第25話 風邪

 魔力人形の価格設定をどうしようか悩んでいると、寒気を覚える。


 熱を測ってみると、37度5分。風邪だ。レオンは風邪をひく。


 同居人に風邪を移すといけないので急遽、ハナコとリィルの部屋を用意しなくてはならなくなった。ハナコはヘミィに、リィルはアルミスに、風邪をひいている間だけ泊めてくれとお願いした。


「王都に行って流行病はやりやまいをもらってきたんじゃない?」


 幼なじみのヘミィが看病してくれる。ベッドの横に桶とタオル、風邪薬とスポーツ飲料を常備して、話しかけてくれる。


「風邪なんかでダウンするなんて情けない」


 レオンの場合、魔力操作による魔力の枯渇が原因で体に変調をきたしている。変に勘繰られるのを避けるため、風邪ということにしている。リィルには簡単に見破られて、励ましの言葉をいただいた。


 台所を適当にまさぐったヘミィはおかゆを調理する。


「私直伝のおかゆはいかが」


「お前、昔からポイズンクッキングの持ち主ではなかったか?」


 ポイズンクッキングとは才能である。

 レシピ通りに料理すると、なぜか途中から変な食材が混じり、完成した暁にはありとあらゆる栄養が化学変化を起こして人を死に至らしめる毒となる。それがポイズンクッキングの才能。ヘミィは生まれながらに手作り料理を食べさせると、食べたものは気絶する才能を持っていた。


「まさに圧倒的才能。こわい!」


「やかましい! さっさと食べなさい」


 あーん、とヘミィにスプーンでおかゆを運ばれ口にする。


 激しい頭痛と激痛が混ざりあい、天にのぼる衝撃でレオンの意識はフラッシュバックした。走馬燈。ぐるんぐるん回る視界に意識は混濁し、3秒後には途切れる。


 ヘミィは満足そうに。


「風邪は眠るのが一番良いのよ」







 魔法学園の現生徒会長は、クラス対抗戦と同時期に開催される魔法学園際の資料を読んでいた。


「魔法人形のオーダーメード?」


 新しくできた部活ギルド『龍神ドラゴン右腕ファースト』の屋台資料をまじまじと見る。そのギルドは宿敵ヘミィが在籍している。ということは、レオンもいる。現在、レオンはローブをとられてヘミィの傘下にいた。


「入学したレオンちゃんはどんな感じでした?」


「ああ、非常に優秀な記者だったよ」


 現生徒会長の隣で魔法学園際の資料を眺めているのは新聞部部長のバミラだった。


「けれど、いいのかい。大賢者の後継者争いを新聞にしては君に迷惑だろう?」


 バミラと現生徒会長は旧知の仲だった。生徒会長は紅茶を飲みながら優雅に首を横に振り、否定する。


「迷惑ではありません。そもそも最初から仕組まれているのです」


「どういうことだい?」


「大賢者の弟子は7人。1番年下のヘミィとレオンちゃんが入学と同時に始まるものでした。しかし、実情は違います。私たち上級生5人はすでに話し合いの場を設けて私が推薦されています」


「なるほど。と、いうことは……レオンからローブを奪ったヘミィと君の一騎討ちということかい」


「ええ。新聞記事は適当に、7人によるバトロワ形式とでも書いておいてください」


 学園祭の実行委員長でもある現生徒会長はある秘策を思いつく。魔法人形の販売を差し止めようというものだった。


「今度のクラス対抗戦、魔法学園際。手を打ってみるのも一興ですね」


「勝算は?」


「ただ単純な力比べなら、レオンちゃんとヘミィの勝ちでしょう。けれど私は、権力の行使と人脈とささやかな愛で彼らの活躍をさまたげます。バミラさんも協力お願いしますね」


「それは脅しかね?」


「いいえ。命令です」

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