第10話 特訓②

「ナスのスパゲッティです」


 レオンお手製のイタリアン風スパゲッティ。

 日本から取り寄せたトマトケチャップでナスとパスタを絡めたもの。


「ピーマンのみじん切りサラダ」


 レオンお手製のピーマンを刻んだサラダ。

 大国アルテミスの野菜は日本とよく似ていた。


「げげげっ!」


 ハナコが嫌な顔をする。


 4月の休日。

 うららかな日の午後、特訓と称してナスとピーマンを使った昼食をとる。

 なぜ特訓なのか?

 それはハナコが大のナス&ピーマン嫌いだからだ。

 ハナコはスプーンとナイフを両手に持ったまま駄々をこねる。


「嫌だ嫌だ嫌だ。ナス食べたくない、ピーマン嫌い!」


「これもドラゴンに勝つためだ。まずは食事から。精神力を鍛える」


「なんで食べないといけないの!?」


「ハナコの苦手料理克服でドラゴンに勝つ手掛かりがある」


 もちろんデタラメだ。

 レオンの本当の目的は日本の調味料にある。

 ハナコが取り寄せた日本の調味料はどれも見たことがなく味わい深いものばかり。野菜はアルテミスと似通っていたため、香辛料をつくって売れないか画策していた。


 ナスのスパゲッティにトマトケチャップと七味唐辛子、ピーマンのサラダにドレッシングと、味の素、塩コショウが使ってある。


 ハナコがナス&ピーマン嫌いだったので適当なことを言って苦しめていた。


「日本の調味料は良い。キャッチコピーは『これで嫌いな食材もおいしくなる日本の調味料!』とかかな」


「嘘、私の部屋に付随してある調味料使ってもナスとピーマン食べれなかったもん」


「御託はいい。調味料で味が変わるなら絶対に売れる」


 レオンはギルドの商売として日本のものを売ろうと考えた。

 ハナコが部屋から取り寄せたものをモデルに、アルテミスで製造もしくは制作してオリジナル商品として売るのだ。

 難しい機械類はハナコも理解していなかったが、調味料ならば簡単にできそうだ。


「魔法学園で料理革命が起きるぞ」


「なんでここには塩もコショウもないのよ。砂糖とミルクはあったのに」


「砂糖は高級なんだ。食券1枚で飲むコーヒーだから加えることができる。でも日本の砂糖は安く買えると聞く。ぜひ知りたい」


「そんなの私が知るわけないじゃん」


 レオンはナスの炒め物とピーマンの肉詰めを追加する。


「はい、食べなさい」


「ぎゃー!?」


 ハナコの特訓は1時間以上続いた。


 水と一緒にがぶ飲みしてナスとピーマンを食べ終えたハナコたちは午後、『白馬の騎士』を装備して寮の中庭に出る。

 さきほどの苦手料理は茶番だったが、今度はまじめに特訓。

 剣の素人のハナコがドラゴンに勝つには強くなるしかない。

 レオンはハナコに剣術を教えることにした。


「いいか。剣ってのは素人がやって簡単にできるもんじゃない。まして騎士は重装で動きにくく、間合いに入られると何もできなくなる槍だ。覚えるのは難しい」


「リーチがあって便利だけど?」


「ハナコに難しい技術は期待できない。だから単純に行く。シンプルが一番強い」


「どうする?」


 レオンは改めてハナコの重装を観察する。

 ブルマの上に装備された白銀の鎧は魔法防御を完璧に施してあり、ドラゴンのブレスをものともせず。頭、胸、腰、手足と急所になる部分を守っている。

 関節の部分は生身だが透明なバリアに覆われ、物理も魔法も防ぐ。

 ためしにレオンが模擬戦で剣を振るって二、三回ほど切ってみたが、かすり傷一つできなかった。

 ハナコの槍は人の丈より長い。

 ハナコの身長の1.5倍はあるほどの重量の槍が『白馬の騎士』の力によって軽々と振るわれる。レオンが模擬戦で盾を構えて受けてみると、見事に盾が粉砕する。


「すごいな。重装で守りは鉄壁。槍は超重量でドラゴンもイチコロだ」


 なんで負けたの?

 そう聞くと、ハナコは苦虫を噛み潰したような顔になりピクピク震えながら答えた。


「お、お、落とされたの……」


「え?」


「ドラゴンに背中をつかまれて急上昇されて空から真っ逆さまに落とされた」


「なるほど」


 ハナコは模擬戦闘の授業でドラゴンに後ろをとられ、背中をつかまれ裏返ったカメのようにバタバタしても身動き取れず空に散ったというわけだ。

 地面に激突した振動で鎧の中で気絶したらしい。

 魔法の鎧でなければ死んでいる。


「だったら話は早い。簡単だ。騎士用の盾も装備しよう」


 レオンは閃いた。

 ハナコは両手で槍を使っている。

 魔法の槍ならば片手装備も可能なはずなので開いた片手で盾を装備すればいい。

 ハナコは文句を言う。


「盾を持ってもドラゴンに背中をとられるでしょう」


「突進すればいい」


『白馬の騎士』は槍も重装も本人次第でかなり軽くできる。オートで重量を調整して敵と戦うらしいので走ることだって可能だ。

 ハナコは困り顔で頬をかく。


「突進ってあんた、まるでモンハンの槍ね」


「何か知らないが参考になるものがあるなら真似すると良い」


 素人のハナコがドラゴンに勝つには、シンプルな作戦と『白馬の騎士』の能力任せのゴリ押しが一番。


 その後、魔法学園のグラウンドを借りてハナコは何十週もぐるぐるぐるぐる、騎士装備で走らされることになった。

 レオンを捕まえに来たバミラ率いる新聞部の面々が走るハナコを見て、小見出しに『学園の七不思議。グランドを走る鎧姿の大男。100年前戦争で死んだ亡霊か!?』とスクープしたのは大いに笑った。

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