第4話 幸福 『11月15日(水)』

 翌朝学校に行くと、いつもは予令ギリギリに来る途川さん、いや、遥がいて、ビックリすると同時に昨日のことを思い出し頬が熱くなった。


「あれ? 途川さん、今日は早いね」


 昨日の帰り際、お互い冷やかされるのが嫌だから、学校では付き合ってるのを隠そうという話になった。だから他の人がいる前では今まで通り名字で呼ぶ。名前で呼ぶのは2人っきりの間だけだ。


 だから、『いちゃつく』という表現が当てはまるかはわからないのだけれど、恋人として話せるのは、お互い用が無い火、水、木曜日、その放課後、公園での数時間となった。遥の家の門限が6時半だからあまり遅くまではいられない。まあお互い帰宅部だということは唯一の救いだった。


「う、うん。宮地くんに用事があって」

「え? なに?」

「ちょっとついてきて」

「あ、うん」


 ほとんど無人の廊下を歩く。廊下から中を覗いた隣の教室にもほとんど人がいない。



 着いたのは昨日の校舎裏。辺りに人がいないのを確認してから遥が口を開く。


「結糸、今日公園行く日じゃん」

「うん。だね」

「それで、さ。初デートな訳じゃん……」


 デート……そうか、デートか。


「う、うん。。デートだね」

「だから、少し……オシャレ、したいの。なので、今日は一旦家に帰ってから公園に行かない?」

「それは別に構わないし、うれしい……けど、でも遠くない? 学校の帰りに行くことにしたのもその方が近いからじゃん」

「うん。でも大丈夫だよ」


 男子としては、女子に不便を感じさせるのは格好がつかないというか…………そうだ!


「じゃあ家まで迎えに行くよ」

「え!? それこそ結糸が遠いじゃん」

「いいよいいよ。これでも一応は彼氏なんだからカッコつけさせてよ」

「うん、じゃあ……お言葉に甘えて」

「家ってどの辺?」

「うーん…………駅の近くにスーパーあるでしょ」

「うん。1度だけ行ったことある」

「その駐車場の近くに青い瓦の屋根の家があるの。そこが私の家」

「分かった。じゃあ、帰るのが15時半くらいだから、16時半に迎えに行くよ」

「うんっ! じゃあそろそろ教室戻ろっか」

「だね」


 もうすぐ予令が鳴ってしまう。教室に戻らねばならない。でも教室では遥と話せなくて、ずっとここにいたいと思ってしまう。


「は、遥」

「どうしたの?」

「その………………す…………や、やっぱ何でもない!」


 今、僕の顔はどうなっているだろうか? 答えは簡単に想像がつく。自分のチキンっぷりに呆れるが、これでも頑張った結果なのだ。『好き』だけなのに、たった2文字がとても重い。


「ふふっ。かわいいね、結糸。そんな結糸も好きだよ」


 照れるような恥ずかしいような、それでもとっても幸せな気分で1日を過ごした。

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