第13話 魔法学園攻防戦②
10日間はあっという間に過ぎる。
ハデスがモデルと同じ性能の魔法人形を使役するのであれば、アルミス本人が特訓に付き合う。ヘミィとハナコは授業が終わると、夜遅くまで対アルミス用に模擬戦闘をしまくった。
レオンは常時『
新入生テストが終わり、クラス対抗戦に向けて気合を入れる4月の終わり。
チート連合による魔法学園への襲撃が始まった。
「で、私はどうすればいいの?」
森の最前線でドラゴンに乗りながら待ち構えるヘミィはハナコに指示をあおぐ。
「ヘミィちゃんは注目を引き付けてアルミス人形をできるだけたくさん壊して」
ハナコは『
魔法学園に向かうときに通るであろう大通りを2人で確保し、先頭に備える。
「来たわ!」
最初に発見したのはヘミィだった。
メイド服を着た無機質な人形が転移魔法を連続で使用しながら襲ってくる。
アルミスの得意魔法は二回攻撃する水のブレード。
超高振動の刃があらゆるものを切り裂く。
ヘミィは命令する。
「ほえろ。ドラゴン」
数十体のアルミス人形に先手を。
ヘミィの召喚ガチャであるドラゴンが特大のブレスを放ち、摂氏1000度を超える爆炎が森周辺を包み込む。数十体のアルミス人形が溶解する。
「『白馬の騎士』!」
ハナコは巨大な槍と盾、白銀の重装鎧を装備する。ペガサスにまたがり、森の木々をなぎ倒しながら突進。ドラゴンのブレスを魔法障壁で防ぎながら、逃げるアルミス人形に追撃する。
最初の接触はレオンの思惑通り、ヘミィとハナコの圧勝。
分身で戦闘を逐一監視していたレオンはほっとする。
ハデス一人であればアルミス人形100体程度、森の中で片が付く。
レオン本人は意識ある雲に乗って戦場を俯瞰していた。
雲の名前は『
どんな物理もクッションで無効化する、わたあめ姿の雲。
レオンを乗せて空中を移動する。ハナコいわく筋斗雲みたいと言われた。
「ハデス一人だったら楽勝だな。問題は、」
「チート連合の幹部でしょう?」
「ああ。やっぱり他にいたか」
「君の分身をあえて泳がせていました」
レオンがいる魔法学園の真上、地上から視認できない位置に、それはいた。
水色の美少年。背中から悪魔の翼を生やし、空中でホバリングしている。
「ハデスはチート連合の四天王でも最弱。あなたのお相手はこのリィルがお相手しましょう」
「いつから気づいていた?」
リィルは不思議そうな顔をする。あれれ異世界転生者ではないのですか、と。
「ツッコミが欲しかったのですが。あなたは原住民ですか?」
「ああ、あいにく俺はアルテミス育つの没落貴族。ジャパニーズジョークは通用しない。連れが異世界人なものでな、連れにボケてくれ」
「あははは。じゃあ戦闘は中止しましょう。僕らチート連合は同じ異世界転生者にしか興味ありません」
リィルは自慢げに語る。
なぜレオンの『
「僕らは神様から生まれたときからユニークスキルをいただいております。魔法でも魔力でもない、第三の異能の力。人によってバラバラですが、僕は『鑑定』のスキル持ちです」
鑑定はあらゆるものをパラメーター化して使用者にステータスウィンドウを見せるスキル。生物のレベル、体力、攻撃力、速さ、防御、なんでもわかるそうだ。
「ハデスは不遇でした。僕らが生まれた時から魔法も魔力もスキルも使い放題だったのに対して、彼は魔法人形関連のチート能力しか使えません。鑑定はあらゆるものを見抜くのです。魔力の流れ、量、強さをですね」
「リィルには見えるのか?」
「ええ、魔力を吸収する僕よりあなたの方が多い。その他、ステータスウィンドウを黒く覆っているほどの無属性魔法とかね」
「軽く1000種類は超えるだろうな」
リィルはゆっこり微笑んで、小さい体からは考えも及ばない魔力を発する。
「食べた魔物の能力を吸収する僕より魔力量が多いなんて、レオンさん? あなたはこちらよりの化け物ですね。一度、公式の場で戦ってみたい」
「異世界転生者ってのはチートぞろいだな。王様よりも強いんじゃないの?」
「いくらチートでも、七つの大罪を極めて大賢者の頭脳を手に入れて、絶対に手に入らないものはあります」
「それは?」
「物語です。異世界転生者が世界を救う英雄譚。僕たちは絶対にひなたに出ることのない日陰者なのです」
リィルに魔法学園襲撃を楽しんでいる様子はない。現にハデスを思いっきり戦わせているだけで青髪の美少年は沈黙したまま。レオンに手を出すな、とけん制しただけで会話を楽しむ。
「ハデスは不幸者です。最強チート能力があるのに一介の人形師で終わってしまう。そんなのかわいそうでしょう?」
「ハナコみたいなことを言うんだな。日本人は全員、漫画家を目指しているのか?」
「くすっ、ははは。原住民に異世界転生者の弱点をつかれましたね。たしかに僕らは漫画家です。自分の人生というキャンパスに異世界ファンタジーという絵を描いているんです」
リィルは残念そうに話す。
転生した先アルテミスは平和そのものだった。
世界滅亡をたくらむ魔王もいなければ、世界全土を覆う大戦争もなかった。
結局、人形師として生まれたハデスは魔法人形づくりを。スライム蜘蛛というモンスターに転生したリィルはモンスター狩りを。異世界ファンタジーというにはあまりにも平凡な毎日しか待っていなかった。
「レオンさん。だから僕たちは遊ぶことにしました。異世界転生者同士の心が燃えるバトルをするために。チート連合は異世界転生者の欲求不満を満足させるためにつくられた組織なのです」
「ハナコと同じで存分に戦いたかったんだな」
「はいっ」
「でもそれでいいのか?」
王様への嫌がらせ。チート転生者たちが行うにはあまりにも滑稽すぎないだろうか。レオンは久々に怒りを感じた。
「ハナコは平和なアルテミスに嫌気がさして、日本の家庭環境も嫌で辟易していた。それでも夢だった漫画家があきらめきれず、今も熱心に絵の練習をしている。お前らチート連合のバカ騒ぎに付き合うほどハナコは暇じゃないんだよ」
「それはすみません。漫画家ですか、それはいいですね。僕の地獄のようなスライム蜘蛛の成り上がり生活を漫画にしたら絶対に重版決定の爆売れですね」
「異世界転生者は同等の敵を求めてるんだな。じゃあ、俺が相手になってやる」
レオンはチート連合の全貌を少しずつ掴む。
彼らはモラトリアムだ。子供のまま異世界に転生してやりたいことも見つからず、漫画みたいな展開を望んで結局、大人になりきれなかった子供たち。
「リィル。お前に決闘を希望する。もし俺が勝ったらチート連合を解体し、ハナコと一緒に漫画家を目指せ!」
「ははは、傑作。僕はもともと日本の女子高生でコミュ障ボッチでした。この世界にきて誰かと一緒に漫画家を目指すなんて、想像もしなかったです」
年相応の美少年は日本人の面影を残している。
ハナコの目をパッチリさせて、さらにかわいくしたら女子高生版のリィルになるかもしれない。ハナコは貧相で日本のコケシみたいな顔だった。
「『
先手必勝。レオンは魔力を左腕に集めて射出する。音速の矢はリィルに直撃する、がダメージは皆無。魔力を吸収してより一層デカく見える。
「鑑定&大賢者の知恵のコンボですよ。あなたの魔力の矢は見えなくても対処可能。加えて七つの大罪シリーズ『暴食』で吸収しました」
リィルは消える。『傲慢』の力で肉体を極限に強化し、高速で動き、レオンに上空から蹴りをみまう。『
ひょいっと隣にリィルが舞い落ちる。
「まるでドラゴンボ〇ルの世界ですよ。僕は七つの大罪をすべて発動すれば惑星ごと壊すことも可能です」
「化け物め。まるで漫画だな」
「異世界ファンタジーの悪役ですよ」
レオンが少し顔をあげて向けると、遠くの森で爆炎がなった。
超巨大ロボットと空飛ぶドラゴンが戦闘していた。
「ハデスの専用ガンダムですね。楽しそうで微笑ましい」
アルミス人形を合体させてできた全長20メートルの巨大ロボットがビームソード片手に摂氏1000度のブレスを切り裂く。
空中で動く数十の物体がビームを発射し、ドラゴンを撃沈する。
レオンはなめていた。
ハデスの幹部仲間が魔力を察知し、惑星を壊せるぐらい強いとは思わなかった。
「助けに行けないな。頑張れヘミィ、ハナコ」
「何か言いました?」
「ああ、リィルを足止めするのに精一杯で助けに行けない、ってハナコに伝えた」
「足止めする? ハデスを遊ばせるためアルミス嬢が必要なんです。何もしなければ手を出しませんが、続き、やります?」
「転生チート上等!」
ボロボロになった体に鼓舞をかけながら、レオンは立ち上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます