第12話 魔法学園攻防戦①

「ハナコ、これは秘密な」


 ハデス=ベルセイヌの正体をつかむため、レオンは能力を使う。


双子座ジェミニ


「嘘?」


 ハナコは驚愕する。

 レオンが言葉を発した瞬間、彼の魔力が人型となり放出され、レオンと同じ分身をつくりだす。幽霊のような透明なレオン。ハナコが触ると、空虚で透過する。


「レオンの分身?」


「ちょっと違う。射手座サジタリウス


 レオンの分身は形状を変え、弓の形になり、レオン本人の左腕にまわりつく。人型だったものが弓矢となる。

 地図でハデスの住む魔法人形工房の位置を確認して、これくらいかな? と独り言を発し、そのまま工房の方に体を向いて矢を射出する。

 レオンの分身だった透明の矢は、室内を通過し、ものすごい勢いで都市の方へ飛んでいく。音速を超えたレオンの魔力はあっという間に都市に到着し、再びレオンの姿に戻り、隠密として行動を開始する。

 部屋ではハナコが興味津々な顔をする。


「今の何? 説明して詳しく」


「ただの魔力だよ」


「魔力が見に見えたり、姿を変えたりするわけないでしょう?」


「なんかできちまったんだよ。ハナコの世界でいう覇気とかオーラとか、気みたいなものが具現化し意志を持ち始めたんだ」


 レオンの魔力が変質したのは裏の大賢者になる前のことだった。

 無属性魔法を1000種類ほど覚えて魔力でああだこうだ遊んでいた。


「最初は魔力が目に見えるようになったんだ」


 体力や精神力と同じ、魔力は目に見れないパラメーターだった。しかし、レオンは魔力の量が目に見えるようになり、具現化した。


「はじめは魔力を操作して手袋をはめるみたいに遊んでいた。次に衣服。最終的には家丸ごと魔力で覆うようになった」


 具現化した魔力は目に見えるばかりでなく、物理的に意味を持ち、包丁の形で魚をさばいたり、ハンマーの形で餅をついたりした。


 ハナコが質問する。


「それって魔力で人を攻撃できるようになったってこと? すごーい」


「ああ、ほんらい目に見えない魔力が見えるようになって、しかも力学的に作用するようになっちまった」


 レオンはいろいろ試した。魔力で犬をつくっては散歩する。魔力で魚をつくっては他人の魔力を食べさせて吸収する。そのうち、人の体力を吸う魔力まで出せるようになった。


「俺の魔力が意志を持ち、しかも幽霊のように出歩き、視覚聴覚味覚とあらゆる感覚をリンクできるようになった。それがもう一人の俺、双子座ジェミニ


「じゃあ、弓矢は?」


射手座サジタリウスは魔力を音速で射出できる。魔力は幽霊みたいで空気抵抗を無視して動かせるからかなりスピードが出る」


「すごーい」


 1000以上の無属性魔法を極めたレオンは魔力そのものに干渉できた。レオン自身の魔力量が人の100倍ほどあったおかげか、最大出力で放出すると都市で一番大きい城ぐらいの大きさになった。


「落ちこぼれ中の幸いだ。魔力は俺以外、誰にも見えず、攻撃の瞬間だけ実体化し、音速で移動する。しかも無限に出せる」


「魔法使わなくていいんじゃね?」


「魔法を超えた魔力操作。それが俺の奥の手だ」


「で、さっきの分身が今、ハデスを探ってるの?」


「ああ。もう終わった」


 ハナコとおしゃべりした数分でハデスの情報を集め終える。

 ハデスの年齢は20歳前後、髪は緑色。メイド服を着たアルミス人形を100体以上も引き連れて魔法学園に進軍していた。あと10日もあれば着くだろう。


「魔力だから都市で消滅しても偵察した内容はぜんぶ本人のもとへ帰る。魔力は幽霊みたいなものだからハデスはまったく気づかない」


「ひっきょー! それチートですやん!?」


「ハナコの『スキル継承』があればできるだろ? 魔力も見えてたし」


「ずるい。私にも教えて! お風呂覗き放題じゃん」


「いやいや遠慮しますよ」


 実際、レオンの分身がいれば、風呂覗き放題。どころか、窃盗や傷害を起こしても絶対にバレない。大国アルテミスに意思を持った魔力を取り締まる法律はない。


 レオンは机に宿題用のノートの切れ端を破って置き、ペンと消しゴムを用意する。


「ハデスの目的を整理しよう」


 ハデス=ベルセイヌはチート連合の幹部で、魔法人形を操るチート能力持ち。

 チート連合の目的は王様への嫌がらせであり、アルミスを誘拐しようと100体以上の魔法人形が魔法学園に向かっている。あと10日ほどで到着する。


 ハナコが水を差す。


「てか、レオンさんの分身でハデスを倒しちゃえば万事解決だったんじゃないの?」


「いやいやそれは違う。ハデスを倒したところでチート連合という組織を解体しない限りアルミスへの嫌がらせはなくならない。やつらが王様のウィークポイントをアルミスと定めているなら、根本を解決しないとアルミスの安全はない」


 レオンは計画を練る。微に入り細を穿つ。時間をかけてハナコと話し合った。

 数時間の話し合いの結果、ハデスを踏み台にすることに決めた。ギルド『龍神ドラゴン右腕ファースト』の初仕事だ。


「魔法学園にやってくるなら雑魚モンスターの森で迎え撃つ」


「私とヘミィちゃんの初仕事だね」


「そうだ。戦闘中は俺が全域を魔力で監視するからハナコたちは満足のいく限りアルミス人形をぶちのめしてくれ」


「合点承知」


 レオンの計画はこう。

 10日後までに校長先生に魔法学園の危機を報告し、ギルドとして依頼を受ける。アルミスをあえて白日の下に晒し、おとりにする。大賢者の弟子のヘミィが活躍し、手柄を一挙に彼女のものにする。もちろん育成込みで、だ。


「俺は裏方に徹する。ハナコとヘミィだけでハデス率いるアルミス人形軍団を倒す」


 レオンはすぐにアルミスとヘミィ、魔法学園の偉い人たちに連絡を取った。

 VS森の転生チート。情報戦の時点でハデスとの戦いはすでに始まっている。

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