第14話 魔法学園攻防戦③

「戦いが長すぎる」


 ハナコから借りたバトル漫画を読んだレオンの感想。


 主人公が敵と長々と戦いを繰り返し、最後に努力やら友情やらでバトルに片が付く日本の漫画はショーだ。


 戦いにおいて実力が拮抗するなどありえない。戦いとは一撃でケリがつく。レオンの実践経験が物語っている。長々と続くバトルはスポーツだ。

 例えば、ボクシングはグローブをはめることで戦いを長引かせ、剣道は面、胴、籠手と打つ場所を限定することで長引かせる。


「素手のケンカなら先に急所に拳を入れたものが、真剣なら相手の部位を切り落としたものが勝つ」


 要するは先手必勝。相手に反撃する意欲を失わせた攻撃をすれば勝つのだ。


 さきほどの弓矢は誤算だった。惑星を破壊できるほどの強者には違ったアプローチが重要。


「なあ、リィル。日本のバトル漫画は好きか?」


「なにそれ。好きだよ」


「俺は嫌いだよ」


 だって冗長だもの。


天秤座リブラ』発動!


 レオンの体とリィルの体から抜き出た魔力が交錯する。

 お互いの魔力はお互いの魔力に干渉しあい、相手の中に入っていく。


「これは魔力であり、俺のオリジナル魔法に近い。チート持ちならどんな能力か判明するだろう?」


 レオンはすまし顔。

 大賢者の頭脳を持って能力を解明したリィルは困惑する。


「発動すれば問答無用で相手と自分を同じ状態に縛る神の英知。そんなありえない」


「それがありえる。神すら『天秤座リブラ』を防ぐことはできない。究極の魔力だっ!」


 天秤は量に優劣をつける。『天秤座リブラ』は強制的に同じ量にする。両者はレオンが指名した強さに変換する。


「リアルの戦いは単純明快で爽快だ。一撃で落ち着く」


「レオンさん、あ、あなたは何を指名するんだい?」


「『天秤座リブラ』よ。俺とリィルの強さを平民レベルにしろ!」


 天秤の形をした魔力がレオン、リィルの両者から強さを抜く。そして、魔法の使えない平民レベルまで強制的に退化させる。

 レオンは走り出す。魔法もチート能力もなくなったリィルは後ずさる。


「や、やめてください。漫画家を目指しますから死にたくないっ!?」


「安心しろ。人質になってもらう」


 平民と同じ強さになったレオンは腕を引いて勢いをつけ、そのまま渾身の右ストレートを放つ。勝負は一発でケリがついた。肉弾戦に慣れていないリィルは気絶する。


「日本人ってのはつくづく体術がなってない」


 ハデスをおとりにチート連合の主力を人質にすることに成功した。『天秤座リブラ』を解放するまでレオンは平民のままだが、リィルを自由にするのは危険すぎる。

 ストックホルム症候群というものがある。長期にわたる監禁状態の中、人質が犯人に好意的感情を抱く現象だ。

 レオンはリィルを攻略して仲間につける作戦を思いつく。ま、やってみないと結果は見えない。しばらくはハナコと3人で暮らすことになるかもしれない。

 今のリィルは美少年に変身しているが、蜘蛛スライムはナメクジと同じで雄雌両方の生殖機能を持っている。だからリィルは男でもあり女でもある。転生前は女子高生をやっていたそうなので、風呂やトイレは女でいいのかもしれない。

 レオンは人質を丁重に扱い、保健室に運ぶためお姫様抱っこをする。


「ま、なんにせよ。ハナコの逆ハーレム要員を一人ゲット、やったぜ」


 ハナコに付き合えば荒野を彷徨ほうこうする羽目になるだろうが、それも悪くない。なんだかんだレオンは今の生活が気に入っていた。

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