ハイブリッド・エンジェル -中性無機質の天使-
九里方 兼人
ハイブリッド・エンジェル -中性無機質の天使-
プロローグ
「くたばれ機械野郎!」
怒声と激しい金属音。
住民の避難した街中で、男が鉄サビのあるロボットを斧で殴打する。
掴みかかろうとする金属の腕を斧で打ち払い、首関節などの装甲の薄い部分に刃を突き立てる。
ロボットは膝関節を折られて倒れたが、そこを更に踏みつけ、そのボディに斧を叩き降ろす。
「ロボットの分際で人間サマに逆らいやがって。思い知ったか」
ロボットはもがくように手足を動かしていたが、間接部分の駆動系を破壊されているのか動きが小さくなっていく。
「おいおい、あんまやりすぎんなよ。武器が折れちまうぞ。もう十分壊れたろう」
周囲から、それぞれ自分の破壊行為を終えた男達が集まってくる。
「いーや、こいつらは生物じゃないんだ。完全にバラバラにするまで安心できねぇ」
男はほとんど動かなくなったロボットに斧を叩きつける。
刃で斬るというよりは鈍器で殴りつけるように殴打していたが、たまたま刃の角度が絶妙になったのか、ロボットのボディが割れて刃がガッチリと食い込んだ。
「ちっ」
男は斧を引き抜こうと握りに力を込める。ロボットは接触の悪い機械のように動き出しては止まりをガクガクと繰り返していたが、突然その腕が斧の柄を掴んだ。
まだ動くぞ、と周りの者が慌てる。
「な!? くそ、放せ!」
男は体を大きく前後に揺さぶり、その勢いで斧を抜こうとする。
「おい、止めろ! 斧を放せ。離れろ!」
周りの者の制止も聞かず、男は渾身の力を込める。
ロボットはゆっくりと首を上げると、男と目を合わせるような位置で動きを止めた。
ザリッ、と何かを言おうとするようにロボットの口にあたる部分からノイズが発せられる。
その瞬間、ロボットのボディは爆発して弾け飛んだ。
「ぐわあぁぁっ!」
男は顔の半分を手で覆って仰け反り、血を周囲に撒き散らす。
大爆発ではないが、顔の前で爆発が起きた為に、斧やボディの破片をまともに顔面に受けたようだ。
「大変だ」
「おい、しっかりしろ」
周りの者も恐慌し、のた打ち回る男を取り押さえる。
「応急処置しないと……。手を放せ。傷を見せろ」
皆必死で男を宥め、ゆっくりと顔を覆う手を放させる、が周りの者は一斉に凍りついたように息を飲んだ。
「……なんだこりゃ」
皆はゆっくりと男から離れる。
「お、おい。なんだよ。どうしたんだよ」
応急処置をしてくれるのではなかったのか? と男は戸惑いながら皆を見る。
「おい、早くしてくれよ。バイキンが入っちまうだろ」
そんなに酷い顔になっているのか? 整形しようがないほどに? それとも助かりそうにないのか?
さまざまな思いが頭の中を駆け巡るが、周りの者の様子はそのどれとも合致しない。
皆は驚愕したように手に武器を構えている。
男は周囲を見回し、ショーウィンドウに駆け寄ってガラスを覗き込んだ。
そこには削げ落ちた肉の中から金属の骨格を覗かせる男の姿があった。
隙間には配線が伸び、眼球の代わりにレンズが動く。明らかにロボットのそれである。
男は反射的に顔に手をやる。その動きは左右が反転している以外、完全に男の動きと一致していた。
男は後ずさり、皆を振り向く。
「おい。こりゃなんだ!? どうなってるんだ? 俺は……」
助けを求めるように皆に手を差し伸べるが、彼らの視線は仲間に対するものではなかった。
その目は、ロボットに対する敵意、騙されていた事への怒り。
「待ってくれ。俺は人間だ、人間なんだ。その証拠に、……証拠に。……証拠。……ああ」
男は絶望したように膝を付き。その周りを皆が囲う。
皆は武器を持つ手に力を込め、ゆっくりと包囲を狭めていき、そして一斉に腕を振り上げた。
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