第20話 ハデス=ベルセイヌ③

「絶対に許さん!」


 ダヤン王の親バカっぷりに会場の雰囲気が和やかになる。

 『双子座ジェミニ』の能力で隠密している分身レオンは、相変わらずだな、と苦笑いする。アルミス愛さえなければ威厳のある王様なのだが、ダヤン王は老いてから生まれた愛娘がかわいくて仕方ないらしい。


「ヘミィとハナコの位置はつかめた」


 分身レオンは食堂の護衛兵の数を確認する。十人。チート持ちのダヤン含めどれも手練れぞろいだが、脱獄する際に遭遇しなければ良いだけの話。ここの護衛兵は無視でいい。


 食堂を抜け、地下牢へと進む。何度も王城に入ったことがあるので間取りは把握している。薄暗い階段を降り、石畳のしめった地下牢に到着。看守の数を確認する。


「数は二人」


 分身レオンは魔力体であり、幽霊のように見えない。壁をすり抜けることも可能。ハデスを脱獄させるためには看守二人を無力化してダミーを用意すればいい。

 気絶させるのが一番楽だが、不審に思われるので何か別の事に注意を向けさせる方がいいかもしれない。看守二人の注意を向けるには……変身が手っ取り早いかもしれない。

 分身レオンは看守二人の個人情報を調べ始める。年齢、国籍、家族構成、話題、趣味嗜好、見えないのをいいことに淡々と作業を進める。







 ところかわって本物のレオンは都市の観光を満喫していた。

 アルミスは長距離の転移に疲弊したのでホテルでお休みいただいている。リィルと二人で映画館の待ち時間をゲーセンで潰していた。


「王都はダヤンの影響力が強くて一部日本になってるんだ」


「映画館があるなんてびっくりしたよ」


「ゲーセンっていうの? 機械はすごいね」


 レオンがワンコインを投じて遊んでいる巨体はインベーダーゲーム。丸いレバーとボタンを操作して上から迫ってくる宇宙人を倒す遊びだ。攻略法、名古屋打ちをリィルから聞き出したのだが、古すぎてわからない、と返答されてしまい、現在、独自の攻略法を開発している。ほとんどを借金返済にてて残ったわずかなお給金をゲームに費やす。

 幼女リィルがアイスクリームをなめながら苦言する。


「王様は世代が違う。インベーダーゲームなんて僕が生まれる前のゲームだった」


「そいつはご愁傷様。王都は日本の昭和感をふんだんに取り入れているそうだ」


 前にダヤンに会ったときに昭和というワードを教えてもらった。王都は『三丁目の夕日』をモデルに一新しているそうな。


「僕は魔法学園みたいな中世ヨーロッパ風の建造の方が好きだけどな」


「ゲーム巨体を学園に取り入れてほし……ガハッ――ゲームオーバーだ、ちくしょ」


 インベーダーゲームが終わったところで分身レオンと情報を共有する。ハデス脱獄のため、看守の一人に変身して地下牢を無人にする計画があがった。他の囚人をどう買収するかで揉めたが、理由をつけてハデス一人外に出せばいい、と結論づける。


「と、いうわけで。リィルの力が必要だ」


「OK。看守にければいいんだね」


「そうそう。看守に変身してもう一人の看守を外に連れ出し、ハデスに『事情聴取があるからついてこい』とでも言って脱獄させてほしい」


「ダミー人形はどうする?」


 リィルの指摘通り、ダミー人形をつくる手間がいる。脱獄する瞬間にダミー人形をつくらせると他の囚人に気づかれる。かといってダミー人形を用意しなければ脱獄に気づかれる。あらかじめハデスと接触して作戦を伝えなければならない。

 本当に面倒くさい。


「後でいいや。今は何もかも忘れて映画を見よう」


 アルミスからもらったキャプテンハーロックの映画チケット。女の子からもらった映画チケットで別の女の子と二人で映画を見るのはちょっとした罪悪感を覚えた。

 ゆっくり休んでねアルミス。


「いっそのこと正面突破もありなんじゃない?」


「リィルさんや。平民の俺らには無理ですよ」


 正面突破は可能だ。ただし国中の人を敵に回す。


「じゃあアルミスちんにお願いしたら?」


「ストーカーを野放しにするのにアルミスを巻きこめない」


 レオンは気づく。


「最悪、俺の能力でハデスのチートをコピーする」


「いよっ、天然チート。言うことがちゃいますねー」


「惑星壊せるチートに言われたくないでガンス」


 アルミスをホテルに残して(アルミスからもらったチケットで)リィルと仲良く映画を見た。

 ごめんアルミスさん! 本当にごめんなさい! レオンは心中謝罪した。

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