第17話 取材
5月号の新聞は大いに売れた。チート連合襲撃で魔法学園の全員と関わる出来事が記事になり、新聞が売れ、バミラ先輩は多大な利益を出した。しかし、時間は待ってくれない。すぐに6月号の新聞を制作せねばならない。
新聞部につかまったレオンはバミラ先輩他数名と会議に参加させられる。
「ヘミィを倒したものには食券100枚、代わりに新聞部に協力、これ約束だよね?」
「あーはいはい。そんな約束もありましたね」
「今すぐヘミィ嬢の取材にいってくれたまえ」
緑髪の新聞部部長はてきぱきと指示を出す。
新聞部の活動は、最初に会議を開き学園内の情報を共有する。そして、学園の広報部と協力して取材対象者を決めて、学園内の新聞を発行する。バミラのような個人的に儲けを出す生徒は少数で、基本、新聞部は部活動の範囲内で動く。バミラは新聞部部長、兼情報屋の立ち位置にある。
今回、掲載内容と取材対象者は決まっている。
大賢者の弟子としてヘミィを特集。
王族の関係者としてアルミスを特集。
レオンはこの二つのうち、ヘミィの取材を任される。
「取材って具体的にどうすればいいですか?」
「まず取材したい内容を事前に考えておくんだ。次に取材対象者にも質問内容をあらかじめ伝えて、取材をスムーズにすすめる」
「へーへー」
レオンは適当に質問を考える。
ヘミィのスリーサイズ、男性の好み、デートで行きたい場所、などなど。
「こんなのはどうでしょう」
「ふむ、ヘミィ嬢は将来のミス魔法学園に選ばれることだろう。今のうちに個人情報をつかんでおいて情報を売れば――って、ちがーう!」
バミラに怒られる。
「いいかいレオンくん。新聞ってのはターゲットのことを第一に考えるんだ。私たちの場合、ターゲットとなる読者層は学生。魔法学園の生徒が知りたい内容を質問するんだ」
「ヘミィの個人情報は?」
「それは男性諸君だけだろう。ヘミィ嬢の個人情報なんてどうでもいい」
バミラは新聞部にある白いボードにマジックペンで要所を書き出す。
「大賢者の弟子。みんなが知りたいのは大賢者とは? 後継者? ヘミィ嬢の能力や召喚ガチャのドラゴンだよ」
「いやや、5月号の新聞でチート連合を撃退したハナコとヘミィが特集されたんで、もう十分では?」
「甘い! 情報は生物だ。ヘミィ嬢は常に進化している。今が!? 我々は欲しいのだよ」
「へーへー」
バミラのアドバイスをもらいレオンは迅速に動き出す。
質問内容を十個に絞ってヘミィにアポイントメントをとり、取材日を決める。質問する内容をあらかじめ伝えてヘミィに返答を用意してもらう。
後日、顔なじみのハナコにテープレコーダーを用意してもらい取材を開始する。
場所は行きつけのカフェで、ヘミィに化粧をしてもらい見栄えの良い衣装を着てもらう。取材スタートだ。
「お久しぶりですヘミィさん。ここのカフェおいしいですよね」
まずは取材するものが主導権を握る。ヘミィにはジェットコースターに乗っていると、勝手に取材が終わり、絶叫して、いつの間にかゴールしていた、くらいの感じでやってもらう。
レオンは雑談を踏まえ、ハナコとヘミィをある程度しゃべらせ緊張をほぐしてから本題に入る。
「大賢者がどんな人なのか教えてください。ヘミィさんの偏見を交えて」
「お父様みたいな存在ですわ」
10分ほど経過。取材はつつがなく進行していく。
「なるほど、ヘミィさんは後継者として6人の弟子とローブを賭けて競いあっているのですね!?」
「知っての通り、私は大賢者を目指しおります。落ちこぼれのレオンは下僕です」
「その約束まだだったんだ!?」
黙ったままだったハナコが苦笑する。ヘミィと親しく会話すると、笑い声がテープレコーダーに残るのでまじめに取材を再開する。
「目下の障害は誰ですか? 大賢者の弟子になるために打ち勝つための」
「現生徒会長です。彼女は弟子の中で一番でした。戦闘力に関してはレオンも負けていませんが」
「俺のことは黙ってて。なるほど、生徒会長ですね」
レオンは質問しながら、メモしていく。文章を起こすのはバミラの役目だが、メモと音声を入力したテープレコーダーぐらい協力したい。
これはこれは生徒会長に根回しする必要があるな、とレオンは考える。才能という一点において大天才ヘミィに勝るものはいないが、実績からいえば生徒会長が正式な後継者に最もふさわしい。将来的にヘミィが抜くだろうが、今の環境でいえば生徒会長が一枚上手だった。
「取材協力ありがとう。この記事は6月号の新聞で掲載されます。最後にこの許可証にサインしてください」
「はいはい。新聞部の小間使いも大変ね」
「いやはや、そうそう。ヘミィを倒す記事を載せてもらったから」
「あ……」ハナコ、しまった、という表情をする。
「あ……」レオン、戦慄。
ヘミィの目の前でテープレコーダーにばっちりと告白してしまった。
ヘミィを決闘で倒せば食券100枚あげる、という記事を頼んだのは、俺だ、と。
「ごめん、ごめん、許し……」
「レ、オ、ン。お前のせいか」
「許して……くれませんにょねぇ!?」
ヘミィが最上級魔法を青、緑、赤、と立て続けに発動する。レオンは逃走。ハナコは場を収めるようと試みるが返り討ちにあうだけだった。ヘミィ強し。
「待てコラァあああ! ふざけんなっ、ぶっ殺す!」
「すんませんっしたぁー!」
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