンドは?」

「そうだな…よく聞くのは、かまってちゃんとか、挫・人間かな。最近ピアノゾンビにはまってるかな。あ、あと解散しちゃったけどWhite Ashもよく聞いてるかな」

「…やっぱり」

「ん?なにが?」

「私も、それ、全部好き。じゃあさ、女王蜂とか、聞く?」

「あぁ、聞く聞く!」

まさかこんな近くにロック好きが現れるとは思わなかった。

しかも俺とそうとう趣味があっている。

俺が好きなのはいわゆるちょっと潜ったところにいるサブカル系ロックだ。

一般人が好きといっている、アレキやらアジカンやらも好きなのだけど、メインはそっちではない。

「じゃあさ…ライブ、行かない?お姉ちゃんと行くはずだったんだけど、お姉ちゃん入院しちゃって…で、今週末なんだけど、どうかな…?」

「残念だったな、朝露ちゃん。こいつは週末忙しい…」

「行くよ!行かせてください!」

「てめぇ…俺という友がいながら…」

「うっせぇ。口出しすんな」

まさかこんなことになってしまうなんて、俺は半分人生を存していたのかもしれない。

こんな身近にいた盟友を見逃すところだったなんて。

今回限りはクルスに感謝だ。

あれ?でも、なんでクルスを通してなんだ?俺に直接聞けばいいのに…

てか、俺がロック好きだって、クルス以外誰かに言ったっけ?

ま、いっか。そういうことは。

「じゃあ週末、駅前に集合でいい?」

「おっけー」

退屈な世界に、少しだけ光が灯ったような気がした。


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