第39話 VSオリオン帝国

 1か月の留学は2倍速、4倍速、あっという間に過ぎていった。


 例えば、風呂でシャワーを浴びるとき、間違ってコーゼと出くわしてしまい裸体を拝んでしまった出来事や自室に戻るなりコーゼの下着姿を拝んでしまった出来事。

 言い出したらきりがないラッキースケベな経験をし、スケベ心をおしこめて日々を過ごした。修行の方も順調。最初にローク流自在剣術をコピーしてつかってみたかいもあり、1か月間で空を飛べるようになった。


 とにもかくにもオリオン帝国での時間は瞬でなくなっていく。


 そして8月になる。邪神ハナコがあらわれるまで間近に迫ったあっつい8月の到来だ。







 レオンはオリオン帝国の首都に隣接する広大な砂漠に来ている。眼前に広がるのは約10万の兵。レオンのために集められた種族混合の軍隊だった。隣でコーゼが最後の言葉を告げる。


「いいですか、レオンさん。最終試験です。ローク流自在剣術をつかって10万の兵を倒してください」


「はい」


 砂漠を埋め尽くす無数の兵士たちは壮観だった。エルフ、ドワーフ、人魚、人狼。吸血鬼、天使に悪魔。普通の人間までいる。各部族のトップが邪神ハナコを討伐するためエルフに協力したのだ。

 いわゆるオリオン帝国の最大戦力。師匠のコーゼは参加しないといっても10万の軍隊が弱いわけがない。中には凄腕の魔法使いや剣士もいる。

 武者震いした。訓練とはいえ間違って死ぬことは十分にありえる。たった一人で10万の兵を相手にして勝てるだろうか? これ以上の敵を相手に世界を壊滅させた邪神ハナコはどんだけ強いんだっちゅー話だが。


 レオンは戦闘を始める。ローク流自在剣術は光速の剣ともいわれ、ありとあらゆるものを切り裂く。レオンも射手座がはじかれたのも光速の剣によるものだ。だから、訓練では相手を殺してしまう。


 なので。


「魔力操作の応用。ローク流自在剣術の性質に魔力だけを排除する斬撃に変化」


 レオンの得意な魔力操作をローク流自在剣術に乗せることによって、相手の魔力だけを切り裂く斬撃に変化させる。準備は整った。戦闘開始だ。


 レオンは手始めに近くの10人ほどをぶったぎった。ただの人間だった。しかし、平民でも微力の魔力が存在する。それは体力と呼ばれるもので、残量を0にしてやると平民は眠ってしまった。


 エルフの集団がレオンに目がけて一斉に弓矢を放つ。エルフは魔法に特化している種族だが、狩猟技術も相当な技量だ。レオンの急所を狙った正確無比な凶弾が物凄い速さで飛んでくる。


 しかし、弓矢はしょせん弓矢。コーゼがやったように光速の剣を放ち、空中で撃ち落とす。ついでにエルフの集団をまとめてぶった切る。


 レオンは両腕から魔力の斬撃をとばす。――シュバババッ! 忍者が手裏剣を放つ要領で、数百、数千の斬撃を飛ばす。レオンの魔力は底なしなので、約10万の軍隊がどんどん削られていく。


 くそっ、減らねえ。広範囲の全体攻撃がほしいぜ。


 心中、レオンは苦戦する。倒しても倒してもゴキブリのように湧き出てくる。特に吸血鬼族がやっかいだった。強力なパワーと高い俊敏性。一撃かすっただけでレオンに相当なダメージが入る。吸血鬼族は影から影へ移動するので不意打ちがうまい。

 吸血鬼族のパンチをくらったときは一旦、空中に逃げて体力を温存した。


 5時間後。


 敵軍2万ほど気絶させたところでレオンの体力が尽きた。魔力がなくなったのだ。

 ただでさえ難しい魔力操作に、加えてはローク流自在剣術を用いてがんがん魔力を消費したのだからなくなるのは当然だった。フルパワーで魔力を消費して5時間しか持たなかったのだから情けない。


「及第点ですね」


 コーゼが近くに飛んでくる。


「レオンさんの戦闘可能時間は5時間前後です。覚えておいてください」


 初めて魔力が空になるまで消費した。魔力を斬撃として飛ばすのは骨が折れる。


 最終試験をクリアして改めてローク流自在剣術を会得した弟子のレオン。コーゼが暖かく包みこんでくれる。


「頑張りましたね。合格です」


 コーゼの胸の中で柔らかな感触を堪能する暇もなくレオンの意識は途切れていく。


 最近、敗北ばかりなのだけれど、ちょっと敵が強すぎやしませんかね?


 魔力が枯渇したレオンは気絶した。

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