第32話 後夜祭
魔法学園の広場に薪が組まれ、火がともされる。日が沈み、闇夜が訪れる。
魔法学園の生徒たちは円になってたき火を囲む。
「みなさまのおかげで学園祭は素晴らしい出来で終わりました。ありがとうございます。最後に踊りましょう」
生徒会長の宣言を受け、生徒たちが踊りだす。音楽にのせゆっくりとダンスする。学園祭の成功と無事を祝い、最後の仕上げとしてかわるがわる相手を変えて、初対面同士で楽しむ。
全員で踊るダンスが終わると、今度は特定の相手同士で集まって自由気ままに過ごす。あるものは歌を歌い、あるものはダンスを続ける。あるものは熱いキスをかわしまたあるものは魔法で花火をあげる。
レオンはアルミスと密会していた。
「今からキスでもしますです?」
密会とはたしかに男女がひそかに会うことであり、主に恋愛関係を指す言葉だが、冗談はやめてほしい。レオンはダヤン王に殺されてしまう。
「雰囲気に任せての冗談は慎んでください」
「わりと本気ですよ」
キャンプファイヤーから離れた位置にいるため表情はうかがい知れないが、アルミスは悪戯な子どものようなしぐさをしているに違いない。手を取り合い、音楽に合わせて舞踏会用の踊りをしながら、アルミスの話を聞く。
「キスはまたの機会ということにしまして。本題です」
レオンはごくりと唾をのむ。国王から国防依頼だ
「オリオン帝国に動きがありました」
アルミスの言うオリオン帝国とは、大国アルテミスの北東に位置する大国で、100年ほど前にこの世界の雌雄を決する戦争をしていた国だ。そんな国がいまさら? と思いながらもレオンは黙って依頼を聞く。
「バジーナ様が戦いの準備をしています。いわくレオン様と戦争ごっこをしたいそうです」
「戦争ごっこ?」
バジーナはオリオン帝国に
まったく迷惑な奴だ。
「俺と戦いたかったんじゃないのか?」
レオンはアルミスの耳元でささやく。
「バジーナは王様か俺と決闘したかったはずだ?」
「その通りです。バジーナ様はレオン様でいうところのヘミィ様育成計画をレオン様魔王計画とでもいいますでしょうか、したいらしいです」
レオンは驚きで足を止めた。「――は?」アルミスが「きゃっ」つまずく。
今朝、ダヤン王直々に王城へ手紙が届いたらしい。その手紙は早馬のごとく早急に転移魔法でアルミスのもとに届いた。
バジーナ=リスキスは千里眼を持っている。レオンの実力を見て、より高みへと、ぜひ、魔王なる存在に育てたくなったらしい。犠牲に選ばれたのがオリオン軍、約10万の兵士たちだった。
「バジーナ様はオリオン軍10万を率いてアルテミスへ攻め込むようです。それをレオン様に食い止めてもらいたいとか何とか」
「はー、嘘だろ」
つまずいたアルミスを受け止め、レオンは大きくため息をつく。
まさに因果応報。ヘミィへ無理難題を押し付け、決闘させまくったり学園祭で生徒会長と戦わせたり、育成していたら、まさか自分が育成対象になるとは? レオンは思いもしなかった。しかも相手がオリオン軍10万。中にはSSレアの召喚キャラやヘミィ級の達人もいる。そんな大軍に一人で挑むなんてバカげている。
「バジーナ様は最強のレオン様を求めておられます。魔王になった暁には、ぜひとも決闘したいと手紙に書かれていました」
こうしてレオンVSオリオン軍が決まった。
レオンとアルミスがイチャイチャ踊っていると、大勢の貴族がうらめしそうに集まってくる。みな王族のアルミス目当てで、ぜひ私と踊ってください、とお誘いをかける。依頼を受けたレオンは今日くらいはいいだろうと悪い虫がたかるのを放置する。アルミスはあれはあれで計算高い女で灼熱の灯だ。社会経験の少ないお坊ちゃま連中が蛾のように集まれば――飛んで火にいる夏の虫――逆にアルミスに利用されて損をこうむるだろう。
ま、あれだけ倍率が高ければ護衛の仕事が楽になって便利だ。ストーカー被害だけ気を付けよう。レオンは仲間を探す。
「あれ、お一人様? ぜひ僕と踊ってください」
探していると背中から声をかけられる。リィルだった。クラスの連中と散々踊った後らしい。
「お前のファンクラブはいいのか?」
「もちろんロリっ子で媚び売ってきたさ」
ゴシックロリータのリィルが成長し、服装を変え、大人びたドレス姿に変身する。二十歳くらいのお姉さまに見えた。大人リィルは手を差し出す。
「最後くらいはお相手してくださる?」
「よろこんで」
リィルの手を取る。バジーナやオリオン軍のことは伏せておく。これはレオン自身の問題だ。なにせ魔王になってほしいとオリオン帝国まで動かされては、断るわけにはいかない。
夜遅くまでリィルとダンスを楽しんだ。
魔法学園の学園祭は大成功に終わった。
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