第2話 食す者

ベルベットは、ブラウンと話したあの日から、驚いた事にまだ森の椅子で、5日間の間も眠り続けていたのだ。



『zzzZ。むにゃむにゃ。』すると


ドンっ。と言う音と共に、ベルベットが寝ていた椅子がぐらついた。なにかが、ぶつかったらしい、いやぶつかってきたのだ。


「はぁはぁはぁ・・・こ、殺さないで。殺さないで下さい・・・」ベルベットの、椅子の横でそんな声がする。


ベルベットは、うるさいなぁーと、思いながらも、未だに眠気に勝てず、ゴソゴソ身体を動かした。すると、少し遠くからベルベットの、耳に聞き覚えのある男の声がした。けれどベルベットは、微動だにしない。


「うーん・・・殺さないよ♪まだね♪ふふふふっ♪♪もっと・・・僕を楽しませてよォ・・・」至極楽しそうにしている男は、どこかしら哀しげな表情をしている。いや、顔色なのかもしれない。


「うーんと・・・それより、もぉ・・・まだ、人間の仲間?居たよねぇ・・・どこかにいるのかなぁー?」キョロキョロ探す素振りを見せて、その男は楽しそうに木の枝に座って、人間に喋りかけている。



けれどベルベットは、息をする度に鼻腔に凄く嫌いな“血”の匂いが、強烈にする為耐えきれず、ガバっという音ともに5日ぶりに体を起こした。そして先程自分の寝ている椅子に、何かがぶつかってきたはずの場所に、ベルベットは視線を移した。


『・・・やはり、“臭い人間の雌”がいるな。』そう言うと、椅子の横で震えている、人間の女の手をグシャッと、いう音と共に踏み潰し、5日ぶりに椅子から立ち上がった。


女「ぎ、ぎゃぁあー!!(叫)いぎっ・・・いっ・・・痛い・・・」泣き叫びながら人間の女は、ベルベットに、よって踏み潰された自分の、掌に息をフゥフゥと、かけている。痛みが少しでも和らぐと思って、そのような行動をしているのだろ。



すると、その人間の女の行動をしりめにベルベットはおもむろに、自分の右足を今からボールでも、蹴るかのように、後ろに思いっきり振りかぶりる体制になった時に、その行動を制止する声がした。


「こらこらこら・・・ベルベット君。殺さないでよ勝手に♪ふぅ・・・やれやれ。」やや呆れたように、大袈裟な身振り手振りを交えて、話しかける男。



「もぉー知ってるでしょ?“死んだら”美味しくないの・・・ジュルル。」その男は、まだ木の枝に座っていて、この距離だと制止する声が届かないと思ったのか、スタッという音と共に、木の枝から華麗に飛び降り、地面に着地を決めて、自分の口から絶えず、滴り落ちるヨダレをハンカチで拭きながら、ベルベットに向かって近づいてきた。


『・・・貴様の獲物か?グランツ・アロマ・シャンプー。』そうグランツの名前を、顔を見ずに言うベルベット


先ほど振りかぶった、脚はそのまま容赦なく、人間の女に振り下ろす、人間の女に向けられた蹴りは、人間の女の腹めがけて綺麗に、命中しすごい勢いで、蹴り飛ばされた。


シュン、ドゴッ



バキィーバキバキバキ(木の折れる音)


人間の女はベルベットによって、100メートルはある雑木林の、大きな栗の木まで蹴り飛ばされ、その場所についた時には身体の足と腕が色んな方向に折れ曲がって向いていて、口から血を流しながら



人間の女「はぁはぁ・・・た、たすけぇ・・・ゴボッ。“あなたぁ”・・・ゴホッゴホッ・・・」と、口から血を吐きながら、生きようともがいている。


ベルベットの一連の行動を、しばらく黙って見ていた、グランツが口を開いた。

「・・・どうして蹴り飛ばしちゃうかなぁー。殺すなって言ってるでしょ?」

少々お怒り気味だ。だか、グランツよりベルベットの方が、腹の虫の居所が悪いようだ。


『あぁ゛?』


ベルベットは、威圧感のある声で返事をする。そして続けざまに

『・・・臭いんだよ・・・さっきから・・・それと私の靴に人間の女の“汚れ”が付いたじゃねぇか・・・』すると、靴に付いているのか、グランツには確認出来ないが、ベルベットは、自分の靴を地面ににじり付け、汚れを取る動きをしている。



「ちょっと、ちょっと、人の話聞いてます?ベルベット君?」グランツは、少しベルベットに、恐怖を覚えたが、腕を組んで怒っています、アピールをした。


『・・・まだ生きてるからいいだろ?』顎で人間の女が、蹴飛ばされた場所を指した。


「あ、あはは・・・だ、だからって、蹴り飛ばすのはどうかと、思うけどなぁ・・・。いくら嫌いでもねぇ・・・僕の獲物なのになぁ・・・全く・・・」そうブツブツ文句をいいつつ、ベルベットの行動や言動が、少し怖くなりグランツは、“獲物”の場所に向かった方が安全だと思い、渋々歩き始めた。


だか、グランツはその足を止める、何かを思い出したかのように、ベルベットを見ずに、背を向けたまま


「あーそうだ・・・ベルベット君♪“獲物”はまだ、居るから・・・食べちゃっていいよ。じゃあ。僕はお食事なので♪」そう言うと、そそくさとグランツは、ベルベットの前からいなくなっていた。



このグランツと言う人喰いは、ベルベットと同種で、純血の人喰いだが、ベルベットとは違い純血の中でも、3番目くらいの階級だ。それに人喰いには珍しく人間並みに、頭の回転が早いのだ。ベルベットは感情のままに動く性格なので、はたから見るとまぁまぁ良いコンビだとも言える。が、グランツは昔から少々ベルベット事が理解出来ず、恐怖を覚える時があった為、あまり関わらないようにしていた。



すると、ベルベットが蹴り飛ばした、雑木林の栗の木の側から、肉を引きちぎる音と一緒に、血が飛び散る音や、骨が砕かれる音、それと時より人間の女の悲鳴が、響いていた。グランツが、お食事をしているのだろ。




純血の人喰いは生きている人間以外は食さない、それが“純血”の特徴だ。だから死んだ人間は絶対に食べない。死んだ人間は下級人喰いか、半人喰いが食べる、そういう食物連鎖が、人喰いの世界にはルールとしてある。








『・・・獲物かぁ。捕まえるのめんどっ・・・。』そう文句を呟いてドサッと言う音とともにベルベットは、椅子に座った。すると、ベルベットのお腹からグゥーと、盛大な音が鳴った。



『・・・腹減った。でも“わざわざ”探すの嫌だなぁ・・』物凄く面倒くさそうに椅子の上で伸びしつつ、さっきから鳴り止まないお腹をさすった。


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