Episode 08
ー柊香の誕生日当日ー
「じゃあ、行こうか」
「うん…」
明らかに柊香の顔がいつもの倍近く朱色に染まっている。
「いや、頼むから普通にしといてくれ。恥ずかしくて俺が先に死ぬ」
「もう死んでるのに何言ってんの」
「そういえばそうだった」
夫婦漫才のような会話を交わしながら家を出る。結局、誕生日デートのコースは、オーソドックスに、レストランで夕食をし、ブラブラ散歩しながら夜景を見るというプランになった。最後に花梨発案のとっておきのサプライズがあるのだが、楓には正直に言って実行できる自信が無い。
「俺がまだ生きてたら普通に祝ってやれるのにな」
「ううん、いいの。たしかに死んじゃったけど、今でもこうして一緒にいられるんだし。私は満足してるよ?」
「いやでも…」
「そんなに言うなら条件付きで祝われてあげる」
「条件?」
「デート中手を繋いで実体を保つこと。そして周りの人たちに見せつけてやること!」
「………独身のオブザーバーに殺される未来しか見えないんだけど…」
「だからもう死んでるじゃん」
「わかった。行こうか」
楓が手を差し出すと、柊香が優しく握った。
「行こう…」
「うん…」
「というか流れでちょっと高いレストラン予約しちゃったけど、いいのか?俺食べても、実体が消えるのと一緒に食べたものも無に帰すからコスパ悪いだろ」
「デートにコスパを持ち込むのはやめよう?」
「すみません…」
……………………………
「こちら誕生日デート援護隊。目標を視認」
「新河…、何やってるんだ?というかなんで私まで」
近くの茂みに身を潜めて花梨と蓮が2人を見守っている。蓮はちゃっかりカメラと双眼鏡まで持ってきていた。
「いやー、なんかこう、友達のデートを見守るのって、実際やってみるとドキドキするよね!」
「お前はなんでそんな純粋な目でストーカーみたいなことができるんだ…」
「まあまあいいから。花梨さんも一緒に」
「だから名前で呼ぶなって言ってるでしょ」
「えー、ケチ」
「はあ、まあいいよ」
「わーいo(^▽^)o」
「大声出すと気づかれるぞ」
「あ、ごめん」
「なんというか、新河のほうが私なんかよりよっぽど女の子っぽいな…」
「…それはそれで複雑なんだけど…」
「…すまん。前見ろ前」
「うん…」
「にしてもあの2人なかなか動きを見せないな」
「デートプランとか事前に教わってないの?」
「元々後ろからコソコソ付いて行く予定じゃなかったからな。知らん」
「そっかー。………ねえ」
「ん?何?」
「側から見れば僕たちもカップルに見えるのかな…」
「なっ!?」
蓮が少し頰を染めながら言うので、花梨もつい紅くなる。
「いや…ないんじゃない?こうやってコソコソやってるやつらをデート中のカップルだと思う奴なんていないだろうし…」
「そう…だよね…」
「それに新河だって嫌だろ?私みたいな女っぽくないやつと付き合ったって」
「僕は…嫌じゃない…よ?」
この後しばらく、偵察隊の2人の間に気まずい空気が流れたのであった。
…………………………
「ねえ楓、後ろからラブコメの匂いしない?」
「何言ってんだお前は…」
「うーん、たしかに匂ったんだけどなあ…」
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