Episode 09

ー柊香&楓sideー


「なんか、こうやって2人でゆっくり歩くの久しぶりな気がする」


「…そうだな」


夕食のレストランの予約時間までしばらくあるため、手を繋ぎながら近くを散歩していた。途中何人かの独身オブザーバーから殺気を感じたが、全て華麗に無視した。


「たく、なんで死んでまでリア充爆発しろ視線に晒されねばならんのだ…」


「それだけボクが可愛いってことでしょ?彼氏としては誇らしいでしょ?w」


「そのおかげで俺が殺気に晒されてるんですが…。まあ確かにお前は可愛いよ。そのへんのやつらより」


「ぁ…ありがと………」


「じ、自分で切り出したくせに照れてんじゃねえよ…」


「うん、ごめん。でもなんか、面と向かって可愛いって言ってくれたの初めてな気がする」


「たしかに、いつのまにか流れで付き合ってたからな。そういうのは全然言ったことないな」


「嬉しかったよ?」


「そうか」


「もっと言って?」


「やだ。恥ずかしくて死ぬ」


「だからもう死んでるじゃんw」


「いちいち揚げ足を取らんでいい…」


「あはは。楓かーわいー」


「やめろって…」


2人の言動は後方にいる別の2人も悶々とさせていたのだが、この時の2人はまったく気づいていなかった。




……………




ー某高級レストランー


「風凪様ですね。ご予約ありがとうございます。お席はこちらです」


「あ、はい…」


フロントのスタッフについて席まで移動する。少し見栄を張って予約をしたはいいものの、どうしても自分たちの場違い感が否めない。周りのお客さん、めっちゃ見てくるし。おそらくいくら払ったかさえ気にしない人たちなのだろう。


「すごいね…」


「ああ…」


「今日は何かの記念でいらしたんですか?」


「あ、はい。今日こいつの誕生日なんです」


「まあ、おめでとうございます。ではお誕生日特典を適用させていただきますね」


「あ、ありがとうございます…」


「では、お料理ができるまで少々お待ちください。ごゆっくり」


スタッフがスタスタと歩いていってしまうと、余計に緊張感が高まる。


「服装とか大丈夫かな…」


「大丈夫じゃない気がする」


「………」


「何か言ってよ」


「何を言っていいかわからない」


すると柊香たちの後ろの席に座っていた男性が、楓に耳打ちしてきた。


「こういう時は、一言『愛してる』でいいんやで、少年」


「なななな、何言ってんですか!無理です!恥ずかしくて死にます」


「男なんやからデートの時くらいしゃんとせな」


「ででででも………」


「何コソコソ言ってるの?」


柊香がジト目で睨んでくる。男性は「ま、頑張りや」と言うと、自分の席に戻っていった。


「えーっと………、柊香…」


「何?」


「……………あ……ぃしてる…」


「え、何?」


「………愛してる」


「あ…あ…あ…」


「……………」


柊香の顔を伺うが、俯いていて見えない。後ろでさっきの男性が吹き出しそうになるのを必死にこらえていた。


「………柊香?」


「………ボクも…」


「へ?」


「……………ボクも、楓のこと愛して…る………」


視界が真っ白にになるとともに、楓はしばらくの間意識を失った。

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