Episode 03
ー入学式終了後 姫川家ー
ー柊香視点ー
「なあ、なんでこいついるの?」
と楓。
「ボクもよくわからない。気がついたら後ろにいた」
と柊香。
「今すぐ帰した方がいいと思うんだけど」
と花梨。
「えぇ…と、もしかして僕お邪魔だった?」
そして申し訳そうに頰をかいている男子生徒が1名。
「「「呼ばれてると思ってたのかこいつは…」」」
思わず3人でハモってしまった。楓が全く関係ないであろう男子生徒に目視されてしまった件について3人で話し合おうと、こうして柊香(楓)の家に集まったわけだが、なぜか当事者の男子生徒がひょっこり着いてきていた。
「えーっと…、まだ名前聞いてなかったよね。教えてもらってもいい?」
「あ、うん。では改めまして、僕は新河蓮(あらかわれん)。よろしく」
「…以上?」
「うん!」
満面の笑みで答える蓮に若干戸惑いながらも、柊香は話を続ける。
「それで、新河君は楓のことどんな風に見えてたの?」
「え?他の人と変わらない程度にはハッキリ見えてたけど…」
「マジか」
楓が信じられないといった顔で呟く。
「マジだよ」
やり取りを聞きながら、柊香は頭を抱える。なぜ見えるかはさておき、楓の存在を広めないようにしてもらわないと困る。もし外部に漏れて「幽霊を従える現役女子高生!」なんて記事が世に出回りでもしたらたまったもんじゃない。そうなったら面白がったマスコミやTwit◯erの特定厨から追い回されて平穏な日常は終わりだ。
「というかなんで僕が楓君を見れることでそんなに騒いでるの?」
蓮がキョトンとした顔で尋ねる。
「あーそっか、あまりに普通に見えるから区別がつかないのか…」
頭の上に?が増える蓮を見ていた花梨がすっと立ち上がった。
「どした?」
「いいか新河、こういうことだ」
「?」
そういうと、花梨は勢いよく楓の腹めがけて拳を突き出した。当然実体がない楓の身体にぶつかるはずもなく、そのまま通り抜けた。
「こういうことだ」
「どう…いうこと…?」
さっきまで小動物のような愛くるしい表情だった蓮の顔が恐怖に染まっていた。楓のことが普通に見えている蓮にしてみれば、拳が身体を貫通するなんて軽くホラーだ。
「まあそう驚くなって」
花梨はそう言うと、腕を抜き差ししたり、楓の身体の中でぐるぐる回したりした。
「くすぐったいから人の身体をかき回すのやめてもらえないですかね」
「身体無いくせに」
蓮の方を見ると、口を大きく開けて固まっていた。
「ちょっとやりすぎたかな」
「反省しろ」
「そうだよ、花梨ちゃん」
「うぅ…」
フリーズしていた蓮を起こすと、柊香は正面に座り、口を開いた。
「見てもらった通り、楓には実体がない、魂だけの存在なの」
「魂だけの…」
「ボク達と関わるなとは言わないけど、1つだけ約束して欲しい」
柊香が蓮にぐいっと詰め寄る。あと少しで唇が触れる距離まで詰め寄っていたので、後ろで楓が嫉妬に染まった拳を握りしめ、花梨に宥められていた。
「なっ、何?」
「楓のことは他の人には内緒にしてください」
「へ?」
「お願いします」
深く頭を下げる柊香を見ながら、蓮は少し戸惑って頰を掻いた。そして再び笑顔を浮かべて、
「うん、わかった。言わない」
と答えた。
「ありがと」
柊香も笑顔で答える。目からハイライトが消えた楓は、花梨にズルズル引きずられて退場していった。
「僕からも1ついいかな?」
「何?」
「僕の初めての友達になってください。楓君と花梨さんも、お願いします」
今度は蓮が頭を下げた。柊香が楓と花梨の方を見ると、花梨から「任せる」と目で返された。
「………」
「こちらこそよろしく、蓮君」
その後、楓がひとまず機嫌を直すのに3時間かかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます