第3話 ルール
ガサガサガサ(木の枝が揺れる音)
『んー。』と、また伸びをして、ベルベットは耳を密かに澄ませていた。
『・・・さっきからグランツの音(人を食べている音)とはべつに、獲物の音がするなぁ・・・ニヤ』そう言うと、椅子から勢いよく立ち上り、今からジャンプでも、するかのように両足にグッと力を入れたかと思うと、ベルベットはその音が、する方へと飛び跳だした。
「・・・っはぁはぁはぁ、守ってやれなくてごめんな・・・うぅぅぅ。」
「パパァ・・・なんで泣いてるの?ママは?・・・」
「しっ・・・し、静かにしないとっ。」
音の正体は、人間の声らしい。大人の人間の男と、人間の子供2人の声がする。多分グランツに食べられている、人間の女の“家族”なのだろう。
「うぅぅ・・・パパァ・・・怖いよぉ・・・。」
「・・・私も・・・。」
「だ、大丈夫だっ。・・・だが・・・こ、ここから一刻も早く逃げないとなぁ・・・はぁはぁ・・・。」そう人間の男は言うと、泣きじゃくる2人の子供を抱きしめた。
すると、人間の頭上から声がするではないか
『・・・どこに?』ベルベットは、気配を消さずに姿を“普通”に表した。タカッっと言う音と共に、ベルベットは、着地した。そして、近くの切り株にドサッと腰を下ろした。心なしかベルベットは、愉快そうに見える。
声がする方向に人間達は恐る恐る振り向いた
「Σぎゃぁぁぁぁぁあ(叫)」
2人の人間の子供は体を震わせながら全身で泣き叫ぶ。
『はっ。(驚)な、な、な、』人間の男は見つかるとは思わず、それに人喰いという者を始めて目の当たりにしたので、驚愕するのと同時に、恐怖で言葉が出てこず、身体を震わせている。
その人間達の光景を表情1つ変えずにベルベットは、不快そうに片目をつぶり、冷たい視線を送りつつ、人間の子供の泣き叫ぶ声に耳を塞いだ。
『っつ・・・うるさいなぁー。(怒)』不愉快気周りないと、いう表情を浮かべながら、足を組みなおし、なおも人間達の怯えている姿を、愉快そうに、眺めているベルベット。
その頃グランツは、人間の女を食べ終わり、ふとベルベットの行方が、気になり探していると、複数の人間の声が聞こえてきたので、その方向へとゆっくり歩みを進めた。
するとそこには、切り株に片耳に、指を入れて五月蝿者を見るような 、表情をして座っているベルベットが、居ることに気づく。そして、ベルベットがなにを見ているのに気づき、グランツはベルベットが、見ている方向に視線を移動させた。
「おやおや・・・ゲプッ。おっと。こんなに食べ物が居たとはねぇー。それにしても、簡単に人間に、“姿”を見せるとは・・・。まぁ・・・今の僕もだけどクスッ」
人間は人喰いの姿を簡単に見ることは出来ない、いや見えないのだ、だが恐怖を感じると、少しばかりは見えるのだが、完全には見ることは出来ない、だがこの時ベルベットは、気まぐれで“姿を見せたのだ”。
その光景を珍しそうに、眺めながらグランツは、胸の内ポケットから、スルスルと綺麗なハンカチを出し、手に付いた血を払い、そして口元を綺麗にハンカチで拭いていた。
「・・・不思議だねぇ・・・ベルベットという純血の人喰いが、そうも簡単に、人間に姿を見せるとは・・・。興味深いなぁ。クスッ」少し眉をひそめ、面白そうに言うグランツ。
「それにしても、たった今食事が終わって、少しお腹いっぱいだけど、3人も居るなら1人食べてもいいのかなぁー。なんてクスッ」ベルベットに、話しかけているのに聞こえないのか、ベルベットの返事は無い。
すると、ベルベットは、相当腹が減ってイライラしてるのか、片耳を塞いでいた、指を耳から抜き
『・・・はぁ?てめぇさっき食ってただうが?ふざけんなよ・・・私のだ。』そうドスの聞いた声出、グランツを威圧すると、ベルベットは、蔑むようにグランツを睨みつけた。
「おっと・・・あはは・・・ごめん、ごめん、そんな目で見ないでよォ。怖いなぁ・・・あ、でも人喰いは人間の子供食べちゃいけないんじゃなかったかなぁー?」グランツは、ベルベットが怖くなり、すぐに話を変えて、ベルベットの機嫌をうかがう。
人喰いの2つ目のルールで、成人した人間でないと、食べてはいけないと、いうものがある。何故かというと、子供を食べると人間が、減ってしまうという、低レベルな考えで誰かが、暗黙のルールを作ってしまったため、今世紀まで守られてきたのだ。
『あーあ・・・そんなルールあったけっかなぁ・・・フン・・・興味ない・・・』少し考えて、どうでもいいと言うように答えるベルベット。
『今お腹減ってイライラしてるから、話しかけないでくれる・・・?』するとベルベットの歯はみるみる尖っていき、爪は伸び、見た目がどんどん変わっていく、最後には目の色まで、青色に変わっていき、人喰いの本来の姿がチラッと見えた気がした。
「おぉ・・・怖い怖い。これだから、ベルベット君みたいな純血は油断できない。」グランツも純血とはいえ、ベルベットの力には到底太刀打ちできない。そのくらいベルベットは、純血の人喰いの中でも、珍しく階級が上位なのだ。
グランツと、ベルベットが2人で会話していて、人間に関心がそれているのを、見ながら人間の男は2人の人間子供に、耳元で話しかけた。
「ゴクリ・・・今のうちに逃げるぞ。良いな?」2人の人間の子供はコクリと、頷いた。涙目のままだが。
まだグランツと、ベルベットは、そんな人間の会話に、気づかずに言い争っている。
「じ、じゃぁー、どうするの?子供の人間は?ベルベット君が嫌いな“雌”も1匹いるし。」グランツは、これ以上ベルベットを、怒らせないように、気をつけながら適度な距離を保ちつつ話しかける。
『・・・雌?さっきから、臭いと思えば・・・』凄く不愉快そうに、鼻をピクリと動かし
『・・・やるよ。要らなし・・・お前も要らないなら、この場で殺す・・・それに子供の人間なら、成人するまで、屋敷で“飼育”すればいいだろ?お前と話してるとイライラする。』ベルベットは、至極面倒臭いと、いう表情を、作りながら未だにグランツとの会話に夢中だ。
(今感心がそれてる、今しかないな、助けてやれなくて、守ってやれなくてすまない。子供2人だけは必ず守ってみせるからな。)人間の男は覚悟を決め、2人の人間の子供を抱き抱えて、走り出した。
ガサッ。ダダダダダダダッ。
『あ・・・。』ベルベットは、特に驚きもせず、焦りもせず、人間が走って逃げている光景を眺めている。そして、このままだと空腹が、満たされないと気づき、怒りがこみ上げてきた。
『チッ。クソ下等種族がぁ。こっちは5日も、なにも食ってねぇーだよ。』ベルベットは、そう言うとまた、さっきみたいに、両足にグッと力を入れて一瞬で高く、上へ飛び跳ねた。
ベルベットが、高く飛び跳ねて行く後ろ姿を見ながら、ボソッとグランツが、呟いた。
「人喰いから逃げられるとでも、思ってるのかなぁー。ふぅー。。人間ってほんと愚か生き物だなぁ・・・。」そう呆れたグランツの声が、血の匂いをまとった風にかき消された。
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