第2話 秋春 『11月14日(火)』
校舎裏に風が吹く。
その風は、もう秋も終わりだというのに、まるで春の風のように暖かく僕を包み込む。僕の中にある気持ちのように暖かく、ポカポカと。
足音が聞こえる。その足音はたぶん彼女のものであって、僕が今から想いを伝える相手のものである。
そして彼女が角を曲がり現れる。彼女の、途川さんの姿が目に入った瞬間、僕の胸は高鳴り、心臓が文字通り死ぬほど速く動き、そしてその音は彼女に聞こえてしまうんじゃないかと心配するほど大きい。
「宮地君、話って……何?」
いきなり本題。心の準備はできていない。
「え、えっと、あ、夕日が綺麗」
「え、え? 夕日? ………あ、本当だ……」
でも、彼女に伝えたい想いがある。決して消えないように、彼女に伝えたい想いがある。この想いは今日初めて知ったものだけれど、それでも確かにあって、時間とは関係なしにどんどん大きくなって、もう伝えなければ爆発しそうなくらい膨らんで、
そして伝える、今。
「途川さん」
「何? 宮地くん」
「え、えっと、あ、……あの! そ、その………よ、よろしければどうか僕と、お、お付き合いしてくださいっ! 」
「え、えぇ!?」
ついに言ってしまった。心臓のバクバクは最高潮に達し、頬の熱はインフルエンザのときのようだ。
フラれてもいい、仕方がないと思っていたけれど、やっぱりフラれたくない。途川さんの隣にいたい。そう思ってしまう。そして応えを、聞きたくもあり聞きたくない、彼女からの回答を待つ。
1時間にも感じるたった数秒の時間が過ぎ、また風が吹く。
その風が止んだとき、彼女の唇が言葉を紡ぐため開いた。
「え、えっと、私も……私も宮地くんのことが好きっ!」
え、………ええ!?
「だ、だから、その、よろしくお願いしますっ!」
え、…………ええ!?
「え、本当に、僕のこと……?」
「うんっ!」
言い表せないほどの嬉しさが込み上げてくる。
「で、でも、途川さん…………その……か、かわ……いいから、モテるんじゃ……」
「そ、そんなことないよ! それに……他の男の子よりも、宮地くんのことが好き」
女の子、それもとってもかわいい途川さんに言ってもらえるとはなんと光栄なことだろうか。嬉しさと恥ずかしさで胸が張り裂けそうになる。
「え、…………その、ありがとう……待って超ハズい……」
「えへへ……じゃあ宮地くんもやり返してよ」
さっき思ったことを、口に出そうとしては消えていた言葉を口にする。
「…………み、途川さん、夕日よりも、綺麗……だよ………」
「………………だめ、恥ずかしい。真っ赤になってるから顔見ないで………」
「ぼ、僕も………」
幸せ、13年と11ヶ月生きて、今まで感じていた幸せとは、比べ物にならないほどの幸せを感じていた。
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