第5話 殺意

 複製体は膝をついたままあづさに抱きついていた。あづさも愛惜しげに複製体を胸に抱き締めて沈黙している。


(たとえ、あの男と互角に戦える力を持てても……複製体はあの修羅に勝つ事は出来ないわ。

 ……余りにも優し過ぎて、相手を殺す事なんで出来ないでしょう)


 あづさは唇を噛み締め、悲痛そうな表情をして複製体を抱く腕に力を入れた。


(……でも、百パーセント勝てない訳じゃない。この複製体があの男を殺す気になれば……)


 突然、あづさは複製体を抱き締める両手を解いて彼から離れた。

 そして、複製体の両手を取り、複製体のきょとんとする顔を涼しげに見つめた。


「……直人。一週間後、貴方はある男と闘います。

 相手は愚かにも『神』になる為に、貴方を殺そうとするでしょう」

「えっ? どうして?」


 あづさは軽く深呼吸をし、


「……それは、貴方はこの世界中で一番無敵の肉体を持った男だからなの。

 その男は貴方を斃せて始めて『人間』を越える事が出来ると信じているのよ。

 ――だから、貴方はその男を逆に斃さなければならない。

 なぜなら、貴方は人智の粋を集めて造り上げられた『新たなる人間』だから……貴方こそが、本当に『神』になるべき存在なのよ!」


 複製体はきょとんとした。


「……僕が……神に?」


 複製体は俯いて戸惑い、


「……でも……僕には、そんな……」

「……ええ。貴方は優し過ぎる。きっとあの男を殺す事を躊躇うでしょう――見て」


 あづさは白衣を開けて、懐に忍ばせている拳銃を見せた。

 複製体はそれを見て思わず瞠った。


「それって……たしか拳銃、って……」

「そうよ。この銃は、貴方が戦う事を拒否した時に使え、とあの男が言って、あたしに渡したものよ。

「――」


 複製体は絶句した。


「わかった? あの男は手段を選ばない。……そんな獣に『神』の名を名乗らせてはいけないのよ!」


 そう言ってあづさは突然、白衣を脱いだ。

 銃の納まっているホルスターと一緒に床に置き、上着を脱いで上半身はブラジャーだけになった。


「……また……どきどきする……病気が……」


 複製体は堪らず赤面して顔を背ける。


「……病気じゃないって言ったでしょ?」


 あづさはくすっと笑い、


「貴方は人間だから、他の人間を愛するとそういう風になるのよ」

「……愛する……?」


 浮かされた様に訊く複製体を前に、あづさはブラジャーを外し、複製体の右手を取ってそれを露になった乳房に押し付けた。

 あづさの乳房に触れている複製体の右掌は、初めての柔さにまるで怯えているのか震えていた。


「……あたしを愛しているのでしょう?」


 艶めかしい顔をして訊くあづさの顔から表情が消えた。


「――なら、あたしをあげる」

「え――」

「あたしを抱きなさい。あたしの体を貪りなさい! だから! あの男を殺して、代わりに貴方が『神』になりなさいっ!!」


 あづさは複製体を睨む。浮かされた顔をする複製体は何も言わず、震える右掌でゆっくりとあづさの乳房を揉み始めた。


「そう……よ……」


 あづさは空いていた左手で、いつしか起立していた複製体の股間をさすり出す。


「ちょ、ちょっと――」

「いいから……ふふっ」


 そしてあづさは複製体のパンツに手を掛け、その中から滾る塊をむき出しにした。


「駄目、これは」

「いいのよ、気持ちよくさせて上げる」


 あづさは淫らな笑みを浮かべる。

 先ほどまでこれと寸分違わぬ同じモノに無理矢理犯されて嫌悪さえしていたはずなのに、今はこの上なく愛おしかった。


「――っ!」


 あづさは半ば強引にそれを口に含む。思わずのけぞる複製体。

 舌の動きが淫らに動き、複製体のモノを次第に堅くしていく。


「だ……だめ……こんな……」


 複製体は初めての感覚に涙まで浮かべて動揺する。

 あづさはそんな複製体を目で見て微笑む。

 同じ肉体が、同じ顔が、先ほど自分の心と体を蹂躙していたハズなのに、今では完全に主従が逆転していた。まるで道化である。


「だめ……あづさ……はぁ、はぁ」


 複製体の息が次第に荒くなっていく。その気になれば力づくで自分を押さえつけられる力を持つ男が、抵抗する事すら忘れて完全に舌先の快楽に溺れてなすがままでいる姿が、あづさにはたまらなく快感だった。


「あ……あ……なんか……なんかおしっこ出る……駄目……駄目……」

「いいのよ……好きな時に、好きなだけ吐き出しなさい……」

「んんんっっ!!」


 熱くたぎる複製体のモノが弾けた。白濁が興奮で上気するあづさの顔と舌に飛び散った。


「ああ……素敵……」


 あづさはこびりついた白濁を指先でぬぐい取り、美味しそうにくわえて飲み干した。


「……まだ……もっとよ……もっと気持ちよくしてあげる」


 あづさは妖艶な微笑を浮かべる顔を、少し興奮し始めて紅くなる複製体の顔に近付け、ねっとりと唇を重ねる。

 複製体は口づけしたまま、あづさの身体を静かに押し倒して伸し掛かり、彼女の身体を貪り始めた。


(相堂直人。貴方は決して『神』にはさせない。なるのはこの子と……あたしよ!)


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