第7話 青の魔法
放課後、ハナコが魔法人形を大量に買って部屋に戻る。
レオンは休んだ授業の補習をしていた。
「日本製のフィギュアは発見したか?」
「なかった」
「そうか」
ハナコの買ってきた魔法人形は、赤、緑、青と無属性の4種類。
赤は緑に強く、緑は青に強く、青は赤に強い。3すくみとなっている。
無属性はどのタイプにも同等の力を発揮する。
レオンが買い物カバンの魔法人形をまさぐっていると、アルミスに似た魔法人形を発見した。例の異世界転生者がつくったものだ。
「目当てのフィギュアはなかったが、ハナコ、アルミスの魔法人形はあった。これの製作者はわかるか?」
「無理だ。私も全部の人形を調べてみたが、その魔法人形は製作者不明で出回っているらしい」
アルミスの魔法人形はかわいらしい外見もさることながら、性能が段違いに良くてプレミア価格がついていた。製作者不明のその人形1体で他の人形5体は買えた。
レオンはアルミス人形を戦わせてみようと考えた。
今後、護衛につくアルミス自身の戦闘力がどのくらいかによって手の入れ方に違いが出てくる。プレミア価格がつくほど優秀な性能ならば、本人もプレミアなみに強いはずであり、強ければ護衛せずにほとんど放置しても問題はない。
「アルミスの人形で戦わせようぜ。相手してくれ」
「了解しました。ケンさんでいいよね」
ハナコは胸に7つの傷がある格闘家の魔法人形を動かす。
この人形は遠距離自動反撃がついていて魔法使いに強い。
アルミス人形は青の魔法使い。遠距離攻撃なので格闘家には不利に思われる。勝負はわからない。
「開始」
レオンの掛け声とともにアルミス人形が転移魔法を使う。
勝負は一瞬でけりがつく。
アルミス人形の放った2回攻撃に、格闘家はなすすべもなく粘土となった。
あまりの強さにレオンが驚嘆する。
「つっよ!?」
護衛の必要がないんじゃないか。
それくらい強かった。
「私のケンさんがやられちゃったじゃない。それどんな性能してんの?」
「えっと、速さ抜きで確実に2回攻撃、移動は転移魔法で、攻撃の一撃がついてる」
ほんらい速さは高低によって追撃ができるか受けるかが決まる。しかし、アルミス人形は速さの差を抜きで2回攻撃する。どんな速い人形でも、例えば大賢者のレオン人形でさえも攻撃を受ければそれは2回攻撃になってしまう。
ハナコはアルミス人形を憎悪の目で見る。
「攻撃の一撃でステータスを大幅アップして2回攻撃。しかも転移魔法でほぼ確実に先制攻撃できるなんてチートじゃない。もちろん魔法人形の性能として、だけどね」
「ちょっと対策を考えるか」
レオンは他の魔法人形でアルミス人形を倒せるか試してみる。
一番手っ取り早い方法が、レオン人形かハナコ人形をつくること。
これならば性能を2回攻撃、転移魔法、攻撃の一撃、その他なんでも。
似せてつくれば確実に勝てる。
しかし、プライドが許さない。
魔法人形は勝てない相手に対してどんなスタイルで勝つかを競わせる遊び。ゲームでありゲームではない。戦闘の訓練なのだ。アルミス人形1人にコケにされてはたまらない。
「青に強い緑の重装歩兵ならどうだ。ハナコ、ある?」
「あるよ。緑でガッチガチに堅い重装歩兵。ほい」
「これなら勝てるだろ」
レオンが選んだのは遠距離自動反撃のついた緑の重装歩兵。速さがない反面、防御が鬼のように強い。2回攻撃に耐えてくれるはず。
「開始」
レオンが選んだ重装歩兵は攻撃せずに受けに回る。
相手の魔法攻撃をないで自動反撃するつもりだ。
それに対してアルミス人形は慎重だった。距離をつめず様子を見て呪文を唱える。
アルミス人形の付属魔法は、
2回攻撃
転移魔法
攻撃の一撃
待ち伏せ
防御の策謀
防御の策謀は範囲の相手すべての防御を下げるというもの。
アルミス人形は重装歩兵が範囲に入るまで待つつもりだった。
魔法人形の自動知能はモデルに比例する。
レオンの選んだ重装歩兵はモデルの頭がダメだったのか、しびれを切らして攻撃に出てしまう。
「実践じゃ緊張感のあまり下手に出てしまうことは多々ある。アルミスのやつ、これだけチート性能の上、頭もよかったのか」
護衛は楽勝だな、とレオンは思う
突撃した重装歩兵に対してアルミス人形は防御を低下させる魔法を使い、攻撃の一撃を加えて2回攻撃の青魔法を放つ。有利なはず緑属性の重装歩兵は、残念ながら、青属性の魔法で粘土になる。アルミス人形の天敵となりそうな魔法人形を選んだつもりが完敗だ。これでは既存の魔法人形では誰もアルミス人形に勝てない。
「悔しい」
レオンは奥歯を噛む。
このままでは引けない。なんかアルミスに負けた気がする。
チートをつかうことにした。
「ハナコ、お前の『スキル継承』は魔法人形にも有効なのか?」
「うん。魔法人形も同じ魔法だから有効だよ」
「よし。それで最強の魔法人形をつくろうぜ!」
「自分で魔法人形をつくればいいんじゃない?」
「既存製品の能力だけでアルミス人形を倒すのが楽しいじゃないか」
レオン人形かハナコ人形、もしくはかなり強力な魔法を付属させたオリジナル魔法人形をつくれば勝てるのだが、あくまで既存製品だけで勝ちたいレオンは、ハナコの『スキル継承』と買ってきた魔法人形で躍起になる。
「いくら速さがあっても2回攻撃を防げない。転移魔法があるから先制もとれない。ならくそ強い攻撃力と2回攻撃を耐えるだけの防御が必要だな」
「さっきの重装歩兵が最強の防御だったんだけど」
「ならスキルで強化しようぜ。ハナコ、頼む」
レオンが選んだのは素のステータスで防行が高い忍者の魔法人形。
そこにハナコのスキル継承をつかって他の魔法人形の魔法を付属する。
「忍者に、遠距離防御、HP3、防御3、攻撃の策略。こんなのでいいか」
無属性の忍者に赤、青、緑すべての属性魔法を継承させる。
武器は魔法使い殺しという暗器を継承させる。
レオンは忍者を持ち上げ、上機嫌で完成を宣言する。
「魔法防御に長けた忍者の完成だ。魔法使いに特攻効果のある魔法使い殺しもつけたし完璧だな」
「さっそくやりましょ」
ハナコはアルミス人形をセットする。
レオンも忍者をセットする。
魔法人形バトルの開始。
「今度こそ勝つぜ。はじめ!」
バトルが始まるとアルミス人形が先に動く。
転移して忍者の後ろをとると、2回攻撃の青魔法をぶち込む。
忍者はなんとかガードして遠距離防御を発動する。持ち前の打たれ強さと付属魔法によって一撃で倒されるのを防いだ。
「いけいけー」
忍者は攻撃に転じる。魔法使い殺しという暗器でアルミス人形を攻撃した。
瞬間に、レオンはアルミス人形が待ち伏せを持っていることを思い出した。
待ち伏せは専守防衛のスキル。
相手の攻撃より早く反撃できる。
再度、2回攻撃を放ったアルミス人形は忍者をぶちのめして肉塊に変えた。
またもや完敗。ハナコのチート魔法『スキル継承』を駆使しても敗北したのだ。
「アルミス、なんて恐ろしい子」
後日、レオンがハナコのフィギュア費用をもらいにアルミスに会いに行った。
話を聞くと、王族の権限で小さい頃から戦闘の英才教育を受けていたらしく、アルミス自身も最上級魔法のクラスに所属するほどのつわものだった。
アルミスはにこやかに笑った。
「首から下で考えるレオン様には勝てませんです」
アルミス人形に試行錯誤した結果、敗北したレオンにはただの皮肉に聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます