第30話 魔法学園祭④

 学園祭二日目。早朝。レオンは新聞部にいき、テーブルでお茶を飲んでいた。朝霧の新聞部は閑散としている。待っているとバミラが姿をあらわす。


「おはよう。夜明けに密会とはロマンチックだね」


 寝起き姿のバミラは部屋からそのまま抜け出たような恰好をしていた。ピンクのパジャマ姿でどこか愛らしい。魔法学園の最高食券保有者としての貫禄は陰に隠れている。


 今日、密会する内容は大賢者の後継者争いについてだ。昨日、リィルと祭りを満喫していたレオンはヘミィのその後を知らない。ヘミィがどれだけの妨害工作にあったのかを聞きたかった。


「ヘミィ嬢はすごいね。クラス対抗戦で優勝してしまった」


「そですか」


 ヘミィ率いる最上級魔法のクラス1年は実力者ぞろいだ。クラス対抗戦で優勝しても何ら不思議ではない。


「昨日、生徒会派の学生が嫌というほどヘミィ嬢の体力を削っておいた。加えて昨日の打ち上げでヘミィ嬢は泥酔だ。昨日の今日で体調は最悪だろうね」


 アルテミスにおける法律では未成年の飲酒は認められている。日本生まれのハナコならいざ知らず、アルテミス生まれのヘミィがお酒を何杯も飲んだのならば、それはヘミィが悪い。個人戦を忘れクラス対抗戦の優勝で浮かれあがっていたのか大賢者としてはまだまだ幼い。


 バミラは新聞部にある台所に行き、基礎の炎魔法を使って湯を沸かす。少し離れたところで音量をあげて言う。


「1年の最上級魔法のクラスには新聞部の部下がいる。彼女がヘミィ嬢にお酒をすすめたのだよ。ヘミィ嬢を責めないでやってくれ」


 少しするとお茶をもったバミラがレオンと同じテーブルに着き、真剣な表情の仕事モードになり、話を再開する。


「さて。君の狙いはヘミィ嬢を大賢者にさせることだったね。ヘロヘロで生徒会長に確実に負けるだろうけど、どうする?」


 レオンには秘策があった。


「大丈夫です。ローブを取られても奪い返せばいい。あとでヘミィの傘下である俺が全部のローブを決闘で奪い返しますよ」


 バミラはくすくす笑う。


「ほほう。つまり、ヘミィ嬢がやられて6枚のローブが生徒会長に集まるのを待っていたと?」


「はい。先輩には学園祭終わりに生徒会長との決闘を。セッティングお願いします。食券1000枚払うんですから、それくらいはお願いしますよ」


 バミラはメモ帳を取り出し、スケジュールにレオンと生徒会長の決闘を記す。


「いいけれど、君、本当に食券1000枚を用意できるの?」


「はい。今日の個人戦で必ず36倍のオッズを手にして見せますよ」


「頼もしい。生徒会長や私が優勝すればゼロだけどね。期待しているよ」


「望むところです」


 レオンは握りこぶしをつくる。バミラは、二度寝すると言い密会を終える。新聞部に残ったレオンは会議や取材に連れまわされて苦労したことを思い出しつつ、戸締りを終え、一人自室に帰った。







 学園祭二日目の午前中。闘技場で個人戦が開かれる。


 ハナコとアルミスはヘミィの応援のため観客席を陣取る。レオンはアルミスの護衛として隣に座る。ハナコが眠たそうにあくびをする。


「お前ら昨日何時まで飲んでたんだ」


「12時くらい。私は未成年だからジュースだけど」


 ハナコによると優勝した時刻は夕方をまわっていた。クラスで夕食の打ち上げをし酒を飲み、女子グループはそのまま二次会、三次会へと突入し、カラオケやら恋バナやらで一夜を明かしたらしい。


「え、ハナコさん寝てないの?」


「そう。すっごくおしゃべり上手な子がいてね、カラオケで朝までそのまま。ヘミィはちょっとだけ寝てた。アルミスはさすがに途中で帰ったけど」


「はい。ハナコ様の歌とってもお上手でしたよ」


 きっと新聞部のやつだ。バミラ先輩の後輩が無理やりハナコ、ヘミィ、アルミスら女子グループを連れまわしたのだと、レオンは当たりをつける。


 生徒会長の妨害工作は地味にすごかった。クラス対抗戦で生徒会派がヘミィを集中的に狙い、魔力切れを起こし、打ち上げから三次会までは、アルコールと遊び疲れでヘミィのライフをほぼゼロまで削り取っていた。


「ポップコーンいかがっすか?」


 後ろの通路をどこかの部活の売り子が通過する。ハナコが声をかける。


「やっぱこれよね」


 食券を取り出し、ポップコーンとゼロコーラを二人分買う。アルミスと仲良く食べ始めた。


 レオンは映画のチケットをもらったことを思い出す。


「そういやアルミス」


「はい?」


「この前の映画ありがとう」


 レオンが感謝する。ハナコとヘミィの分の映画チケットが残っているのでハナコも一緒に観に行こうと誘うと、ハナコは、


「あんたまたリィルちゃんと行ってきたの?」


 と怒り出した。


「なんだよ。リィルと行って悪いかよ。昨日もお前らが忙しそうだったからリィルと二人で学園祭をまわったぞ」


 ハナコがため息をつく。大仰なしぐさでのけ反り、ひたいに手を当てて悩みだす。


「昨日の恋バナなんだけどさ。ヘミィちゃんさ、レオンはリィルリィルでうざいって言ってた」


 ヘミィとは兄弟弟子で同盟を組んでいる。たしかにレオンが、リィルばかりを気にしては良い気分はしないだろう。


「仕方ないだろ。チート連合のお偉いさんなんだからリィルと仲よくしてんだ」


「本当にそれだけ?」


 ハナコがにやけながらリィルとの仲を追及してくる。どうやらハナコは、レオンとリィルが付き合っているんじゃないかとうたがっているらしい。


「何もない」


 このままでは立場が危ういと思ったレオンは話を逸らす。昨日、恋バナが盛り上がっていたのなら、それ関連で別の話に誘導しようとアルミスに話を振る。


「アルミスは恋バナとかするんだな」


「はいです。でもお近くに殿方がおられませんので困っています」


 当然だろう。ダヤン王の命により、アルミスに近づく男は全力で振り払っている。


 しかし、次のアルミスの言葉にレオンは吹き出す。


「ですから、いつも警護しておられるレオン様をお慕い申しておりますです、と答えておきました」


「――ぶぶ!?」


 ハナコも吹き出す。


 レオンは思わぬ被弾に赤面しつつ、やんわりと話をすすめる。


「やめてくれ。うれしいけどやめてくれ。俺がダヤン王に殺される」


「はい。半分冗談です」


 半分は本気なのか? レオンはハナコに話を振る。


「お前は?」


「私は宮野様ラ~ブ~!」


 ハナコは日本のタレントが好きなようだった。後で詳しく聞いてみると声優をやっているらしかった。


 ポップコーンが半分ほどなくなったころ。準備が終わり、個人戦が始まった。


「頼むぞリィル」


 そうつぶやくとハナコに殴られ、


「ヘミィちゃんを応援しろ」


 と叱られた。

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