第5話 交際 『11月15日(水)』
今日は授業がとても長く感じた。その理由はまあ明白すぎる。放課後が待ち遠しかったからだ。それに遥のことが気になって仕方がなかった。授業中はチラチラと遥の方を見てしまって自分でも引くくらいである。でも時折目が合い、遥が微笑んでくれて、それだけで幸せになる。これが誰かを好きになるってことなんだと、
眠たい6時間目の授業を耐えて、ついに待ち望んでいた放課後がやって来た。そう、デートだ。遥の用意のため、家から公園に行く話となったが、デートはデートであり、僕の方も用意がある。だから一緒に帰る友達にさっさと帰りの準備をするよう急かし、いつもよりも5分ほど早く学校を出た。帰り際、遥と目が合って笑いかけられたのは、きっと記憶違いではなくて本当のことだろう。だって、僕と遥は付き合っているんだ。
「さてと、どの服を着ていこうかな」
まあまずぶち当たるのはこの問題である。大切な女の子とのデートである。オシャレはしたい。だが女の子とのお付き合いというのは初めてだから、全くもってどれを着ていけば良いのか分からない。生粋のリア充である友人君に聞けば、良い返答が得られそうではあるけれど、遥と付き合っているというのを話すことが前提だ。273.15パーセント冷やかされるため却下だ。母上に決めてもらうというのも手だがそれも却下。理由は察して欲しい。
となると服は自分で決めなければならない。どれが良いのか? まあ無難にジーパンにパーカーでいいだろうか……あとは冷えそうだからコートを来ていこう。これが僕なりの『オシャレ』というものだ。
さて、服選びが終わった時点で16時。約束の時間の5分前に着くように計画するのが良いらしいからそろそろ家を出た方が良い。まだ30分も前だというのに、僕の胸は動きを速くする。
友達と遊びに行くと言って家を出ると、辺りは少し薄暗くなっていて日の短さを感じられる。もうすぐ冬だなぁなどと当たり前のことを考えながら、青い瓦の屋根のおうちを目指す。道の所々には落ち葉があって、そこからも冬の訪れを感じる。でも冬になってこれから寒くなるというのに、心はどんどん温かくなる気がして、そんなことを考えている自分に笑ってしまう。
さて、15分で青い瓦の屋根のおうちに着いてしまった。約束の時間まであと15分もある。でも約束の時間より早すぎたら迷惑かもしれない。どうしよう。若干寒いし。でもまあ待つか……
やっと5分がたった。時計の針が怠けているかのように時間が遅い。全く進まない。今すぐにでもインターホンを押したい衝動にかられる。もう良いだろうか? ……駄目か。
紅く染まっているしている木をぼんやり眺めて季節を感じていたら、気がつけば16時半だ。よし、そろそろいいだろう。だがインターホンを押す指が緊張で震える。もしお母さんとかお父さんが出たらどうしよう。「娘はやらん! 帰れ!」とか怒鳴られたらと思うと怖い。だがまあ埒があかないので勇気を振り絞ってインターホンを押す。
ピンポーン
ガチャっと音がして人が出てくる。幸運にも出てきたのは遥だった。
白のワンピースを着て『オシャレ』した遥は、まるで天使のようで、表せる言葉が僕の脳には無いのが悔しいほどかわいくて、どうしようも無かった。
「おま……たせ。その……どうかな?」
「………………マジ天使」
「へぇ!? え、あ、ありがと……」
超気まずい。でも照れて真っ赤になってる遥が可愛いから良しとしよう。軽くいちゃついていると、遥のお母さんらしき人が家の奥からやって来た。遥はかわいい系だけど、お母さんは美人って印象で、大人の女の人って感じがする。背も、遥は背の順で前の方だけど、お母さんは僕より少し高くて、本当に親子なのかと疑うくらい。とても若く見えるから、どっちかというと遥のお姉ちゃんって感じだ。
「あら、さっき話してた彼氏君? 初めまして、遥の母です」
「あ、は、初めまして。え、えっと、途川さんとお付き合いさせて頂いている宮地 結糸です!」
腰を直角に曲げ、お辞儀。
「あらまあ、かわいい。遥、私がもらっても良い?」
何てことを言い出すんだ。
「え!? あ、あげないよ! 絶対絶対! 結糸は私のだもん!」
…………死にそう。死因は恥ずかしさと嬉しさと幸せだ。
「ふふっ冗談よ。結糸君が困ってるから早く行きなさい。気を付けてね」
「分かってる! 行ってきます!」
でも、仲の良い親子って感じで心が温まる。
「遥のお母さん、すっごい綺麗な人だね」
「浮気したらダメだからね」
「しないって。遥が1番だもん」
「……それを平気で言えて、何で『好き』ってたった2文字が言えないの?」
「……わかんない」
「照れ屋さんだね」
「……………………バーか」
「へへっ。照れ隠しがバレバレ」
笑いながら、デートとは思えない空気感だけれど、それが僕達には合っている気がして、とても心地良い。それに遥の笑っている顔を見るだけで心が満たされて、もっと幸せになる。そして遥ともっと近づきたいと思う。
「遥、」
「なに?」
「ん、」
「ふふっ。ありがとう。ちょっと寒かった」
ぶきっちよに差し出した手を遥がとる。遥の手の温もりが伝わってくる。でも秋の風は寒いから勇気を出して、繋いだ手をポケットの中に引き込む。
「ふぇ!? …………これは流石に恥ずかしいよ……でも、温かいね」
そう言った遥の、仄かに赤い顔を見るだけで自然と体が芯から温まる。遥にも、僕を見ただけでそう感じてもらえたらそれは最高に幸せなことだろう。
他愛もない話をしながら歩いて公園に着いた。公園でもベンチに座って、学校の話とか、将来のこととか、いろんなことを話した。それこそ小説にしてもなんの面白味も無いようなことだけれど、僕らにとっては特別なものだった。そして、より一層遥との距離が縮まったような気がした。
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