第18話 ハデス=ベルセイヌ①
5月の休日。新聞部でこき使われたレオンに久しぶりの休日がやってくる。
今日は王様じきじきに表彰を受ける日。ハナコとヘミィは一足先に都市へ転移魔法で行ってしまった。おすすめブレンド片手にリィルと雑談する。
「『
「ないよー。日本人の知恵を借りても無駄です。僕らはただの学生だったから」
「塩や砂糖を安価に製造することはできないか?」
「残念ながら。パソコンの操作はできるけど構造はわからないんだ」
アルテミス産の砂糖は高級なハチミツを原料につくられているため、安価に製造することができない。日本では工場? という機械が大量に動いて製造しているらしいがハナコやリィルに工場の知識はない。どっかで楽々の儲け話はないだろうか? とレオンはコーヒーブラックを飲みながら思索にふける。
リィルはレオンの私物を勝手に探り、魔法人形で遊び始める。陳腐なアーチャーの魔法人形に魔力をこめようとして失敗し、人形付随の魔力で動かす。
「安物はトホホだね。ハデスくんの魔法人形はないの?」
「残念ながらアルミス人形は国防のため全部回収された。親バカだから」
「ハデスくんの人形は世界一」
「――!?」
レオンに雷が落ちる。髪の毛一本一本が逆立つような衝撃とともに閃く。
「そうだよリィル。魔法人形を売ればいいんだ」
「ハデスくんはその道のプロだから構わない。けど投獄されてますよ」
「チッチッチ。甘い。俺を誰だと思ってる?」
「変態ロリコン幼女趣味」
レオン、ドサッと転げる。リィルは幼女の姿に変身する。10歳を下回っていた。
「これくらいの女の子が趣味でございませぬか?」
「違う! 俺のストライクゾーンは平常運転だ! あとロリコンと少女趣味は意味が重複してるからな」
「けっけっけ。兄貴のためならどんな愛玩具にでもなりますぜ」
リィルは冗談で言っているようだが、蜘蛛スライムとしての彼女の変身能力があれば変身一つでどんな女性とも添い寝し放題。男子にとって夢のような同居人だった。性別だって男にでも女にでもなれる。ハナコのご機嫌をとりつつレオンの欲情にも答えられる。漫画のようなキャラだ。
漫画のようなキャラだ、それを商売にしよう! レオンは提案する。
「フィギュアを売ればいい。男子が赤面するようなきわどい女の子キャラをおもちゃにする。売れるぞ」
「なーる、日本で売ってるけど、需要あるかな」
「アルミス人形の失敗を踏まえて個人情報を順守し、日本版フィギュアを魔法学園でつくって売る。アルミス人形の完成度なら誰でも欲しがる」
魔法人形ならばアルテミスでもつくれる。加えてハデス=ベルセイヌはチート能力で無限に人形作りが可能。彼を脱獄させて『
「リィル知恵を貸してくれ。日本のフィギュアはどんな感じ? 個人情報は守ってたのか?」
「んとね。日本のフィギュアは創作物をそのまま造形するんだよ。著作権は買ってたのかなー」
日本のフィギュアは漫画や小説、アニメのキャラクターをモデルにするため著作権というものを買えば誰でもつくることができるようだ。
「じゃあリィル。ハナコのやっている漫画を商業化し、キャラクターをフィギュアにすれば売れるのか?」
「面白ければね。面白いは大正義」
「あ、すまん。ハナコの漫画は小学生のお絵かきレベルだった」
「なるなる。レオンはコミケみたいな即売会をギルドでしたいわけね」
今回の商売は二次創作と違って完全に自分たちでオリジナルのキャラクターをつくらなければならない。魔法人形に適しているのはどれか? アルテミスに漫画やアニメがないのが惜しまれる。
リィルは顧客の魔法人形における優先度を明快にする。
「かわいい女の子を愛玩具にするのが一番イイネ。アルミス人形をよりリアルにしてエッチにすればいいけど、それでは国王様に怒られる。プライオリティーだ。お客様の要望に合わせた魔法人形をつくればどう?」
「だからそれだと個人情報が……」
「簡単。お客様をモデルにしたお客様だけの魔法人形をつくればいいんだ」
「なるほど。オーダーメイドか!」
リィルの話によるとハデス=ベルセイヌは本人の目の前で本人同然のフィギュアがつくれるそうだ。しかもそのフィギュアは動く! 本人と同じ魔法を使う! 自分の戦闘をシミュレーションしたい学生はもとより、鑑賞用に買うお客様もいるだろう。値段設定によっては爆売れ間違いなしだった。
レオンは気合の入ったガッツポーズをする。
「オーダーメイド魔法人形。ギルドの商売部門はこれでいこう!」
「えーとレオンさん。ハデスくんは投獄されてまして……」
「助けに行く」
「はい?」
「俺が牢を破って脱獄に加担して助ける。ハデスのチート能力があれば本人そっくりのダミー人形を制作することも可能だろう」
「うわー、本当にやる気だ。絶対に敵に回したくねー。チート連合の幹部ながら王様に同情を覚えるよ、僕は」
そうと決まれば行動あるのみ。レオンとリィルは仲良く外出し、アルミスと連絡をとって三人で都市にある王城を目指すことになる。転移魔法はアルミスの役目だ。
「リィル様、初めましてです。父様が迷惑をかけました」
「僕は楽しめたから満足だよーん。今はレオンをいじめるのが生きがいかな」
「レオン様もお楽しそうで善きかなです」
「いや、楽しんでねーよ」レオン即ツッコミ。
「リィルも俺をいじめるのを生きがいにしないで」
「はいはーい!」幼女姿のリィルは楽しそうに飛び跳ねる。
「レッツらゴー!」
「それでは行きますです」
転移魔法をつかうアルミス。彼女には悪いがハデス=ベルセイヌを投獄させる話は黙っておく。ストーカーでも利用価値があるのでアルミスに犠牲になってもらう。
これもすべては隠居するため。
レオン、静かに燃える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます