第2話 五月雨愛士の質問(1)

僕が世界を救うことを決断したので、早速どうやって世界を救えばいいか教えてもらう事になった。


「まず、この世界の人間達は基本的な部分ではあなたの世界の人間――つまり地球人とは変わりありません」


地球から持ってきたのか知らないが、妙にリアリティのある使い古された移動式黒板にチョークで絵を書いて説明してくれるエリ。


「違う部分はただ一つ。地球人とは違い体の中に『器』がある事です」


左右に簡単な人型を書いて、左の人型の下に「地球人」、右の人型の下に「異世界人」と書いてそう言ったエリは右の人型の中にコップの絵を追加した。


「地球人には無いこの『器』は、神からの恩恵を直接受け取ることが出来ます。そして受け取った恩恵をスキルとして実体化させることが出来るわけです」


エリはそう言ってから分かりましたか?と目で聞いてきたので、軽く頷く。


「でも、何で地球人には『器』が無くてこの世界の人には『器』があるんですか?」


ふと気になったので聞いておく。


「それは、あなたの世界における神の信仰が極度に薄まったからですね。『神は死んだ』という言葉があるそうですが、死んだ訳では無いものの力が殆どゼロに近くて全然遊べない……と愚痴っていましたよ。地球の神は」


それは申し訳ないことで。


「別に信仰が大切だとか、そんな事をクドクド説明するつもりはありません。むしろ信仰を捨てたことでより素晴らしい文明を作った地球人は凄いと思いますよ。こちら側では神の恩恵こそあるものの、文明はまだそこそこですからね」


ふむ。要するに信仰していれば神の恩恵が得られる『器』を保持出来るけど、その代わりに文明の発達速度が遅くなる……という事か。


「この『器』は信仰を持つ生命体がその世界に置いて割合が多ければ保持されます。しかし信仰が薄くなれば壊れます」


追加の説明で確信する。

多分、信仰で奇跡を起こした地球の聖人みたいな人々は『器』を持っていた訳だ。でも近代に入って信仰を捨てる人が多くなると、『器』が壊れて奇跡を誰も拝めなくなったと。


「でも、その理屈だと僕にも器がありませんからスキルが使えないって事になりません?」


「自分が一般人なのにこの世界に呼ばれたとお思いですか?」


「えっと……僕にはそれがあると……」


「はい、その通りですね」


えーー……でも僕は特に何も信仰していないんだけど……。


「あなたが『器』を持っているのは人類の残った信仰心があなたを依り代として結晶化したからですよ。本人が信仰を持っていなくても関係ありません」


さいですか。


「でもあなたは特にイレギュラー、とでも言いましょうか。『器』の大きさや性質が『神源しんげんスキル』向きなんですよ。」


「しんげん……スキル?」


「ええ、そうです。『神源しんげんスキル』です」


エリは黒板に『神源スキル持ち』と書くと、その上に新たな人型を書いてその中にビールの大ジョッキの絵を追加した。


何でジョッキグラス……。


「『神源しんげんスキル』は文字通り神の力を直接に受け継いだスキルです。神の力は強大なので、このスキルを持つ者はほとんどが強者です」


「オオーッ」


つまりチートスキルでスタート可能という訳か!!


「あなたの持つスキルは後にチェックします。実はほの世界に入った時点で既に神の恩恵として『神源スキル』を受け取っているのですが……まだ使い方も知らないはずですし、それは後ほど説明します」


「オオーッ!!!!」


もう持ってたの!?もう持ってたの!?

何だろう、凄くワクワクする。

みっともなく貧乏揺すりを始めた僕を放置して、エリは話を進める。


「『神源スキル』の特徴は三つあります」


1、神源スキルはこの世界で十二人しか持たない。


2、神源スキルで直接ダメージを相手に負わせる事は出来ない(例外あり)。


3、どんな方法をもってしても一般人では誰が神源スキルを持っているか判別出来ない。


「……という事です」


色々とツッコミ入れたい部分はあるけど、僕はそれらを放置した。

何かイヤな予感がするからだ。


考えてみよう。

強い勇者は魔王を倒すために旅をする。

正義のヒーローは裏で暗躍する秘密結社と対決する。


では、神のスキルを持った人間は何と戦うのか?


「……で、僕はこの世界で何をすればいいのでしょう」


「邪神を倒してもらいます」


…………………………え?


「邪神って弱い奴だったりしますよn」

「くそ強いですよ」


「地球に帰れたりはしませんk」

「もう約束しましたよね?」


うわぁー、レスポンスがはやくてびっくり!!


現実逃避する頭の中で、僕は早速「暇つぶしに世界救う宣言」を後悔していた。


契約書は契約する前にじっくり読むべし。


いや本当に、マジで。


「まあ、でも邪神が復活するのはおよそ一年後ですし。それまでに鍛えれば大丈夫ですよ(たぶん)。」


「そっそうですよね!!」


小声で何か言っていた気がするけど気にしない!!忘れた!!


「それにあなたのスキルは十二ある《神源スキル》の中でも異色のスキルですから、使い方をマスターすれば何とかなりますよ」


「本当ですかそれ……」


「ええ、大丈夫ですよ。私に任せてください」


説明中もずっと無表情だった顔を微かにドヤ顔?かな?にして、エリはそこそこある胸を張る。


「私は数ある神の中でも便利屋として遣わされる仲介神エクリュア。これ位の教育はお手の物です」


何だろう。今の一言で逆に凄く不安になったのだが。


「さあ、『それでは私が責任を果たしましょう』と言わせてください。決め台詞なので」


「それ決め台詞だったの!?」


決め台詞言いたがる女神とかどうよ。


「あーはいはい……どうせキャラを立てるのに必死になっているんですよね…分かりました分かりました」


ゲンナリしながら一言。


「えーと、僕が自分のスキルを使いこなすのを手伝って貰っていいですか?」(棒読み)


「ええ、それでは私がその責任を果たしましょう」


微笑を浮かべて宣言するエリ。


何だこの茶番……。


無表情キャラの癖に微笑の安さにビックリだよ。可愛いのに微妙なポンコツ具合が勿体ない。


エリの残念キャラが追加された所で、場所を移動して訓練する事になった。


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