前編
第1話 羽ばたき
ポォン!
自室のパソコンを食い入るように見つめていた僕は、着信音とほとんど同時にメールを開き、ごく短い文面を何度も何度も読み返す。
ぐっ……と強く歯を食い縛り、拳を握り締める。
「いいい……」
しばらくの間、息も吸わずそのポーズを続けたが、やがて爆発するように両手を上に振り上げた。
「…………ぃやったぁぁぁ!!」
部屋を出て、階段を駆け下りると玄関から外へ飛び出す。
両手を振り上げ、そのまま渾身の叫び声を上げようとしたが、突然目の前に現れた人影に抱きつく形になった。
この時間、僕の家に来る人間は一人しかいない。僕はそのまま相手を抱き上げるようにくるくると回転する。
「ちょっと! 止めてよ。降ろしてトモ!」
抱え上げられた人影は、女の子らしい甲高い声を上げながら僕の頭や肩をポカポカと叩く。
僕は女の子を降ろし、向き合うように肩に手をかける。
「やったよ! 審査通ったんだよ」
「審査って、前に言ってたバウンティハンターの?」
ちょっと違うけど、まあ似たようなもんだ。
「試験を受けられるようになっただけでしょ?」
ぶすっとした顔で応える女の子は名木橋(なぎはし) 宇宙(そら)。宇宙と書いてソラと読む。お隣さんで僕の二つ下の14歳。
肩に届くかどうかというくらいのサラサラ髪に、くりっと大きな目をしている。
体型は……、正面から抱きついても大した感触はない。
僕よりも小さいくせにいつも上から目線で世話を焼いてくる。
今回のこのハンターみたいなヤツの応募も始めから反対のようだった。
まあ、女の子が危険に飛び込む男を心配するのは当然だ。
「おじさん達の留守中に、アンタが危ない事しないように見ててくれって頼まれてるんだからね」
いつもの世話焼きに歯を見せて笑い返す。
僕の両親は海外に赴任中だ。すぐに帰ってくるけれど、その間はソラの家でご飯を食べさせてもらっている。ソラの家も母子家庭で大変なのに面倒を見てくれているんだから、僕は彼女達に逆らえない。
「大丈夫。『アーク』は公的に認められている機関なんだ。入れるのは名誉な事なんだよ」
「授業の免除が目的でしょアンタは」
僕はエヘヘと照れたように笑う。
確かにそれもあるけれど、今は学校もマトモに機能していない。そう、僕は皆が安心して学校に通える社会を作る為に頑張るんだ。
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