Episode 05
このエピソードには、架空の航空機事故が含まれています。この手の話が苦手な人、現実とフィクションの区別がつかない方はブラウザバックをお勧めします。
※この作品はフィクションです。
ある夜
「くっ!うぅ…」
「ふわぁ…、楓?」
「うっ!!うう!」
「楓!?大丈夫!?」
「ああああ゛あ゛あ゛あぁぁぁ!」
楓は死んで身体がなくなった今でも、寝ている間に夢を見る。だが、その殆どは”あの日”の記憶。悪夢だ…。忘れたくても忘れられない日。
……………
「お客様の中にパイロットの方はいらっしゃいませんか!?」
「!?」
「俺が行きます!」
「楓!?ちょっと!」
……………
「Tokyo Control, Air-Chiyama 17、えー、日本語で申し上げます。私は乗客です。パイロットが2名とも体調不良、メディカルエマージェンジーを宣言して羽田にダイバードします」
『了解、ダイバード承認。左旋回してAWARDに直行。周波数119.1で東京アプローチと交信してください』
……………
「まずいな…降ってきやがった」
『Air-Chiyama 17、滑走路34Lへの着陸を許可します。風は方位142から7ノット。追い風ですので速度に注意してください』
「34Lに着陸許可、Air-Chiyama 17」
……………
『500』
「もう少しだ…」
『Go around!Wind shear ahead!』
「っ!?ゴーアラウンド!!!」
『Pull up!Pull up!』
「くそっ!失速してる!Tokyo Tower, Air-Chiyama 17, we are going around!」
『Stall!Stall!』
「間に合え!!!上がれ!!!」
……………
「お近くのドアから素早く機外に脱出してください!荷物は何も持たずに脱出してください!」
「楓ー!」
「お客様、危険ですから早く外に…」
「楓が!友達が操縦席に!」
「危険です、早く外へ!」
「ダメっ!楓!」
「柊香、先に行ってろ!楓は私に任せろ!」
「花梨ちゃん!」
「お客様!危険ですから早く外に!」
「うるせえ!どけ!」
「楓!」
「行け!」
……………
「楓!しっかりして!」
「楓!もう少しで救急車来るからしっかりしろ!」
「………n、g…めん…」
「楓!?」
「おい、しっかりしろ!楓!」
「ご…めん………、もう…ダメ…みたい…」
「やだ!起きて!目を閉じちゃダメ!!!」
「おい!しっかりしろ!生きるんだ!」
「しゅ…u…か…」
「楓!」
「d……s……だ…」
「楓!!!!!」
「ダメだ!楓!目ェ開けろ!まだ…3人でやってないこといっぱいあるじゃねえか!起きろ!」
「………」
「嘘…イヤ…いや…」
『ご覧のように現場は負傷した乗客や機体の破片が…』
「おいこら!なに撮ってんだ!カメラ回すんじゃねえ!!!マスゴミ!!!」
『!?…えぇ、現在も混乱が続いて…』
「いい加減にしろテメエ!!!」
「楓…お願いだから目を開けて…開けてよぉ………」
……………
「っ!?っハァハァ…」
楓は悪夢から現実へと引き戻された。自分でも驚くほど息が浅い。既に死んでるから実際には呼吸はしていないのだが、無性に息苦しさが残る。
「楓、大丈夫!?」
「柊香…」
「はい、お水飲んで、落ち着いて」
「悪いな」
柊香が手渡した水をぐいっと飲むと、少しずつ冷静さが戻ってきた。
「びっくりしたよ。突然身体が中から揺れるみたいな感じがしたから」
「ごめん。心配かけた」
「ううん、いいよ」
「………」
「ねえ………もしかして、あの日のこと思い出してたの?」
「………ああ、早く忘れたいのに、たまにこうやってフラッシュバックしちまうんだ…」
たぶん今回のは、昨日花梨が帰り道でこの話題を出した影響だろう。
「花梨め…許さん」
「へ?」
「あ、いや、なんでもない」
ふいに柊香が肩にもたれかかってきた。不思議と、こうされると肩の力が抜けていく。
「もう、心配かけさせないで」
「………なあ、柊香」
「何?」
「今言うのもなんだけど、今度のお前の誕生日、どこか行こうぜ。去年は…あれだったし…」
「…気持ちは嬉しいんだけど…また何か起こるんじゃないかって不安なんだ…」
「心配しなくても2度は死ねないから大丈夫だって」
「そういう問題じゃないんだってば…もう…」
「ああ、すまん」
「もう………まあいいか。じゃあお言葉に甘えようかな」
「決まりだな」
「期待してるからね。…じゃあおやすみ」
「おやすみ」
言葉を交わし、再び柊香の中へと戻る。だがまた”あの日”を思い出しそうだったので、眠気に負けるまで目は閉じないことにした。
今から1年前。楓の存在を大きく変えてしまったあの日。
ー2017年4月2日 東京国際空港 Chiyama Aviation 17便 着陸失敗事故ー
忘れたくても、決して記憶から消えない、悪夢の日。
※この作品はフィクションです。大事なことなのでもう一度言います。この作品はフィクションです。
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