中編

第11話 新メンバー

 謹慎――もとい休暇が明け、数日ぶりにアーク本部に顔を出す。

 聞く所によると随分とアークの数が減ったようだ。

 やはり先の事件と似たケースはあったようで、皆人間を誤って傷つけてしまう事や、ロボットを見逃して突然襲われないかと不安なのか、脱退するメンバーも少なくない。

 バディ制の為、一人が辞めればもう一人も続けるのは難しい。不安定な所に親族の心配が加われば脱退を選ぶ者もいるだろう。

「参ったなー。これじゃ使いパシリみたいな任務も増えちゃうよなー。でもまー、その分教科実習が減ると思えばいっかなー」

 数日ぶりに顔を合わせる僕のバディにその心配はないようだけど。

 休暇明けのミーティングと診断を終え、新装備とやらのお披露目に向かう。

 まだテスト段階の為、全国のアークでもこれが支給されるのはほんの数チームの予定で、僕達が第一号なんだそうだ。

 これが普及すれば格段に正確性、安全性が向上するが扱いが非常に難しい。これからのアークが存続できるかどうかは僕達にかかっている。

 僕とセイリュウ、二人の緊張を合わせて半分にすれば丁度いいような緊張感で工場の方へ向かう。

 工場でお披露目という事は大きな装備なんだろうか。操作が簡単ならいいけど、と案内されるままに着いていくと工場を過ぎて試験場へと通される。

 試験と言っても筆記の試験ではなく、要はアークブラスターなんかを試射する為の部屋だ。

 ヘタをすると爆発する危険性もあるのだろうか、と少し不安になるが、できたばかりだから工場に近いだけなのかもしれない。

 期待と不安が交錯する中、コンクリートで固められた冷たい部屋に通される。

 中にはミニスカートに白衣の主任がいて、中央にはロボットが置いてある。

 標的にするんだろうか。それにしては廃品のように汚れていないし、フォルムも曲線的で新しい。

「お疲れ~。これから今まで以上に高性能なスキャナーの解説をするんだけど、まず今までのスキャナーの事から説明するね」

 今までのスキャナーは大きいとは言え手に持てるサイズ。いかにハイテク機器とは言えそのサイズの機械で出来る事はたかが知れている。判別する要素を絞り込む為、バージョン違いや新型への対応が難しい。

 それらを安心出来るレベルまで上げる為にはどうしてもサイズが大きくなってしまう。

「少年に取り扱えないと意味ないからね。なら仕方ない、装備そのものが自立歩行すればいいわけよ」

 自立歩行ってまさか……、と僕は直立する白い光沢を放つロボットを見る。

「そこで開発したのが自立歩行型支援ユニット、ER‐209。コードネーム『白菊(しらぎく)』」

 僕は反応に困って挙動不審になってしまう。

 主任は聞き耳を立てるように耳に手をあて、うんうんと頷く。

「ん? なになに? ロボットなんだから電源入れた途端暴走するんじゃないかって? いい所に気が付いたね」

 まだ言ってないけど、そう言おうと思った事には違いないので黙って続きを聞く。

「そもそもロボットが暴走するのは何故か? それは予めOSに含まれているアップデートの機能によってウイルスが混入し、それが外部からの信号によって起動する。それが暴走」

 OSそのものにもブラックボックスは多く、解析しようとするとユニットごと焼き切れてしまう。

 人の命だってかかっているのにどの企業もブラックボックスの開示には応じない。

「要はロボット騒ぎにかこつけて企業秘密を盗むつもりなんだとか、くっ……だらない理由がそこにはあるわけよ」

 もちろんそれは表向きで、実際には原因を調べて、もし自分の所のシステムに原因があったらその責任を追及されるからだと言う。

 ならどうすればいいか。答えは簡単で始めから全部自分で作ってしまえばいい。そして外部からの侵入も一切遮断。これには無線機すら付いていないと言う。

「世間ではそんな事は難しいと言われてるけど、難しいってのは不可能って意味じゃーない!」

 と女主任はやたら隆起した物を更に反り返す。

「すっげー。ねー主任。これ動くの?」

 セイリュウは素直に目を輝かせている。主任も普段なら「当たり前でしょ、何聞いてたの?」と怒る所なのに、今日は頬を赤らめて上機嫌だ。よほど自慢げらしい。

 ねー早く動かしてよー、とせがむセイリュウを、まあ待ちなさいと嗜めながら白衣のポケットから小さなリモコンを取り出す。

「何せロボットだからね。世間が煩いのよ。これが起動装置兼、緊急停止ボタン。何かあった時にはこれで停止できるようになってるの。電波じゃなく赤外線だから受光部を向けてないとダメだからね」

 まあ停止ボタンを使う事はまずないと思うけど、と言って距離をとる。

「暴走はしないけど完全自立型で始めて起動するから何が起こるか分からないよ?」

 セイリュウは一瞬首を傾げたが、意味を理解したようで慌てて離れる。ていうかテストしてないんだ。

 主任がスイッチを入れると、機械の駆動音と共にロボットの目に当たる部分が光を発する。

 だらんとした人形のようだった姿勢が、命が宿ったように伸びる。

 形状は中世の鎧騎士を彷彿とさせるが、ボディは金属ではないようだ。全体的にスリムだが、胸の部分が隆起しているので女性的なフォルムと言っていい。女性にしては長身なのはサイズを小さく出来なかったのか、女主任の願望なのかは分からない。騎士のマントのように見えた物は頭部から流れているので女性のロングヘアーを模しているようだ。

 間接部はゴムみたいでかなりスムーズに動く。これなら人の皮を被せればロボットだとは分からないかもしれない。

 胸には警視庁の認可をとっているマーク、腕に白い菊が描かれている。

「ワタシは特別害機対策局、戦術支援ロボット白菊。白菊とは第二次世界大戦中期から日本海軍で使用された練習機の愛称ですが、大戦末期には特攻機として使用された機体でもあります。試作型だと思って甘く見ていると痛い目を見る事になりますよ」

 女性的な音声で流暢に話す。一般人の警戒心を薄める為に女性型にしているにしては随分と攻撃的な自己紹介だ。AIの性質なのか、主任が自分の趣味に合わせて言わせただけなのか判断に迷ってしまう。

「基本は私がプログラムしたままの状態だから、これから色々と体験させて自己学習させないといけないの」

 白菊は、ずいっと主任の方に向き直り、スピーカーから音を発する。

「ミズキ。アナタはワタシに子供のお守りをしろと言うのですか? こんな子供にちょっとやそっとの体験をさせたくらいで一人前に育て上げる事など、ワタシには約束できません」

「いや、この子達じゃなくて、あなたが学習するのよ。この子達はもう何度も任務をこなしているベテランよ」

「ワタシはこれまでに一万六千回のシミュレーションを成功させています。このシミュレーション結果は実戦と同等の成果を期待できます。ミズキのプログラムしたシミュレーションシステムに不備などありえません」

「それもそうね。じゃこの子達の教育をよろしくね」

 何を言い負かされてるんだこの人は。

 ていうか創造主を呼び捨てにするんだ、とか他にも突っ込みたい所もあったのでそのくらいは気にしない事にする。

「さっそく、一つ任務があるから試運転を兼ねて行ってきて頂戴」

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