第20話 謀反

「何をしとるお前ら! 出動命令はとっくに出ておるんだぞ」

 僕達を見るなり怒鳴る教官に一瞬たじろいだが、敬礼して進言する。

「ああ? 何を言っとるんだ。今それ所ではないのだ。街でどれだけ騒ぎが起こってると思ってる! 分かったらさっさと行け!」

 白菊は稼働していてはマズイのでここには来ていない。僕達だけで説得しなくてはならないのだが取り付く島もない。

 しかし聞いてもらわなくてはならない、僕は怯えながらもたどたどしく説明しようとするが、セイリュウが空気を読まず割って入る。

「だーかーらー。そこ行って悪い奴やっつけりゃ。全部解決なんだってー」

 簡潔で分かりやすいけど、逆効果としか思えない。

「証拠はあるのか証拠は!」

 教官は頭から湯気を出さんとばかりに真っ赤になる。

 確かに証拠としては不十分だし、行っても何もない可能性だってあるんだ。でも……、出動とは、それはつまり。

「出動拒否は反逆罪で処罰だ。二度とは言わんぞ! ここから出て行け!」

 教官はそのまま白目を剥き、ばったりと倒れた。その後ろには手を手刀の形にした白菊が立っている。まさか……。

「局長はセイリュウの無礼な言動に怒り心頭になり、頭に血が上りすぎて倒れられたようですね。倒れた際に床で頭を打たれたようです」

 白菊は屈んで具合を見るように教官の頭に手を当てる。そのまま髪を掴んで少し持ち上げ、頭と床に空間を作ると、

「床で頭を打たれたようです」

 ゴツン! と床に頭を打ち付けた。

 念入りに気絶時間を延ばしたのか個人的な恨みかは分からないが、でも……、こんな事して。

 白菊は僕達を見据えるようにして言い放つ。

「今、社会は大人達によって壊されようとしています。今の世は先人によって作られたものです。今の大人達はその上に乗って、胡坐を掻いているだけの腑抜けです。ロボットによって便利化された世界で、腑抜けになっているのですよ。他人の命よりも金儲けや立場の保守が大事な連中です。世界を救うような英雄は凡庸の中からは現れない。いつだって世界を覆すのは新しい力、若い力、突拍子もない力なのよ。アナタ達がアークに入ろうと思ったのはなぜ? ヒーローになりたかったからじゃないの? 大人達に感化されて現実や責任感や使命感を背負うのも間違いじゃない。でもその制約が返って事態を悪化させようとしている。今必要なのは、もっと単純に人を信じる力、正しいと思った事を貫き通す力。合理的? そんなものくそっくらえよ。ヒーローになりなさいよ。今世界に必要なのはヒーローなのよ」

 一瞬、白菊の姿が主任と被った。

 そうだ。僕だって元々はかっこいいヒーローに憧れていたんだ。でも、現実はもっと厳しくて、辛くて、悲惨で、疑わしくて……。

 でも現実的に、慎重に、世間の理解を求めたから、今の現実があるわけで……。

「決めるのはアナタですよ。ワタシは便宜上反対します」

 僕が? とセイリュウを見ると答えは決まっているようにウインクしている。

「ま。ここまで来たら後戻りは出来ねえっしょ」

 そうか……、僕の一票で、決まるのか。

 一度深呼吸。

 僕は口元を引き締め、まっすぐに白菊を見返す。

「行こう」

 そう言うと思っていた、と言わんばかりに白菊はバックパックからアークブラスターを取り出す。

 ここに来る前に保管庫から持ってきていたのか。

 そして白菊は更に大きな銃を取り出す。あれは……、ライフル?

「LZ‐101カービンライフル。アーク設立前に対策部隊に持たせる予定だった物のプロトタイプです。弾頭はアークブラスターと同じですが、連射が可能です」

 ガシャッと音を立ててスライドを引く。

 頼もしいけど、いいんだろうか?

「ワタシ達以外のアーク装備の使用を禁止します。直接通信は出来ませんが、皆には撤退命令を出しておきましょう」

 その方がいいだろう。

「局長が目を覚ます前にカタをつける必要があります。急ぎましょう」

「でもどうするの? ソラのお父さんの会社って言っても表向き閉鎖されてるわけだし。尋ねていくわけにもいかないし」

 留守番が居たとしても、証拠も無しにいきなり押しかけても追い返されるだけだ。

「それも一理ありますね。確証を得るまではこっそり侵入したい所です」

 侵入してまずは証拠を押さえる。信号が送られた以上何も無いという事はないはずだが、そもそも範囲が広いので場所違いの可能性もある。

「ですが潜入して証拠を捜そうにも見取り図の入手も困難です。ミズキのアカウントは凍結されていますから」

「ハッキングできねぇの?」

「それはさすがにミズキ本人でないと」

「使えねーの。さっきは主任みたいな事言ってたくせにー」

「さっきのはミズキからの伝言です」

 本当かな。途中から主任っぽくなった気がしたけど。

「ワタシの統計では、英雄を気取って革命を起こした者の99%は、異端者、反乱者として歴史に名を残す事もなく消えていくのですがね」

 主任なら同じセリフでも笑顔でウインクしながら言うんだろう。機械的に言われると物凄く恐い。

「でもカッコよかったなー。ねぇ、もう一回言ってよー」

「ミズキから一度再生したら完全に消去するように言われています」

 それはどういう事?

「アナタ達も人間なら、AIには出来ないような方法で打開してみてはいかがですか?」

 本当に困っているようだ。でも……、

「あるには……、あるんだ」

 僕は少し言い淀んだ。

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