第5話 青髪の少女
レオンは魔法学園に付随するローブ屋に寄る。
ヘミィに(平民を養子にするくらい没落した)貴族のローブをとられたので新調することにした。
ヘミィにとられたローブが正装だとするならば、今から買うローブは学生用。学園内をローブなしで歩くと、ますます落ちこぼれのレッテルが張られるので買うことに決めた。
ハナコいわく日本の学生服に感覚が近い。
集団は結束力を高めるため、目印となるユニフォームを着用する。
魔法使いの子弟は子弟らしくローブを着用するのがいいだろう。先生に冷たい目で見られる心配もなくなる。
ローブ屋の主人に寸法を教え、サイズの合ったものを見繕ってもらう。
名前を教え食券で支払う。のべ10枚。昼のランチ10回分だ。
「やべっ!? 9枚しかないや」
放課後にヘミィとコーヒーを飲んだことを忘れていた。
ローブ屋の主人が冗談っぽく笑う。
「このサイズのローブは1つしかない。待ってあげるから取っておいで」
「すんません。最近、物入りなもので」
もちろんハナコのせいだ。
それほど裕福でないレオンは、大賢者の推薦とヘミィの援助金を借りて魔法学園に潜入している。裏の仕事で得たお金はすべて没落した御家復興のための借金返済に企てている。
ハナコは召喚キャラのくせに帰還できない。日本に帰すためには契約自体を切らないといけない。しかし、召喚キャラは授業で使う。そのためこのままにしておくしかない。
だから食費が倍になるのだ。
「困ったもんだ」
立ち去ろうとすると入れ違いで入った人物がレオンの顔を見て、店主の手元を見、高級そうな財布を取り出す。
青髪の女の子だった。
「店主様、レオン様のローブをお譲りください」
面識がない。
初対面であるはずの青髪の女の子は食券10枚という決して安くない金額をポーンと払い、その場でレオンにプレゼントする。
「とてもよくお似合いですこと」
「えーとすまん。誰だったかな?」
「勉学に励む一介の子弟です」
「悪いな。食券は後で返すよ」
レオンはまじまじと青髪の女の子を観察する。
青いショートヘアに小綺麗な丸顔。
にっこり笑い、優しそうな瞳を細める。
羽織るローブは生地の良い最上級魔法が施してあって。
「これはこれは王族の方ではありませんか!?」
ローブ屋の主人が驚き、ごまをする。
今にもおじぎしそうな勢い。
「うちの店をご贔屓にしてくださってありがとうございます。ありきたりなローブではなく、レオン殿には最上級のものを渡しましょう」
主人が店の奥に引っ込んでいった。
青髪の女の子がまとうローブには王家の紋章が刺繍してある。
自己防衛で評判の高い最上級魔法が施してあるのにも合点がいく。
彼女が王族だからだ。
「結構ですのに。レオン様は飾り気がなくて渋いです」
「あんたが王族なのはわかった。俺の素性に詳しいのも王様の野郎が絡んでいるのもわかった。だけど面倒事はごめんだぞ」
レオンが大賢者に擁立されるにあたり、国防を免除する代わりにいくつか折衷案が出された。
護衛の任務。異世界人の調査。
魔法学園でヘミィを育成するのと同時並行で王様のために働かなければならない。
「あんたが護衛対象者か」
「その通りです」
依頼主なら遠慮はいらない。
いただいたローブをありがたく着させてもらう。
奥に引っ込んだ店主を置いて、そうそうに店を出た。
「仕事の話なら校舎裏がいいか」
「はい、私のことはアルミスとお呼びください」
レオンたちは果物屋に寄り道。食券1枚で100%ジュースを2つ購入する。
騒ぎになると面倒なのでアルミスに王家の紋章入りローブを外してもらう。
レオンを驚かすためにわざわざ正装で会いに来たそうだ。
初対面の挨拶としてはかなり印象に残るほうだった。
小悪魔的な笑みを浮かべるアルミスいわく。
「レオン様は世話好きの女人に弱いと聞きました」
王様の入れ知恵か、必要以上に絡んでくる。
不必要に距離をつめるアルミスから逃げるのに一苦労した。
「俺の記憶が確かなら、王様の子にアルミスって姫様はいなかったはずだが?」
「父様は3人の方と結婚しています。私は位の低い妾の子です」
大国アルテミスを統べる現国王はセキュリティーの都合上、正式な王子以外の子は名前を伏せている。
その中でもアルミスはかなり溺愛されているそうだ。
「王族を隠して魔法学園に合格するのに苦労しました。父様は護衛を300人つけろって煩わしかったです」
「親バカらしい王様だ。その300人の代わりが俺のようだな」
「はいです。最近、日本からやってきた魔法使いの被害報告で父様も警戒を強めてるのです」
「同郷だからって警戒しすぎじゃないか?」
校舎裏でアルミスと仕事の話を始める。
現国王が日本からやってきた異世界転生者だという事実を知るものは少ない。
レオンが異世界人のハナコに話でついていけるのは、現国王と交流した経験からのものだった。
「んで、王様の悩み事は何なんだ?」
仕事内容も異世界人絡み。
アルミスは困った風に相談する。
「最近になりまして。私の魔法人形が出回っているのです」
「ほう」
「父様は日本のフィギュアで間違いないと目星をつけたです。私の魔法人形をつくっているものを特定してほしい」
「たしかにそりゃ物騒だな」
魔法人形は個人情報の塊といっても過言ではなかった。
人形には魔法情報がのる。
流通しているアルミスそっくりの魔法人形は取得魔法までアルミスそっくりだった。
「父様が異世界転生者だと見抜いた別の異世界転生者が嫌がらせをしているそうなのです。実害をこうむる前に解決してほしい」
「わかりました。アルミスを守りつつ、魔法人形をつくっている異世界転生者を見つけ出して懲らしめればいいんだな」
「はいです」
レオンはフィギュアというものを知らない。
犯人捜しは難しそうだった。
「あ……!?」
日本の文化に詳しいものが一人いた。
また、(転生あるなしにかかわらず)異世界人は異世界人を簡単に見抜くとアルミスから説明を受けた。
そこで思い至った結論。
「ハナコに協力してもらおう」
蛇の道は蛇。
つつがなく校舎裏の密会を終える。
帰り際にヘミィに発見され、アルミスとの関係を怪しまれ、基礎魔法クラスの友達だと必死で誤解を解き、言い訳むなしく三属性魔法をぶっ放されながらも命からがら部屋まで逃げた。
「おかえり」
レオンの同居人のハナコは、今日もせわしなくフィギュアづくりに没頭していた。
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