第36話 コーゼ=ローク②
昼食は魚だった。近くの河川でとった取れたて新鮮な魚。コーゼは手慣れた手つきで魚に串を刺して火であぶった。焼いた魚の香ばしい匂いが漂う。手持ちの高級な塩を振りまき、アユの塩焼きを完成させる。コーゼと二人でたき火を囲み、雑談に花を咲かせながら食べる。
「コーゼさんってどんな立場の人なんですか?」
「う~ん、姫様?」
すごい話を聞いた。コーゼが昔話を語る。
昔々、エルフの国にはかわいいお姫様がいました。生まれたばかりの少女は生まれながらの貴族で、ローク流自在剣術の使い手になるべく育てられました。平和なオリオン帝国でも屈指の剣術をなぜ彼女が? 少女は疑問に思いました。毎日毎日貴族のお稽古、お勉強、剣術の修行。ある日、多忙な毎日に嫌気がさした少女は外の世界に出ることにしました。
家出です。少女は生まれもった才能を駆使して転移魔法を使い、夢見た外の世界に旅立ちました。それが100年とちょっと前の話。そして、人間の悪い王様に捕まりました。
「でね、100年前の大戦争が起きちゃったの」
てへぺろっと自分の失態を明かすコーゼ。
――はいっ!? 100年とちょっと前のアルテミスとオリオン帝国の戦争はコーゼが発端だったらしい。100歳を超えるおちゃめなエルフはアユの塩焼きをおいしそうに食べながら話を続ける。
外の世界を夢見た少女はアルテミスで拉致され、地獄を見ました。不幸中の幸いで幼かったので慰み者にされることはありませんでしたが、見世物小屋に売られ、家畜同然の扱いを受けました。王様や貴族、魔法使いたちから人気を集めました。
モンスターが知恵をもっている。モンスターが魔法を使える。モンスターなのに。
エルフも人族と同じように喜怒哀楽の心をもっています。幼いコーゼは大きなトラウマを抱えました。そして翌年。コーゼの境遇を知ったオリオン帝国エルフ王はかんかんに怒り、戦争に突入しました。何百、何千人という死者を出した史上最悪の戦争です。当時のアルテミスでは魔法はまだ発展途上だったので、鈍器でエルフに対抗しました。しかし、エルフの英知に勝てるはずもなく、人間は徐々に押され、最終的にはエルフの虐殺戦争まで発展しました。
「すごい。100年前の生き証人がいるなんてびっくりです。その後、どう戦争は終結に向かったのでしょうか?」
レオンは興味津々に聞く。コーゼは幼い子どもを諭すように物語を続ける。
幼いコーゼを助けたのは、のちに大賢者と呼ばれる中年の男でした。それが初代の大賢者。100年前、エルフのコーゼを助けた魔法使いはエルフの英知をあやかり人間最強の魔法使いになりました。同時にコーゼの初恋でもあったのです。
「人間は弱くて脆いです。しかし、善き者もいます。100年前の出来事を教訓とし、エルフと人間は手を取り合って生きようと決意したのです。新しく王位を継承されたダヤン王はエルフに関心のある方だったので助かりました。私が招いた戦争を反省し今では親善大使としてアルテミスとオリオン帝国をつなぐ架け橋となっています」
「おおー。スケールでけぇ。まさか初代大賢者の誕生にコーゼさんが関わっていたとは恐縮です」
話の限り、コーゼは100年以上生きていることに。そんなエルフ最強の魔法剣士に教えを乞うことができるレオンは幸せだった。
「今、オリオン帝国、アルテミス、全種族に危機が迫っています。その危機を救えるのはレオンさんあなただけです。私どもエルフは全力で手助けしますので一緒に最強の剣術を極めていきましょう」
「は、はい!」
あれ? なんか違和感。邪神ハナコを知らされていないレオンはちょっとした違和を感じながらもコーゼの厳しい修行に付き合うことになった。
昼食を終え、傘で素振り千回を振り始める。
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