第15話 魔法学園攻防戦④

「暴れたりない」


 ペガサスに乗ったハナコは高速で移動。

 数十のファンネルが水色のレーザー光線を放ち、縦横無尽に襲ってくる。


「暴れたい暴れたい暴れたい」


 ハデスと戦ってみて一番最初に感じたのはチート能力があっても使えなければ意味がないこと。騎乗経験のないハナコはペガサスにしがみつくだけで能力を発揮できないでいた。

 ヘミィやドラゴンと戦ったときは手心を加えられた。

 数秒で何十発のレーザー光線を浴びれば、考える暇もなくペガサスに任せっきりになってしまう。

 千葉県の某ランドパークのアトラクションに乗っている感覚。絶叫しかない。


「暴れたい暴れたい暴れたい暴れたーい!」


 ハナコはペガサスを急上昇させる。


 せっかくの異世界生活。神様からもらったチート能力。家を出るように死んで転移した先は剣と魔法のファンタジー世界だった。

 それでも私はこれくらいしかできないのか、ハナコは怒りながら空に逃げる。


 遠くの方で爆炎がなる。ドラゴンが撃沈する。レーザー光線が襲ってくる。


 ハナコの脳内をエンドルフィンがめぐり、しびれ、レーザーが肌をよこぎっていくたびに涙が出る。日本にいたころには経験のしたことのなかった快感の涙だった。


「死ぬほど楽しい」


 ハナコは微笑みを浮かべながら夜の闇夜に消えていった。







 真夜中のため保健室が開いておらず、しかたなく自室にリィルを寝かせたレオンはあることに気づく。


「魔力が生きてる?」


 『天秤座リブラ』で平民と同じ状態になったレオンだが、使えなくなったのは千を超える魔法とオリジナル魔法、膨大な魔力のみで天性の魔力操作は一つだけなら使用可能だった。また、魔力の流れも察知できるため自室にいながらハデスの居場所が特定できた。ヘミィとハナコの魔力が右往左往逃げている様子を見ると、苦戦している模様。レオンは手助けすることに決めた。


「標的はハデス本人。打ち抜くは魔力の弓矢。『射手座サジタリウス』発射」


 自室をすり抜け音速でハデスをとらえたレオンの弓矢は、魔法学園攻防戦の終わりを告げる鐘となる。ゴーンという衝撃音が学園全体に響き渡る。


「5月号の一面は学園を襲ったチート連合で決まりだな」







 4月の終わりに襲撃を受けたレオンはその後、裏工作に躍起になった。


 ハデスを王様に引き渡し、捕虜として丁重に扱うよう説得した。リィルを重要参考人として魔法学園で引き取った。襲撃を防いだ功績を『龍神ドラゴン右腕ファースト』のものとしてギルドを設立した。ハナコのハーレムをつくるため、武勲をハナコにあげた。王様から直々に表彰されることに決まった。その他エトセトラエトセトラ、レオンが根回しした案件は十を超える。


 自室にてハナコと一緒に漫画を描くリィルがいる。レオンは念押しする。


「今回の件はハナコが一番活躍した。いいか? 俺はのリィルを保護しただけだ」


「はーい。僕は保護されました」


「美少年ぺろぺろ(ショタ)」


 ハナコはお気に入りのようだ。ショタで良かった良かった。


 貴重な逆ハー要員? と漫画家アシスタントを同時にゲットしたハナコはご満足。チート能力のほとんどを失ったリィルはレオンと同じ基礎魔法のクラスに配属。5月の園内新聞はレオンの想像通り、チート連合の話題で持ちきりだった。まるまる記事につかったためアルミスの特ダネが次号に持ち越しになるほどだ。


 人間、しょせん身近なことしか関心を示さない。王様から直々に表彰されるというのにハナコは美少年と漫画に夢中だった。


「幸せそうで何より」


 チート連合の幹部は残り2人。そいつらを倒せば王様に嫌がらせする組織を壊滅できる。今回の戦いで最もショックだったのはヘミィが負けたこと。大天才でもチート能力者に負けるのだと痛感した。ヘミィは負けたショックで寝込むかもしれない。


「ま、寝込む暇なんてないか」


「ぎゃぁあああ」


 外でヘミィの悲鳴が聞こえる。何人もの生徒に追われ、逃げ続けている。

 レオンのろうした策で無理矢理に鍛えられていた。

 自室でレオンがコーヒーを入れる。ハナコが日本から取り寄せた砂糖は、大量生産にしては大変質の良いものだった。


「チート連中に勝てるくらい強くなって大賢者になってくれよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る