第6話 対決

 一週間後。


 闇格闘技界の闘技場のチャンピオン席で、相堂は悠然と構えていた。

 その反対側、対戦者席では、覆面をした複製体とあづさがいた。

 複製体は覆面越しに唖然とした顔をして、自分と同じ顔を持つ相堂を見つめていた。


「……あ……あづさ……あ……あいつ……?」

「そう。直人が斃さなければならない男とは、貴方自身よ。

 ――だけど、あれは人間ではないの。あれは――」


 あづさは相堂の方に振り向いて睨み、

 

「人間の邪悪な心で固められた一匹の修羅。――貴方が『神』になる為に捨てなければならない存在なのよ!」


 相堂はそんなあづさの声に応える様に不敵に笑って見せた。


「本日の試合……ナオト・ソードーVSナオト・ハヤカワ!

 賭け率は2対18。繰り返します、本日の――」


 無感情な音声合成のアナウンスが響く中、場内の観客の声はいつも以上に沸いていた。


「あのハヤカワとか言う奴、何者なんだ?」

「儂も知らんよ。相堂に負けない良いガタイはしてそうだが、実績がないんじゃ、あいつに賭けるのはえらい冒険だ」

「賭け率も最低じゃないか」

「ああ。何で相堂はあんな馬の骨と勝負する気になったんだ?」


 そんな観客の戸惑いの声を耳にしながら、あづさは隣にいる複製体を顧みた。複製体は不安げにあづさを見た。


「……あづさ……」

「闘いなさい、直人!」

「……だけど……」

「――へっ! 何、ビビってんだよ?」


 未だ戸惑う複製体を見て相堂は嘲笑し、


「母ちゃんにおっぱいでも強請ってんのか?」


「――くそっ!」


 複製体は相堂の嘲笑に憤怒して振り向き様に睨み付けた。


「それとも、試合に勝った時のご褒美でも強請ってたか?――いい身体しているからな姦りたいんだろ?」


 相堂の言葉に、複製体とあづさははっとなる。


「へっへっへっ! 図星か。本当、イイ女だぜ。俺が保証してやるぜ」

「――」


 それを聞いた複製体は慌ててあづさの方を見た。

 あづさは複製体から顔を反らし、唇をかみしめた。


「……そんな……?!」


 あづさは身体をわななかせ、握り拳を造ってそれを胸に置いた。


「……殺して」


 あづさは小声で呟く。そして次の瞬間、大声で泣き叫んで、


「――殺して! あの獣を殺して!!」


 あづさの絶叫に、複製体は相堂の方へ、憤怒の相を向けた。


「わかったよ――お前を殺してやる!!」


 カン! 複製体の罵声と同時に、試合開始のゴングが鳴った。


「やっと殺る気を出してくれたな!」


 嬉々とする相堂は、突進して来る複製体とリングの中央でがっぷりと組み合う。

 相堂はほくそ笑みながら、複製体の両手を払い除け、透かさず複製体の脇腹に蹴りを入れる。

 複製体は蹴られた脇腹を押さえてマットの上に膝を落とす。

 すかさず相堂は複製体の背後に廻り、両腕を彼の首に回してスリーパーホールドを仕掛けた。

 複製体は相堂の腕を外そうと必死でその腕を掴む。


「おらおら、どうした?あづさに特訓されたんじゃないのか?」

「……う……煩い!」

「よう。お前、あづさと寝たのか?」


 複製体は苦悶の中ではっとした。

 相堂にはそれで充分だった。


「……ふん。まあ、無理もねぇなぁ。あんなイイ身体した女、今までお目にかかった事がねぇしな」

「――?」


 複製体は苦悶の中で背中に異物感を覚えた。


「おっと、いけねぇ。あいつの身体を思い出すと、こんな血なまぐさい場所でもおっ立っちまうぜ、へっへっへっ!」

「っの獣野郎がっ!」


 複製体は相堂にスリーパーホールドを掛けられたまま勢いよく立ち上がった。

 そして前のめりになり、相堂の身体を背負い投げした相堂は複製体の強引な返し技に驚き、抵抗出来ずに投げ飛ばされる。

 その際、複製体のマスクが外れ、素顔がさらし出された。

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