第6話 新聞部

 ハナコの役目は異世界転生者を見つけること。

 日本のフィギュアを見つけ、アルミスの魔法人形をつくった犯人を突き止める。

 レオンはハナコにお願いする。


「というわけでよろしくお願いします」


「いいけど。私は何すればいい?」


「簡単だ。魔法人形のお店に行ってフィギュアを見つけて制作者を聞いてくれ」


「アルミスって女を知らないんだけど」


「アルミスの人形じゃなくて日本製だとわかる人形を探してくれ」


「え?」


「前に格闘家の人形をつくっただろう。それと同じ理由だ」


 ハナコは胸に7つの傷を持つ格闘家の魔法人形をつくった。聞いてみると、日本で生まれたキャラクターらしい。

 レオンは予想する。人形製作者なら日本のものをつくりたくなる。


「ハナコが見聞きしたことのある日本のキャラクターがモチーフになった魔法人形を探してほしい」


「なるほどね」


「有り金でフィギュアをぜんぶ買うんだ。今やってるフィギュアづくりに役立つから一石二鳥だろ」


「了解♪」


 アルミスから必要経費はもらった。相手は王族。いくらつかってもいい。


 レオンが寝ようとするとハナコは転移魔法を使い、ラジオなるものを聞き始める。


「それどうしたんだ?」


「魔法を教えてもらった」


 レオンがアルミスと密会している間、ヘミィが訪ねてきてそのときに異世界に干渉できる魔法を教えてもらったらしい。

 転移魔法の応用版。

 神様の助力を得てハナコが独自に開発したオリジナルの魔法『異世界ポケット』。日本のハナコの部屋にあった無機物をこちらの世界に持ってこれるらしい。

 すごい魔法だ。

 ハナコが補足する。


「厳密にはコピーみたい。私の思い出に残るものなら構造がわからなくても丸々再現することができる」


 緑魔法の構築に似ている。


 ハナコは小型ラジオなるものを置き、聞きながらフィギュアづくりを再開する。

 『異世界ポケット』は電波なるものも再現するそうだ。

 ハナコはうれしそうに言う。


「残念ながらネットはダメだった。おそらく私の部屋にワイファイが通ってなかったのが原因だと思う。でも深夜の声優ラジオ聞き放題で満足」


 声優ラジオを聞きながら、机に向かう。

 こいついつ寝てるんだろうな、と聞くのは野暮だ。

 ハナコは宿題をしなくても『圧倒的才能』でぜんぶ完璧。すべての魔法が使える。暗記も才能の1つであり、筆記試験は満点だそうだ。さすがSSレア。

 そんなハナコでも漫画とフィギュアづくりだけは才能なしの独学でやっていた。

 レオンは寝ることにした。頑張っているものに祝福を。


 翌日。

 ヘミィと一緒に最上級魔法のクラスへ行くハナコを見送る。


「部活動は決めたか?」


「考えとく」


 魔法学園の部活動は日本と大きく異なる。生徒が自主的に運営し、金銭のやり取りをしていて赤字になればつぶれるというところが違う。


 レオンは基礎魔法の授業を欠席し、あるところに向かった。

 魔法学園新聞部。

 森に囲まれた魔法学園の情報を一手に集め、発信している部活だ。


「バミラさんはいますか?」


「はいはーい」


 新聞部の部室につくと、緑髪の部長さんがあらわれる。

 彼女の名前はバミラ。

 1年の間で、学園で一番食券を保有しているという噂が流れるほどの商売人だった。

 バミラは物珍しそうに尋ねる。


「1年にして新聞購読者とは珍しいですね。何の用ですか?」


「そちらが発行している魔法学園新聞に部活動特集がありました」


「たしかに。うちでは毎年4月に部活動特集を組んでるよ」


「その中で召喚キャラが入れそうな部活はありますか?」


 レオンは部活動を探りに来たのではない。

 自己紹介したかったのだ。


 うーんと考え込んだバミラは、思い出したように閃き、態度を変える。


「ああ、君が召喚ガチャで異世界人を出した学生だね」


 ビンゴ。バミラはハナコのことを知っていた。相手と情報を交換するときは、まずこちらの情報を開示させ、信用を買わなければならない。


「ええ。特例で授業を受けてますが部活も大丈夫でしょうか?」


「害がなければ特に問題ないっしょ。魔法適性SSレアなんだって?」


 バミラの食いつき方が違う。

 長い話になりそうだったので部室の応接間に行き、お茶を飲む。

 15分ほどハナコの話で盛り上がる。

 一通り交流した後、レオンは本題に移る。


「ところで。大賢者の弟子を決める争いって知ってますか?」


「ほう」


 レオンは自分が大賢者の弟子であること、ヘミィに正装のローブを奪われたことを明かした。


「私たち大賢者の弟子は決闘でローブを奪い合っています。このローブを取り返してほしいんです」


 レオンは続ける。


「新聞部はクエストを依頼することもできるとお聞きしました。食券100枚。ヘミィに決闘を申し込んで、勝ち、私のローブを取り返した暁には食券100枚を出します」


 もちろん食券100枚はどこにもない。

 これはレオンの、ヘミィが誰にも負けないという自信の表れだった。

 バミラが商売人の顔になる。


「いいけど。新聞部でクエストを依頼するにはそれなりの対価が必要だよ」


 新聞を発行するには食券1500枚分の金貨が必要となる。

 そのため掲載内容も吟味しなければならず、他社の要望は食券がかかるそうだ。

 レオンに手持ちの食券はない。しかし、秘策があった。


「新聞をつくるには食券よりも特ダネが必要ですよね」


「特集は大事っしょ」


「私がネタを提供します」


 レオンは王族がお忍びで魔法学園に通っていることを伝えた。

 ほんらいなら絶対に隠し通さなければならないネタだが、ローブ屋の主人に身バレしたので後の祭り。ならいっそ、アルミスをだしにヘミィを育成しようと考えた。


「彼女の名前はアルミス。王様の隠し子です。これはアルテミス全土でネタになる」


「本当!? たしかにスクープだ。もっと食券を増やすチャンスっしょ」


 レオンの思惑通りに事が運ぶ。

 アルミスを特集すればハナコとは別件でアルミスの魔法人形をつくっているストーカー異世界人の手がかりをつかめるかもしれない。

 バミラは条件を出した。


「アルミス嬢のネタに加えて大賢者の弟子をネタにすること。取材班にレオンが参加すること。これでどうっしょ?」


 さすが商売人。隙あらば労働力を囲いにくる。

 あきれ顔でレオンが承諾する。


「わかりました。バイトで取材に協力しますよ」


 こうして5月号の新聞には、アルミスの特集と大賢者の弟子たち、ヘミィに決闘で勝てば食券100枚! が掲載することに決まった。

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