第8話 ギルド

 よく晴れた午後の昼下がり。

 しゃれたカフェで一人、優雅にコーヒーをたしなむ。


 授業の宿題良し、新聞部へ根回し良し、ヘミィの育成良し、あとはアルミスの護衛をどう強化するかだ。できれば基礎魔法クラスの自分より最上級魔法クラスのヘミィやハナコがアルミスの護衛になるのがベスト。それも人為的なものではなく、自然にさりげなく一緒にいる感じで。


 レオンが考えを巡らしていると、ハナコがやってくる。

 着席し、砂糖とミルクいっぱいのコーヒーを注文した彼女は宣言する。


「ギルドに入ろう」


「ほ、ほう」


「部活動はどれもダメね。異世界転生といったら定番のギルドよ」


 ハナコの言っていることはわかる。

 大国アルテミスには魔獣退治専門のギルドが多数存在する。

 しかし、ここは魔法学園。ギルドのある都市にいくのに1週間はかかる。

 レオンはさりげなく否定する。


「ギルドに入るには厳しい審査がいる。召喚キャラのハナコさんは相当難しい」


「ヘミィに聞いた。ギルドに入れば戦い放題なんだって?」


 確かに、過去にはギルド総出で戦争に参加したという記録が残っている。

 100年前の、アルテミスが小国だった時代だ。

 レオンは都市へ行く際の転移魔法の消費魔力を憂慮して違うプランを考える。


「僭越ながら話すが、ギルドに入っても戦うのは雑魚モンスターくらいだ。主な任務は護衛やペット探し。つまらないぞ」


「えー。あたしギルドに入って一番下のCランクから始めて速攻SSランクになってちやほやされたい!」


 異世界転生といったらギルドでしょ! と駄々をこねるハナコの言葉に、レオンは失笑しながらもよくよく考えると、実はつかえるんじゃないか、と思い直しハナコにたずねる。


「魔法学園でギルドをつくってみないか?」


「つくれるの!?」


 部活動がないならつくればいい。

 ハナコ好みのギルドに仕上げてメンバーにアルミスを加えれば護衛の任務を丸投げできる。ついでにヘミィも入れてやれば育成もできて一石二鳥。ハナコのわがままが解消されることも考慮すれば3羽分の鳥ゲットだ。


「俺がつくっとくよ。ハナコさんの要望通り、ハナコ軍団って部活で問題ないな?」


「そんなダサい名前ダメ。ギルド名は『龍神ドラゴン右腕ファースト』よ!」


「ドラゴンファースト? 意味は?」


「龍神になってみたいから。龍神ハナコを一番に考えるギルドです」


 ドラゴンといえばヘミィの召喚キャラを想起する。

 まぁ、名前なんてどうでもいいや。

 願いが叶えばそれで良い。

 レオンは樹形図を逆算する。


 レオンの願い。

 ↓

 裏の大賢者として隠居したい。

 ↓

 表の大賢者、王様の要望に応える必要がある。


 表の大賢者。

 ↓

 後継者の育成をしてほしい。

 ↓

 ヘミィの育成。


 王様。

 ↓

 魔法人形をつくっている異世界転生者を捕まえてほしい。

 ↓

 アルミスの護衛。


 ヘミィの育成、アルミスの護衛をハナコに任せる。

 ↓

 ハナコのために『龍神ドラゴン右腕ファースト』をつくる。


 =レオンの願いを叶える最短距離は、ハナコのためにギルドを立ち上げてヘミィとアルミスを加入させることだった。


「わかりました。ハナコさんのために今すぐギルドつくります」


「すぐによ。コーヒー飲み終わったら難しい手続きとかお願いね」


「YES、サー」


 ふだんブラック派のレオンだが、頭を回転させるためにコーヒーに角砂糖を1つ。

 部活名『龍神ドラゴン右腕ファースト』を立ち上げるのに必要な審査をクリアするためにはどうすればいいかを考える。

 部活動は5人以上の生徒と顧問の先生が必要になってくる。しかし、そこは例外で大賢者の権力を最大限に利用して、王様の後ろ盾をもらい、アルミスの護衛に必要な部活なんです、と言えばすぐに通りそうだなと合点する。


「活動目的はアルミスの護衛および生徒の強化。活動内容は戦闘用魔法の実践かな」


 ハナコに別れを告げ、魔法学園の研究練に向かう。

 部活動を仕切る先生の研究室に入り、創部するためのコンセプトシートをもらう。

 日本の部活と違いアルテミス魔法学園の部活は利益を出さなくてはいけない。

 食券をいかに集めるか。新聞部のバミラにアルミスの情報を担保に食券を融資してもらうのもありかもしれない。

 自室に戻り、レオンは創部するためのコンセプトシートを書き始める。


 ターゲット。

 魔法学園の学生、教授。


 立地概要。

 喫茶店横の空き店舗。


 基本コンセプト。

 ギルドをつくり顧客の依頼をこなす。

 アルミス姫を護衛するために部員を強化する。


 モチベーション。

 貧乏学生でも気軽にクエストを依頼できる安価なギルド。

 ギルド長ハナコを盛り上げるイベントを開く。

 魔物を育てて襲わせ、退治するマッチポンプを体験する。


「こんな感じか」


 レオンなりにアレンジを加えてわかりやすいコンセプトシートを目指す。

 他の箇所も書き込む。サービス、メニュー、消費形態、店内環境を埋める。

 資金の調達方法は、アルミスの援助金とバミラの借り入れを。

 事業の見通し(月平均)はざっくばらんに売上高を計算して利益を出した。


「メインターゲットをアルミスに変更しよう。アルミスからもらえる必要経費を売上高に変えてやる」


 ターゲット。

《メインターゲット》

 アルミス

《サブターゲット》

 魔法学園の学生、教授


 に変更。


「こうすれば黒字になるな」


 ギルド『龍神ドラゴン右腕ファースト』のコンセプトシートの欄を埋める。ハナコの命名したもの以外ほとんど完璧な出来に仕上がった。

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