第14話 傭兵ギルドと冒険者ギルド

「へ~、意外と立派な建物だな」


〈傭兵ギルド ベルメール支部〉そう掲げられた看板を仰ぎながら呟く。


 訪れた傭兵ギルドは、立派な二階建てのレンガ造りだった。入口の扉も豪奢ごうしゃな作りで、窓には貴重なはずの硝子がらすめ込んであった。


「傭兵って、そんなに儲かるのか?」


 啓悟はボソリと感想を漏らしながら、豪奢な扉を開けて中に入る。

 ギルドの受付は、地方等でよく見掛ける役場のカウンターのようだった。

 しかし、その様な感想以前に、この受付には致命的な欠点があった。

 そう、そのギルドの受付に座っているのは、愛想も人相も悪いムサイオッサンが座っていた。

 それを見た啓悟は、自分がここの責任者だったら、取り敢えず横柄おうへいな口を利きそうな、悪人面したオッサンなどはさっさとリストラして、愛想の良さそうな妙齢の女性を座らせるだろうと思った。

 しかし、情報収集が必要不可欠である以上、好き嫌いを言っている場合では無いので、啓悟は仕方なく残念な受付の男に話しかける。


「少し教えてくれるか? ここで受ける依頼って、どんなのがあるんだ?」


「ふん! うちじゃ小口は扱っちゃいないぞ。最低でも商人の護衛だ。ただし、ただの商人じゃ無く、他の都市に支店を持っている、大店おおだなまでだぞ。後は隊商を組んでるなら相手するぜ。だが、それ以外なら冒険者ギルドにでも頼みな」


 予想通り横柄な口を利く受付だった。

 そして横柄なのは仕事に対する態度も同じだった。護衛一つ受けるにしても選り好みして、金になる仕事しか受け付けていない口振りだ。

 しかし、戦う事を生業なりわいとしている事に誇りを持ち、自分達を安売りしない事を身上としているかも知れないので、護衛以外の仕事振りも尋ねる事にした。


「魔獣退治とかはしないのか?」


「魔獣退治ぃ? 依頼に来たのか?」


「いや、ただ相場がどんな物か知りたくてね」


「……そうだな、ゴブリンなら一匹で銀貨五枚、オークなら一匹銀貨十枚だ」


「へぇー。………随分と儲けるんだな?」


 ゴブリン一匹程度は、駆け出しの冒険者でも、ものの十分も有れば充分に倒せる、その報酬が銀貨五枚である。銀貨五枚と言えば、二食付きの宿一泊しても、銀貨二枚おつりがくる。他の仕事と比較はできないが、駆け出しがたった十分で一日の糧を得られる、随分と割の良い仕事である。啓悟の感触から行くとゴブリンの討伐報酬は、せいぜい銀貨一枚程度と踏んでいた。


「なんか文句あるか? こちとら命張ってんだ! これくらいの報酬は当たり前だろうが‼ 大体、討伐の特別徴用で出る報酬もこんなもんなんだ。気に入らなければ余所行きな!」


 残念な受付の男は勝手に怒り出して、そう捲し立てる。

 一応は気にしていたんだと啓悟は思い、宥めるように話しかけた。


「気に障ったのなら謝る。ただ、割の良さそうな仕事だから驚いただけだ。それにしても、ゴブリンやオークでそれくらい貰えるんだったら、キンググリズリーだとどのくらいになるんだ?」


「キンググリズリーみてえな化けもんが相手となると、引き受け手が限られる。金貨二十枚が相場だが、死人が確実に出るから割に合わねえって理由で、誰も引き受けたがらねえ。討伐の特別徴用が出ても、クラン同士で押し付け合いだな」


「押し付け合いなんかするのか?」


 啓悟がそう呟くと、受付の男は嘆く様に啓悟に話す。


「高ランクのクランの連中もビビっちまってな、その押し付け合いが始まるんだよ。俺達はただ、その成り行きを見守るしかねえんだ」


 取り合いどころか、押し付け合いというのが情けない。命を張っていると勇ましい事言う割には、ヘタレ揃いの傭兵ギルドに、啓悟は呆れてものも言えなかった。

 尤も啓悟にした所で、あの熊には二連敗している。腕力で力押しする相手は、スピードと搦め手で攻める啓悟との相性は悪くない。だが二倍以上の体格と底を知らない耐久力に、更にに素早いと来ると流石に分が悪くなる。

 幾ら手数で攻めても急所を狙い難い上に、急所以外に当てても効果が薄いのでは最終的に力負けする。対策も無い訳では無いが、条件に縛られるので時と場合による。

 しかし、金貨二十枚の報酬なら、啓悟でも引き受けてしまうだろう。月並みな言い訳だが、二連敗と言っても初見では実力を測り損ね、二度目は他に気を取られてしまったからだ。こちらがイニシアチブを握ったら、何とか倒す自信はあった。

 しかし、彼らは尻込みするみたいだ。確かに戦場で生き残るなら臆病ぐらいが丁度いいが、ここまで臆病だと傭兵としては問題が有るんじゃ無いかと啓悟は思った。

 しかし一々指摘して喧嘩を吹っ掛けられるのも、下らない言い訳を聞かされるのも馬鹿らしいと思った啓悟は別の話題を口にする。


「そう言えば、あんたもクラン所属だと言ってたな。どうしてまた、アルバイトみたいな真似しているんだ?」


「ああ、俺達の様な弱小クランは、ギルドへの上納金を毎年払い切れねえんだよ。だから、ここで働いて免除して貰ってんだ」


「成程。しかし、仕事はどうするんだ? 弱小という事は人手が少ないから、一人でも欠けるとキツイんじゃないか?」


「そこは心配要らねえ。俺達の様な弱小は、大手クランの下請けで食ってるんだ。だから他の連中は、大手クランの仕事を手伝って報酬を貰い、そしてその報酬を、ここで詰める者と共に山分けするのさ」


「まあそれに、この仕事は役得もあるんだぜ。特別徴用が出ても、対象から除外されるからな。確かに設け損ねる事もあるが、キンググリズリー討伐の特別徴用が出た時なんざ、当番で良かったと心の底から思ったもんさ」


 ふと、啓悟は気になる単語を度々耳にしたので、それについて尋ねる事にした。


「さっきから何度か聞く『特別徴用』って一体何だ?」


「ああ、お前さん帝国人じゃないから知らないか………。特別徴用ってのはな。国から傭兵ギルドに出る徴兵命令だ。そいつが出るとギルドは、国が要求する人数を揃えなきゃなんねえ。勿論ギルドに登録している上位ランクのクランは強制参加、人数が足りなければ下位ランクからも募る。場合によってはクランを移籍させてでも、人数を揃えなきゃならねぇんだよ」


「帝国人以外が、クランに居た場合はどうするんだ?」


「勿論クランで欠員を出しても、そいつらは除外だ。スパイを引き込む可能性もあるからな」


 啓悟は、さもありなんと言った表情で頷きながら、更に尋ねる。


「まあ、そりゃそうだろうな。じゃあ今、特別徴用は無いのか?」


「今はねえな、と言うより、ねえ事をどいつもこいつも祈っているってのが正解だな」


「そりゃまたどうしてだ?」 


「聖魔戦争でな、一度は王都目前まで迫ったんだが、まんまと魔王とその一党に、グレイブの大樹海に逃げ込まれちまったんだ。帝国は連中に止めを刺す為に、三万の兵を繰り出して樹海まで迫ったんだが、そこから先が酷かった。殆どの部隊が魔族によって、森の中に引きずり込まれて叩き潰されちまった」


「へえ、そいつは酷いな………」


 思った以上に戦果を挙げた王国の人たちに、喝采を送りたかったが、啓悟は思った感想と違う言葉を口にした。その啓悟の適当な相槌あいづちに、受付の男は自分の言った事に、共感を貰ったと勘違いして更に続けた。


「ああ、酷いだろう? あの戦場から生還できたクランのメンバーは、どいつもこいつも荷物を纏めて田舎に引っ込んじまいやがった。上手いことやったクランの連中も居るのにな」


「上手い事ってなんだ?」


「特別徴用は一定の戦果さえ挙げてしまえば、任期満了になって戦場から離れることが出来るんだぜ。だから適当な村を襲って、無抵抗な村人を反抗したって言って殺しちまえば、それも立派な魔族退治だから戦果に勘定されるんだよ」


 下衆な笑みを浮かべて話す受付の男を、冷めた目で見下しながら啓悟は思った。


(こいつ等……、真正しんせいのクズ集団だな)


 戦場は過酷な場所である。だからこそ、非情に徹しなければならない事は啓悟とて充分に承知していた。しかし彼らの行為は、今現在の地球世界の常識に照らし合わせれば、軍法会議ものの犯罪行為であり、啓悟の最も嫌う下劣な行為だった。


「だがなあ、そうして無事に帰ってきた連中も、樹海から生還した連中の語る戦場伝説に震えあがって、クランごと国外に逃亡する連中が出る始末でさあ」


 クズ共の醜態しゅうたいを得意げに話すこの男のお陰で、ここのギルドへの興味が急速に失せて行くのを感じた啓悟だが、もう少し情報を聞き出そうと更に質問を続ける。


「今、傭兵ギルドは辞める者や、クランごと国外に逃亡する者が続出して、人手不足なんだよな?」


 啓悟の問いに、渋い顔をして応じた。


「まあな、残念ながらその通りだ。ゴブリンやオーク討伐の特別徴用が掛かっても人を揃えられねえ、こっちも困ってるんだよ」


 受付の男は心底困った表情で現状を語る。啓悟はそこまで困る以上、どんなペナルティーが有るのか興味が湧いたので、彼に尋ねた。


「人を揃えられないと、どうなるんだ?」


「不足人員一人あたりに十ゴールドのペナルティーが付く、十人足りなければ百ゴールドだな。一応基本的には、招集に応じられねえ奴から貰う事になっている」


「成程ねえ。強制的な徴兵に応えられないのなら、金を払えと言う訳か………」


「まあな、上限がギルド支部登録者数の九割以下という縛りがあるお陰で、無茶な数字上げられて、ペナルティーを徴収される心配は無いんだが………」


 啓悟は、男が顔を曇らせながら語尾を濁したのが気になって先を促す。


「何か問題でもあるのか?」


「ああ、最近赴任してきた代官がとんでもない事を言い出したのさ」


「ほう、どんなとんでもない事だ?」


「ペナルティーを招集対象外の外国人からも徴収しろと言いだしてな、外国から来ていた傭兵やクランは、潮が引く様に国外へ逃げたのさ。しかも、国境まで閉鎖して払わない者を払うまで足止めしたお陰で、このギルド支部の悪評が諸外国中に知れ渡って、今じゃここも閑古鳥かんこどりが鳴いてるって訳だ」


 男の話す内容に、啓悟は呆れた様に感想を呟く。


「払わなくて良いものを、払わさせられたんじゃたまらないものな。招集に応じられない以上は国外に逃げて、ここには絶対に足を踏み入れないのが一番だな」


「そう言う事だ。もうこのギルド支部は、あの代官のお陰で終わりさ」


 男が溜息を吐きながら呟くのを、啓悟は無感動に眺めて口を開く。


「そうか、まあ兎に角頑張れよ。それじゃ、色々教えてくれてありがとうな」


 このギルドの未来に全く興味の無い啓悟は、男の呟きに対して型通りの慰めの言葉を掛けて、今までの対応に礼を述べると、踵を返して出口に向かう。


「おう、何時でも気軽に尋ねて来てくれ」


 そして、その男の言葉を聞き流しながら扉に手を掛けると、そのまま開け放ってギルドの外へと消えて行った。



 ***



 次に啓悟が尋ねた所は冒険者ギルドだった。

 このギルドは、さっき尋ねた傭兵ギルドと違い、建物こそ大きいが、木造の二階建てになっていて、扉も両開きでこそあるが質素な物だった。啓悟は早速中に入り、室内の様子を眺めた。


 中に入って驚いたのは、傭兵ギルドと違い、半分酒場になっていた。残りの半分はギルドの受付なのだが、酒場用のカウンターの影響で少々奥まったところにあり、事務室もカウンターの奥に続く階段を上ったところにあるみたいだった。


 正面のカウンターには、受付と酒場のマスターが一人ずつ居た。受付は本来二つ有った様だが、今は一人しか居なかった。ここに居る冒険者が、酒場に居る三人組だけだった所を考えると、ここを利用する者の数が少ない事を察することが出来る。

 啓悟は受付に近づいた、座っている受付は傭兵ギルドと大違いで、合格ラインをきっちり押さえて若い女性だった。先程まで気付かなかったが、カウンターの横の壁には掲示板が掲げられていた。ただし、掲示物は極端に少ない。掲示物を確認すると、ゴブリンやオークの討伐依頼や、失せ物探しに人探し等だった。


 啓悟は掲示板から目を離し、受付の女性に声を掛けた。


「こんにちは、ここのギルドに付いて教えて下さい」


「こんにちは~、良いですよ~。どんな事を知りたいですか?」


「お察しの通り初心者なので、取り敢えずこのギルドの役目から教えて頂ければ………」


「そうですね、冒険者ギルドは、冒険者登録された人たちに、より活動し易い場を提供する為の組織です。例えば仕事の募集と斡旋、戦利品の鑑定に下取り、魔獣の出現情報や危険個所の情報の提供、冒険者のランク管理と能力鑑定などを行っています」


 啓悟は早速気になった項目を尋ねた。


「能力鑑定って何ですか? 人間の能力を鑑定なんてどうやっているのか、少々興味が有りますね」


「鑑定方法は簡単ですよ。ここに、専用の魔法紙をセットして」


 受付の女性はそう言いながら、カウンターの上に鎮座している水晶玉が乗っている台座の下のスリットに紙を差し込んでセットした。


「セットが完了すると、後は水晶玉に鑑定したい方の手の平を、張り付ける様にして置くと、紙に鑑定結果が写し出されるのですよ」


 受付の女性が、水晶玉に自身の手を翳して出た、結果の写し出された紙を啓悟に見せた。


「良いんですか、個人情報ですよ?」


「別段構いませんよ、特に隠し立てしなければならない様な事など有りませんし」


 許可が出たので閲覧してみる事にした。


〈ミアン・レスター LV12 家事スキル22 事務スキル21 タレント 特になし〉


「ミアン・レスターさんですか、あっと失礼しました。こちらも名乗らないとフェアじゃ有りませんね、私はケイゴ・クサカベです。以後お見知り置きを」


「ご丁寧に有難う御座います」


 受付の女性改めミアン・レスターは、そう言って丁寧に返して来た。

「ミアンさんLV12になってますけど、貴方も冒険者なのですか?」


「いえ、違いますよ。確かに冒険者登録をしていますけど、デモンストレーション用の特例措置ですので、冒険者の特典は付きませんよ」


「成程、じゃあLV12と有りますけど、誰でもいきなりLV12から始まるのですか?」


「ああ、其れはですね。生を受ける者は成長するでしょ、その証みたいなものですよ。生まれたての赤ん坊は、其れこそLV1から始まります。はいはいから始まってやがて立ち上がって歩き出す、そう言った過程でLVが上がるんですよ。つまり、どの程度のことが出来るか出来ないかで、LVは決まると言う事ですね。ただ、LVは能力の総合値を出すので、体力馬鹿だけど頭はからっきしの人や、その逆パターンの人よりも、体力も頭もそこそこの人の方が、LVが高かったりしますよ」


「へえ。じゃあ、スキルって何ですか?」


「スキルは、一定の仕事をこなす事が出来るかの指標ですね。これのスキル表示は、レベル20以上が対象になります。ですから私の場合は、家事と事務のレベルが表示されたんですよ。私の様に二十台なら普通です。三十を超えると熟練と呼ばれ、五十辺りから達人と評されますね」


「まあ何れにしても、調べる方法が冒険者か傭兵ギルドの特典か、軍で行われる定期鑑定しか無いので、一生知らずに過ごす人が圧倒的に多いですけどね」


 ミアンは軽く溜息を吐き、更に続けて話を続けた。


「本当は大勢の人に、鑑定を受けて欲しいんですけど、予算の関係でなかなか難しくて………」


「なぜ、大勢の人が受けた方が、良いんですかね?」


 啓悟は何故ギルドが大勢の人に、鑑定を受けさせたいのかが気になって更に尋ねると、ミアンはカウンターから体を乗り出す様に啓悟に顔を近づけて「聞いてくれます?」と迫るように言ったので、啓悟も思わずうなずいてしまった。彼女は彼の承諾を受けると、矢継ぎ早に捲し立てる様に話し始めた。


「実はうちの支部は冒険者不足で困ってるんですよ。聖魔戦争や特別徴用ってご存知ですか?」


 彼女の問いかけに軽く頷くと、彼女は更に話を進める。


「その聖魔戦争の時に行われた特別徴用で人員が足りなくてペナルティー発生したんですけど、当時の代官は除外対象の外国人からも、ペナルティーの十ゴールドを不当に徴収したんですよ。勿論拒否する者も居たんですが、国境の警備隊長と結託した代官が、国境を封鎖して未払いの者を足止めした上で、支払いに応じた者だけ出国を許可したんです。お陰で外国の冒険者は、うちの支部に寄り付かなくなってしまいました。おまけに、国内の冒険者は戦争のせいで大勢失いましたし、戦争の後遺症の影響で成り手も殆ど居ないんですよ。ですから、大々的に募集する為に能力鑑定を、ギルド加入者で無くても気軽に受けられるようにして、適性のある人を勧誘したいんです。特にタレント持ちは希少で、生存率も高いので勧誘し易いですからね」


 どうやら、冒険者ギルドの事情も傭兵ギルドと同じらしい。ここの代官は、後先を考えずに余計な事をする俗物の様だなと啓悟は思った。だが、今はそんな事よりも、彼女に見せて貰った能力鑑定用紙にも記されていた、タレントと言う言葉が気になっていたので尋ねてみる事にした。


「先程から気になって居たんですけど、タレントってどういう意味ですか?」


 彼女は先程彼が初心者であることを、ほのめかしていたのを思い出して、説明が足りなかった事を思い出して、お詫びしながら続けた。


「説明不足でごめんなさい………。タレントはですね、特殊能力と言い換えると理解しやすいですね。個々人が生れながらにして持つ固有の能力で、様々な種類の能力があって、戦闘に役立つ者も有れば、仕事や私生活に役立つ者も有りますよ。能力鑑定を行えばタレントは判明しますが、私などの様にタレントを持たない者の方が多いので、タレントを持っている人は是非とも勧誘したいですね」


「じゃあ、ランクは?」


「ランクは冒険者の方がどの依頼までなら遂行可能かの目安ですね。依頼にはそれぞれ難易度がありますが、その難易度をランクで表示します。そうする事によって、低ランクの冒険者が無謀な挑戦をして、失敗するのを防ぎます。ランクはGランクから全部で八ランクあって、最高ランクはSランクになります」


「上位ランクの獲得方法は?」


「それぞれのランクには昇級試験があって、Fランクの昇級試験は、ゴブリン通算で二十匹討伐すればランクアップ出来ます。Eランクより上はそれぞれのランクに応じて課題が出ますのでそれをクリアすれば昇級出来ます。ただし、Eランクより上は、試験を受けるランクより上位のランクの人が、立会人として必要となります。」


「試験を受けたいのに、上位ランクの人が捕まらなかった場合は?」


「帝都などにある大規模なギルドなら、定期的にギルド主催で昇級試験をしていますよ」


「上位ランクが下位ランクの依頼を受ける事は出来るのか?」


「出来ます。ただ、下位ランクの仕事が無くなってしまいますので、ギルドの支部によっては制限を掛けていますね。うちの場合だと、上位ランクどころか下位ランクの冒険者も居ない状態ですので、依頼は受け放題ですよ」


 彼女はそこまで言うと椅子に座り直し、一つ咳払いして何かの用紙を出しながら続けた。


「そう言う訳で、当支部では冒険者を募集しています。この書類の質問事項に記入した上でサインして頂ければ、直ぐにでも冒険者登録できますよ。と言うかサインして下さい! 今なら通常の特典の他に、隣にある酒場も利用し放題の特典も付けます! 何だった私とのデート権もお付けいたしますから、是非ともお願いします‼」


 必死に縋る彼女の迫力に押されながらも、何とか流されない様必死に踏み止まり、絞り出すような声で返答した。


「ひ、一先ず保留させてくれないかな? 連れも居る事だし、宿に戻って検討しますので………ね。……だ・か・ら、今日はこれで失礼しま~す!」


 啓悟は回れ右をして、殆ど逃げる様にドアを目指した。


「絶対ですよ! 出来ればお連れ様共々、良いご返事お待ちしてますよ!」


 縋るように言う彼女に、啓悟は顔だけ向けて、曖昧な笑顔を浮かべた会釈をすると、逃げる様に冒険者ギルドを後にした。

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