第5話 ほうほう病

 大暴れのシンヤだが、夜寝るときはさすがに静まる。その晩も、葉津美の部屋に置かれたクッションでぐっすりと眠っていた。葉津美もまた、畳の上にすえつけたベッドで寝息を立てている。

 そんな時間は突然壊された。

 バーン!

 縁側と室内を区切る戸がいきなり開いた。秋の夜風が吹き込む。葉津美もシンヤも寒くなって目を覚ました。

「どうして、開いてるの……」

 葉津美は不機嫌そうに布団から出て、目をこすりながら戸に近づいた。向こうには庭がある。

「ひっ!」

 一瞬で眠気が散った顔になった。シンヤも飛び上がって押し入れの中に逃げ込んだ。

「うちの猫……飛んでる?」

 葉津美の前では、キューちゃんが前足をかかげて後ろ足を垂らした姿勢で浮かんでいた。

『猫は仮の姿に過ぎぬ』

 猫とは不釣り合いな低い声が響いた。

『わしはこの家の守り神。お前にバチを当てるため、戻ってきた』

「何で、あたしに……」

 葉津美がたじろいでいるなか、声は続く。

『わからぬか? お前はいつもほうほう病で、わがままなことばかりしておる。もはや許しておけぬ!』

 声は強まったが、葉津美はキューちゃんをジロッと見つめ始めた。

「うちの妹?」

 ぎくり。芽衣は鼓動が早くなったように感じた。

 実のところ、キューちゃんはしゃべったり飛んだりしていない。一匹で葉津美の部屋に来たわけでもない。ここを訪れたのは、キューちゃんと、芽衣と、シロトラ様。

 今、芽衣はシロトラ様から透明にしてもらいつつキューちゃんを抱え上げている。声も低く変えてもらっている。しゃべり方のモデルはシロトラ様だ。

 こうすれば、キューちゃんが変な声でしゃべりながら浮かんでいるように見える……はずだが、葉津美はますますキューちゃんを疑いの目で見る。

「守り神とかほうほう病とか、いってることがアレそのものよ。トリックであたしをだますつもりじゃないの? 猫も本当は出てったりしてなくて、このために隠してたとか」

 キューちゃんが行方不明じゃなかったことは疑いすぎだが、トリックでだまそうとしていることは正解だ。

(キューちゃんが守り神だっていったのは私じゃない。うわさの中の話でしょ? ほうほう病って私が呼んでるのは、知ってたんだ)

 よく考えてみればばれる可能性もあると芽衣は気づいた。学校で友だちに「お姉ちゃんがほうほう病で」とか話したことはあるし、聞いた人→そのお兄ちゃんやお姉ちゃん→葉津美と話が流れていたとすれば。

 芽衣は戸惑ったが、無理やり追い払った。『どうする?』という顔で見つめてきているシロトラ様にニヤッと笑ってみせる。

(トリックを使ってることは正解だけど、霊能力者とかじゃない限り見破れないよ!)

 つまり、見破られていないのと同じ!

『反省する気はないようだな。ならば、ほうほう病の恐ろしさを味わうがよい!』

 芽衣が低い声でそう突きつけた直後、シロトラ様が葉津美に小さな吐息をかけた。葉津美がくずれるように倒れる。


      ◆ ◆ ◆


 朝日が差し込むなか、ベッドの上で葉津美が身を起こした。

「何、今の……猫が浮いてるように見えて……夢?」

 短く笑う。

「あいつ、夢の中であたしにいたずらを見破られたのね。妹の分際であたしをだまそうなんて、百万年早い……」

 ベッドの横に飾った鏡を見て、目を丸くした。

 口もとがおかしい。口というか、クチバシがある。

「何これ?」

 葉津美はクチバシをつまんで引っ張った。取れたりしない。引っ張りつつ、真正面や横から見てみる。

「さわった感じがするし……これ、あたしの口がクチバシに変わったの?」

『ほうほう病だ』

 また部屋の中で低い声がして、葉津美は辺りを見渡した。

「その声……夢の中で猫が話してたときの? どこにいるの?」

 声はその質問に答えない。

『わがままなことをしたり焼きもちを焼いたりするお前へのバチだ。お前の体は少しずつフクロウに変わってゆく』

「い、いや! そんなの!」

『今までのことを全て悔い改め、わびなければ、決して治らぬ』

 声が途切れて、葉津美は青ざめた顔でつばを飲む。

 もちろん、今しゃべったのも声を変えてもらった芽衣。透明になって葉津美のそばにいる。今度はキューちゃんも透明状態で、シロトラ様は元から芽衣以外の人に見えないので、葉津美はこの部屋に自分しかいないと思い込んでいる。

 葉津美に変身が始まったのは、術の力がこもった息をシロトラ様にかけられたから。芽衣は変身して遊ぶときにたっぷりかけられるが、葉津美には少しだけ。こうすれば少しずつ変わっていく。

 そもそもここは本物の世界ではない。葉津美が見ている夢の中だ。シロトラ様は、さっき部屋にいたものを連れてここに入ったというわけ。

 葉津美はここが夢とも知らずにオロオロしていた。クチバシを何度も引っ張るが、やはり取れない。

「こんな顔、学校で人に見せられない……休む?」

 つぶやきながら鏡を見て、戸惑いでいっぱいの表情になった。クチバシの横辺りに茶色い羽が生え始めている。フクロウ化が進んでいた。ふるえる手で使い捨てマスクをたぐり寄せて、口もとを隠す。

「謝らないとダメってこと? でも、そんなの……」

 戸が外からノックされた。

「葉津美、ご飯だよ。まだ寝てるの?」

「早く起きないと遅刻するわよ」

 お父さんとお母さんだ。いつもなら二人そろって起こしに来たりしない。しかしここは夢の中。外から連れてこられた人以外はみんなシロトラ様の操り人形みたいなもの。だからいつもと違うこともさせられる。

 葉津美は鏡を見たり戸を見たりして悩んた。しかしもう羽はマスクからはみ出てしまいそう。思い切ったように戸を開けた。

「パパ、ママ!」

 お父さんとお母さんは無表情で葉津美を見下ろす。

「パパ! プレゼントの値段をアレのと比べたりしてごめんなさい! せっかくあたしに買ってきてくれたものだったのに!」

「ママ! オバサン扱いしてごめんなさい! 子どものころの写真を見たとき、あたしよりかわいいって思っちゃってたの!」

 深々と頭を下げながら、叫ぶように謝った。伝えるべきことは他にもあるはずだが、すぐ思いつくことがそれだったのだろう。お父さんとお母さんは怒ったり笑ったり一切せず、口だけを動かした。

「謝る相手は他にもいるでしょ」

 それだけだ。葉津美はよろけるように下がって、鏡を見た。羽の生えているところが広がりつつあって、少しだけマスクからはみ出ている。

「学校! 急がないと!」

 あわてて引き出しからいろいろなものを取り出し始めた。消しゴムとかエンピツとかじょうぎとか、小さなものばかり。しかしたくさん集まっていく。

「クラスにも、謝る相手が……」

 この家にも謝る相手がまだいるんじゃない? 芽衣はそう尋ねたかった。その答えは、葉津美のつぶやきを聞いていればわかった。

「アレにも……ううん、できるだけアレに頭なんか下げたくない!」

(私に謝らないでほうほう病が治るならそれでよしってこと?)

 芽衣はムッとせずにいられなかったが、今は大人しく見ておくことにした。

「ご飯食べないの?」

 お母さんは葉津美の状況が見えないかのように平然と問いかけた。葉津美は手を休めずに答えた。

「いらない! 急ぐから!」

 それに、食べるためにはマスクを外さないといけない。芽衣が考えているうちに葉津美は荷物をまとめ終えて着がえもすませ、部屋を飛び出していった。


 葉津美は荷物を抱えて学校に行った。

 早く来たので教室には誰もいない。しかし先生だのクラスメートだのと一人ずつ来て、そのたびに葉津美は駆け寄った。

「あたしより美人だって焼きもち焼いてごめんなさい!」

「あたしより男子にもてたって焼きもち焼いてごめんなさい!」

「あたしより先生にほめられたって焼きもち焼いてごめんなさい!」

「あたしよりテストでいい点取ったって焼きもち焼いてごめんなさい!」

 必死で頭を下げて、持ってきたものを差し出す。「これ、あたしがとってたの!」と付け加えながら。

「嫌がらせで盗んでたってこと? でも、どうしてあんな小さいものばっかり?」

 芽衣は手を叩き合わせた。

「お姉ちゃんは部屋で消しゴムとかエンピツを見てにやつくクセがあるんだっけ。さっきから渡してるのがそれ?」

 シロトラ様がうなずいて、芽衣はどういうことなのかわかってきた。

「大きなものがなくなると、問題になってみんなでさがさないといけない。でも、小さなものならまあいいかで終わっちゃう。そうするまではイライラするけど」

 その小さなイライラが、葉津美にはたまらなかったというわけ。

「焼きもちの相手を少しでも困らせてやった……そんなことを考えながらニヤニヤしてたんだね」

『うつわの小さい仕返しだな』

 嫉妬をする人間などその程度なのかもしれぬが、とシロトラ様がつぶやいた。

 葉津美は芽衣たちにあきれられながら謝り続けて、盗んだものも返していく。みんな答えはお父さんやお母さんと同じ。

「謝る相手は他にもいるでしょ」

 もちろん先生もクラスメートもシロトラ様の操り人形。だから同じセリフを出している。

 次に教室へ入ってきたのは二人の女子。片方がひょろっと背が高くて、もう片方が太っている。コシギンズだ。

「あんたたち……にも?」

 葉津美は二人を見ると戸惑いのあまり足を前に出したり後ろに下がったりした。

「そうか。自分より下と思ってる度合いが強ければ強いほど謝りにくいんだ」

『下と思いたい相手、という方が正確であろうな』

 芽衣とシロトラ様が話している一方、葉津美は口もとに手をやっていた。もうマスク一枚では羽を隠しきれず、二枚使っている。

 これ以上変わってしまう恐怖、そして下っ端に謝る悔しさ。それをてんびんにかけているのだろう。指をふるえさせて、コシギンズに駆け寄る。

「あたしより背が高いって焼きもち焼いてごめんなさい!」

「あたしより偉い人に見えるって焼きもち焼いてごめんなさい!」

 もしかして、お姉ちゃんって人のいいところを見つける天才なんじゃ。芽衣はそんな気もしてきた。いい方向に持っていってくれればほめ上手として好かれるだろうに、と。

 葉津美はコシギンズからも盗んでいたものがあったようで、いくつかの品を手渡して――すぐさま右手を引っ込めた。後ろ手に隠す。

 さっきまで普通だったのに、鳥の翼へと変わっていた。

『ずっとここにいられると切りがなさそうだ』

 シロトラ様のいうとおりだ。前のクラスで一緒だったクラスメートや前の担任の先生にまで行きかねない。

「あれ、葉津美さん。手がおかしくありませんでした?」

 コシギンズの片方が葉津美にそう尋ねたのは、ここにいづらくさせるためにシロトラ様がいわせたから。葉津美は逃げるように自分の席まで駆け戻って、まだ翼になっていない左手でランドセルをつかんだ。

「あ、あたし、早退します!」


 葉津美は全力疾走で家まで帰った。夢花屋に入ると、働いていたのは大森さんと小川さん。小川さんは現実だと出ていったままだが、夢なのでシロトラ様が戻らせていた。

「おかえりなさい」

 大森さんがそう告げた。葉津美は息を詰めて、ぼそっとつぶやく。

「働かせてるやつらなんかに、頭を下げるなんて……」

 自分の手を見て、心臓が止まったのかと思えるほどにびくりとする。もう右手だけでなく左手も翼だった。

「やるしかない……!」

 涙目になりながら、大森さんたちに駆け寄る。

「あたしより優しそうって焼きもち焼いてごめんなさい! そのせいでこき使って!」

「あたしよりもてそうだって焼きもち焼いてごめんなさい! 犬のフンを片づけさせて情けなくすれば、もてなくなるかなって……」

 謝り始めると、店の奥から店員さんたちがぞろぞろと現れた。ここまでたくさん一度に働くわけがない。それもまた夢だからこそ。

 葉津美はそれぞれに頭を下げて謝っていく。マシンガンのように続ける。下っ端呼ばわりしていても、焼きもちの理由になるものはあったようだ。もちろん返される言葉は「他にも謝る相手がいるでしょう」。

「それとそれと……」

 途中で立ちくらみを起こしたように店員さんたちから離れた。服の胸もとから鳥の羽がこぼれていると気づいたせいだ。

「嫌ああ!」

 あちこちを隠しながら店の奥へ飛び込んだ。廊下を走って自分の部屋に戻る。

「パパやママ、先生にクラスの子、店員……残るは……!」

 布団を頭からかぶってすすり泣く。

「アレだけは! アレだけは嫌! アレだけには謝りたくない! アレの方がパパやママに好かれてて、アレの方が客に顔を覚えられてて……!」

『やれやれだな』

 シロトラ様がこぼしたとき、葉津美は布団の中から鏡を見た。もうフクロウそのものの顔。葉津美はまた悲鳴を上げた。

「もう仕方ない! そうするしかない!」

 布団から飛び出す。翼になった手は使いにくいが、押し入れを開けた。奥の方へしまっていたものを無造作に引っ張り出す。本、包装紙に包まれた箱、貯金箱……

「あれ、私がなくしたと思ってたものだよ。好きな小説に、友だちからもらったプレゼント。貯金箱のお小遣いがやけに減ってたこともあったっけ。お姉ちゃんが取ってたの? 他の人にやってたんだし、私にもやってたに決まってるか」

 もらったものをなくしたせいでケンカになったこともある、いくらなんでもひどくない? と芽衣はシロトラ様にいおうとした。シロトラ様は、居心地の悪そうな顔をしていた。

「知ってたの?」

『うむ……すまぬ』

「どうして教えてくれなかったの……いえるわけないよね。シロトラ様から聞いたなんて、お姉ちゃんに話せるわけないし」

 シロトラ様がうなずいたとき、葉津美は集めようとしていたものを全て落とした。体はぐんぐん縮む。

 残ったのは、山となった服。その中からもそもそと出てきたものは、フクロウ。ほうほう病、というかシロトラ様がかけた術はブレーキが間に合わなかった。

『芽衣にも謝るべきだ。しかし、相手は他にもおる』

 シロトラ様があきれた様子で告げた。葉津美は鏡に映った自分にもう一度絶叫した。

「あ、あたし、フクロウ!」

 使っているのは人間の言葉。芽衣が猫にしてもらったときと同じ。

「そんな……どうして、どうしてこんなことに……」

 ポロポロと涙をこぼす。シロトラ様は冷淡に見据えていた。

 ぐるる……

 獣の低い声。芽衣はシロトラ様がうなっていると思ったが、違うところから聞こえる。

 黒いブチ模様の動物が押し入れからのっそりと出てきた。シンヤだ。舌なめずりしながら葉津美へ迫る。葉津美は翼をばたつかせながら後ずさった。

「何をする気……? やめなさい、あたしよ!」

 芽衣はキューちゃんがケガしたときのことを思い出した。シンヤのキバは意外と鋭い。

「まさか食べるつもりじゃ……いくら夢の中の登場人物でも、そこまでさせる?」

『わしが操っておるのではない。あれは本物のシンヤだ』

「どうしてここにいるの?」

『夢に入り込んだとき、シンヤは押し入れに逃げ込んでおった。巻き込んでしまっておったようだ』

 よくわからない世界に引きずり込まれた、なんて思いながら押し入れの中で困っていたのかもしれない。今はものすごくいらついているようだった。

『葉津美に八つ当たりをするつもりか』

「落ち着いてる場合じゃないでしょ!」

 芽衣が次に思い出したのは、山でシロトラ様がキューちゃんのご飯として用意した鳥。芽衣が見たところには茶色い羽と赤い汚れしか残っていなく……ゾッと身をふるえさせたとき、シンヤが葉津美に飛びかかった。キバをむいた姿は恐ろしい。葉津美はあせっているせいで逃げることもできない。気絶しそうなほどに硬直する。

 飛び出したものがいた。あせっている芽衣でも冷静に見ているシロトラ様でもない。もっと小さなもの。

「キューちゃん!」

 芽衣と違って透明じゃなくなっている。シンヤの鼻先にガブリ! シンヤが暴れても放さない。

 ツメを顔に突き立てて、後ろ足ではのどを何度も蹴る。鋭いツメがあるので、蹴ると同時に引っかくこともできる。ケガをしているのにこれだけ動けるのは、夢の中だからだろうか。キューちゃんが一生懸命だからだろうか。

「まるでお姉ちゃんをかばったみたい。まさかね?」

『そのまさかのようだ。透明ではなくしてくれと、わざわざわしに頼んできおった』

 キューちゃんと話せるシロトラ様がいうのなら間違いない。

 ケガをしたのはお姉ちゃんがシンヤをつれてきたからなのに。芽衣はそう考えて、ハッと気づいた。

「お姉ちゃんがどんなにひどい人でもキューちゃんにとっては仲間ってことかな」

 シロトラ様でさえ目を丸くしていた。

 シンヤは体が大きいわりに気が小さかったようだ。必死でもがいてキューちゃんを振りほどくと、また押し入れに逃げ込んだ。顔だけを出して、キューちゃんの様子をうかがう。外からは鼻先しか見えないが、それでもふるえているのがよくわかった。しかもキューちゃんがハーッ! とうなるなりビクッとしながら引っ込んだ。

『そうか……そのとおりであるな。どのような人間であろうと、守るべきものであることは変わらぬ』

 シロトラ様が苦笑いしていた。

『あいつから教えられたようだ。わしも神としての修行が足りぬか』

 助けられた葉津美は、キューちゃんが振り返ると飛び上がるようにしてびくついた。キューちゃんのことも怖がっている。

「仕返し……するの? やめて……」

 キューちゃんにそんなことをする様子はない。ニャーと優しく鳴いた。葉津美もそうされてようやく自分が助けられたと気づいたようで、また涙をあふれさせた。

「ごめんなさい……ごめんなさい! あたしがシンヤをしつけなかったから、大ケガさせちゃって!」

 そう告げるなり、辺りがぼやけ始めた。夢の世界が薄れていく。


      ◆ ◆ ◆


 葉津美が布団をはねのけるようにして起き上がった。額の汗や目もとの涙をぬぐうこともできないまま、薄闇の中で自分の手や体を見下ろす。あちこちなで回しもする。鏡を見つめもする。

「あたし、フクロウに……なってない……夢?」

 しばらく前と同じような言葉。今度こそ、ここは現実世界。葉津美の部屋だ。

「そうよね。あんなことが起きるわけ……ひっ!」

 葉津美がいきなり息を詰めた。枕もとに落ちていたものは、茶色い羽。

「夢……じゃない? あたし、本当に、フクロウに……なってた? ほうほう病、嫌あ!」

 葉津美は叫んで、ベッドから飛び下りた。夢の中でしていたように、棚や押し入れなどあちこちをひっくり返し始めた。

(これで作戦終了だよ)

 透明になった芽衣は、同じく透明状態のキューちゃんやシロトラ様と一緒に葉津美の様子をながめていた。もちろん羽を枕もとに置いたのは芽衣。

(あの羽、シロトラ様がキューちゃんのご飯にした鳥のなんだけどね。動物の知識がなかったら、フクロウの羽かどうかなんてわからないし)

 追い打ちをかけるようなことになったが、「ただの夢だった」と安心されては困る。

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