1章 VS森の転生チート
第4話 魔法人形
「海洋堂のフィギュアがほしい」
いつものようにハナコが訳のわからないことを言い出した。
ことの発端は魔法人形ブームにある。
レオンたち魔法学園の1年生の間では魔法人形で模擬戦闘させるのがブームになっていた。
自分たちの魔法を装備させて優劣を競う遊びだ。
「何それすっごくやりたい!?」
魔法人形のことを話すとハナコが飛びついた。
レオンは人型の人形を取り出してハナコに見せる。
「これはスタンダードな魔法人形。真っ白の粘土細工だ。これに魔法をつける」
無属性魔法。
遠距離反撃 待ち伏せ 攻撃の鼓舞
すると、真っ白だった粘土が鎧を着た剣士に変形する。
「すっごーい!」
「持ち主のイメージに応じて人形になり、魔法によってスキルを覚える。攻撃を受けてから反撃する剣士の誕生だ」
「私もやるやる」
ハナコはレオンから人形を奪い去って魔法を発動。
無属性魔法。
遠距離反撃 待ち伏せ 攻撃の鼓舞
鎧を着た剣士から、胸元に北斗七星の傷がある素っ裸の格闘家に変形した。
「やったー。これフィギュア作り放題じゃん!」
魔法人形は魔法ができない平民のために発売された。
魔法人形師がのつくった人形で戦わせるのだ。
最近になって魔法を装備していない無印の魔法人形が発売されて以降、貴族たちの間で爆発的なヒット商品になった。
相手の魔法にどう対処するかをシミュレートでき、授業にも魔法人形が取り入れられた。
「俺も対遠距離魔法使い用の戦闘でお世話になった」
無属性魔法発動。
連射弓 フレイムアロー 攻撃の一撃 攻め立て 速さの策謀
かばんから取り出した人形を弓使いに変形させる。
「俺のような肉体強化中心の魔法使いは、弓使いや遠距離攻撃使いに弱い。そこで、さっきの剣士みたいに遠距離攻撃に対応できる魔法人形を何度も戦わせた」
レオンのつくった人形がハナコのつくった格闘家に勝負をしかける。
弓使いは遠くから弓を連射。格闘家は待ってましたとばかりに弓を拳で薙ぎ払う。そして、ほんらい遠距離攻撃できないはずの格闘家がカウンターでパンチを放ち、拳圧で弓使いをボコボコにした。
レオンの魔法人形がただの粘土に戻る。
「勝手に動いて勝手に戦ってくれる。貴族の実践シミュレートでこれほど便利なものはない」
「ちょっと借りていい?」
「ああ、いいけど。どうするんだ」
「海洋堂なみのフィギュアをつくる」
ハナコは宣言通り、1日の大半を魔法人形で過ごした。
レオンが1限目の授業に出て、「無属性魔法しか使えません」と正直に話し、先生に怒られては帰ってくる。ハナコは魔法人形をつくっていた。
2限目では戦闘訓練。「肉体強化の魔法しか使えません」と正直に話し、先生に怒られては帰ってくる。ハナコは魔法人形をつくっていた。
3限目も4限目も5限目も、平民出身であることをバカにされ、「私は無属性魔法の肉体強化しか使えません」と正直に話し、召喚ガチャはSSレアだったけれども平民の女の子でした、と言うといじられた。
大国アルテミスでは無属性魔法の使い手は剣士や戦士に多い。
彼らは魔法ではなく、剣技と呼ばれる剣のスキルで魔法使いに対抗する。
よって無属性魔法は貴族の間で嫌われている。
その余波はレオンにもやってきた。
「落ちこぼれのレオン、気にすることないわ。あんたの魔法は学園一よ」
放課後、ヘミィと合流し、喫茶店でお茶をする。
初日の授業にしてはこんなものかなと納得したレオンだったが、うってかわって、ヘミィの場合は「学園始まって以来の天才だ!」と騒がれたらしい。
「五大属性魔法の使い手なんて大賢者以外いないからな」
平民の剣技スキルと共通する無属性魔法が嫌われるように、貴族で一目を置かれる魔法も存在する。
それは三属性魔法。それもトライアングルと呼ばれる赤、青、緑の複合魔法だ。
ヘミィはその使い手だ。+無属性魔法とオリジナル魔法が使えて召喚ガチャがSSレアのドラゴンなのだから、神話レベルの天才だ。
「俺は基礎魔法のクラスでお前は最上級魔法のクラス。妥当だな」
「レオンは強いくせに幼児と同じようなことを学んでいるんですって」
「お前が5歳でできたこと、俺はできないの」
才能の差というやつか。もともと平民だったレオンに三属性を扱うすべはない。
ヘミィは食券を3枚の最上級のコーヒーを注文する。
レオンは食券1枚の格安コーヒーだ。
「ライバルはどうだった?」
「あんた以外、みんな最上級魔法のクラスですわよ」
「それはいい。兄弟子、姉弟子たちの動向はどうだった?」
「初日でレオンのフードを奪ったと自慢したら、『ざっこ』って笑ってましたのよ」
「落ちこぼれで悪かったな」
レオンはため息をつく。いくら王様に認められた裏の大賢者だろうとここでは落ちこぼれ。
ヘミィのレベル上げと王様じきじきの任務を終えて早く隠居したかった。
最上級のコーヒーが届く。食券3枚分、ランチなら三回も食べれる値段。
ヘミィは優雅に口をつける。
「それで、あのSSレアは?」
「ああ、それなら……フィギュアづくり」
「はあ?」
「俺も何のことかさっぱりだよ」
結局、ハナコのフィギュア熱は冷めることなく、夜を徹して行われた。
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