第9話 特訓

 4月の半ば、1年生のクラスは模擬戦闘の授業が始まる。

 レオンは無属性魔法を使わず体術だけで模擬戦闘をクリアした。基礎魔法のクラスは必要最低限の魔法を習得するクラスなので、下手な魔法使いよりも体術に卓越したレオンの方が100倍強い。それでも目立ちすぎては今後の隠居生活に支障が出るので力をセーブしながら戦った。

 10戦10勝。クラスみんなの目線が変わったと感じたときはすでに手遅れ。

 元からヘミィやアルミスといった最上級魔法のクラスの人と一緒にいることが多いので、悪目立ちに拍車がかかる。

 最上級魔法のクラスとコネクションを持ち、剣士並みの体術を使いこなす謎の男。そこから天才ヘミィと同じ大賢者の弟子であると判明するまで1週間もかからなかった。

 いつもの喫茶店でコーヒーを飲みながら、ヘミィに愚痴をこぼす。


「んで、いつの間にクラス長に任命された。困った」


「私が言いふらした」


「お前か!?」


 ヘミィが原因で大賢者の弟子であることがクラスメイトにバレた。

 お説教ものだ。


「6歳の時におねしょした話や10歳の時に砂糖と塩を間違えてパンケーキをつくった話までバレててめちゃくちゃ困ったぞ」


「いいじゃない。大賢者の弟子は強すぎる力ゆえに孤高になりがちなの。愛嬌の1つや2つ、面白いうわさがあったほうが親しみやすいわよ」


「そういうお前はどうなんだ?」


「あらあら、今日の模擬戦闘の授業でハナコさんを丁重にほふってあげましたわ」


「それであいつしょげてるのか」


 レオンの席に加わらず、ハナコは一つ離れたテーブルに座り、水をすすってはおかわりを繰り返す。ヘミィに負けたことがよっぽど悔しかったようだ。

 この後、アルミスを加えてギルドの定時連絡をする予定だったが、ギルド長のハナコがへそをまげていてはどうにもならない。

 レオンは口をヘミィの耳元に近づけてこそこそ聞く。


「『圧倒的才能』があればお前の技も完コピできるだろう。どうして負けたんだ?」


 ヘミィもレオンの真似をしてハナコに聞こえないように話す。


「魔法レパートリーが豊富すぎて授業にならないから魔法を1つに絞って戦ったの。いざというとき十八番を決めておけって先生がね。ハナコが『白馬の騎士』で、私がドラゴン召喚で、勝っちゃった」


 勝っちゃった、てへっ、と首をかしげておどけるヘミィ。


「レオンがきちんとフォローしなさいよ」


「なんで?」


「だってあんた召喚キャラの主でしょう」


「そうですった」


 まったくもって面倒くさい。

 ご機嫌取りはお酒やショッピングが定番だが、ハナコは未成年でお酒が飲めないし、ショッピングの方はフィギュア集めで満足しているはず。漫画家の方はまったく成果がでていないが、Gペンでもプレゼントしてやれば機嫌は直るのだろうか。はなはだ疑問だ。


「ヘミィさんお願いします。不肖レオンにハナコの機嫌の取り方を教えてください」


「うふふ、どうしましょうか」


「俺のうわさ勝手に流したじゃねぇか」


「ぎくっ」


「お返しに小さいころ雷で眠れなかったことやプール修行ですっぽんぽんになっては露出……うわさ流そうか?」


「仕方ないわね」


 ヘミィは顔を真っ赤にしながら降参を認める。


「教える教える。ドラゴンより強くなればいいのよ」


 ヘミィいわくハナコは同じSSレアのドラゴンに対抗意識を燃やしているようで『白馬の騎士』だけでドラゴンに勝てるようになれば問題は解決するそうだ。

 レオンは簡単そうだと思った。


「ペガサスの使い方さえマスターしちまえば楽勝だ」


「ペガサス抜きで」


「あ、そう」


 ハナコがドラゴンに勝てるまで道は長そうだ。


 その後、アルミスが参加、必要経費をもらい定例会議をしてほどなく解散となった次第だ。ギルド発足人のハナコが不在では運営をどうこうする口出しはできない。

 一応、支持された通りランクなるものをつくった。CランクからSSランクまでを設定してハナコをSSにする。顧問の先生がいないので始まってすらいないが、都市にあるギルドと同じぐらいの基盤はできた。ハナコの機嫌が直れば、異世界人なりにアレンジしてもらえば良い。

 レオンは考えを口にした。


「平和だから護衛やモンスター駆除の依頼は少ないと思う。ギルドの知名度があがるまでは商売で生計を立てようと思ってる」


「レオン様、何をなさるですか?」


「商品は決まってない。でも新聞部から大量の食券を借り入れる準備はした。これを元手に売買で倍々に稼いでいく。バイバイだけに」


 レオン渾身のギャグに両者別々の反応をする。

 アルミスはそっと笑い、好評。

 ヘミィはそっぽを向いてあきれ顔、不評だった。


 帰り道、みんなと別れハナコと自室に帰宅する。

 ヘミィに教えてもらったようにハナコをフォローする。


「ドラゴンに勝ちたいか?」


「勝ちたい」


「ならハナコに借りた漫画の内容を思い出すんだ」


「前に貸したやつ?」


 レオンは以前、ハナコが『異次元ポケット』から取り出した少年漫画を全巻借りて読破した。その中に強敵があらわれたときの対処法が書かれていた。


「俺たち大賢者の弟子は強い。そんな俺らと対等に戦うには、よく食べてよく寝て、よく遊びよく修行するすることだ」


「つまりどういうことだってばよ?」


「特訓だ、ハナコ!」

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